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ボッチ、プレゼントを渡す

 ───城下街散策は続いている。

「あ、遅かったな駿。ってお前どした? なんか暗い顔してるが」

 噴水広場のとあるベンチには駿以外の五人が集まっている。

 今は駿を待っている間、五人は次の目的地を話し合って決めていて、議題がまとまった時に丁度駿がここに来たところだった。

 そのため、遅れてやってきた駿に向かって手を振った優真だったが、すぐに駿の表情が暗いことに気付いた。

「近藤君。大丈夫?」

 優真の言葉にハッとした夕香達四人の女子は、夕香を筆頭に心配の言葉をかけた。

 そんな夕香からの言葉に駿はこう返答する。

「安藤さん......今の俺は一ヶ月前の俺からどれくらい変わったと思う?」

「えっ......?」

 いきなり質問で返された夕香はつい呆けた声を出したがすぐに思ったことを口に出した。

「えっと......結構変わったと思うよ? 全体的にすっきりして......男らしくなったというか......」

 その言葉に小さく溜め息を吐いて「やっぱり現実か......この見た目は......」と呟いた。

散々妬み、散々愚痴ってきたイケメンに......俺はなってしまった......自意識過剰? 違う。自分の価値観と周りの反応を照らし合わせてみれば、俺の容姿は整っていることが確信できるんだよ! まず、前の俺は異性に見向きもされなかった......だけど......だけどっ......ここに来る前に女性と五人すれ違った結果......五人が俺の顔をチラ見してきて、挙げ句のはてにはすれ違った後も後ろからジーっと見られたりした......これもう自意識過剰から来る勘違いで済むようなレベルじゃない。嫌でも自分の容姿が変わったって分かるわっ......畜生、俺もうダメだ......愚痴れなくなってしまったではないかっ! 散々愚痴ってた相手が自分になった時......まさに今その時じゃん! この気持ちはどうすればいいんだよ!......あぁ~もうなんだか元の容姿に戻ってほしいな......太るか? 太っちゃうか? でも戦闘の足枷になることは確実だよなぁ......はぁ......イケメンは顔面裁判で有罪になってブスにされればいいのに。そしたらイケメンは自慢がなくなって嘆き、俺はブスになれるから万々歳。やったね! 一石二鳥だ! ......ざけんなっ! ボッチから卒業しつつある俺に何でこう面倒くさい方向に行かせたがるのかね運命の神様って奴はッ!

 心が闇に染まっていく駿をよそに、優真は能天気な調子で話を再開させる。

「おいどうしたんだよ? あっ、確かに言われてみればお前結構すっきりしたよな......なぁ峯崎!」

「あっ......本当だ。うん......確かに何だか近藤君がもっと格好良く───あっ!? いやいやっ! 何だかもっと大人びたっていうか......なんというか......そのっ」

 感心した優真に話を振られた伽凛は言葉を言ってる内に何故かどんどんと頬を紅潮させていった。

「前の近藤君も良かったけど今の近藤君も良いと思う」

「私も同じだよ~」

 三波と希も流れに乗ったように今の駿について感想を言った。

「もう、分かったから......もう見んな」

 と、駿は流石に恥ずかしくなったのか皆にストップをかけた。

しょうがない。これまで通りに接して行こう。俺は決して図に乗らない。あの頃の経験を生かして、奥手で行こう。勘違いもしない。俺はブス! 心は変態! 近藤 駿だ!

「それよりっ! 皆に渡したいものがあります!」

 そう区切りをつけた駿には先ほどの暗い表情は消え去り、笑顔でそれぞれのプレゼントが入った袋をごそごそと漁る駿にみんなは自然と笑顔になると同時になんだなんだと待ちわびていた。

「はい、先ずは優真。前に出る!」

「お、おう!」

 駿は袋の中から赤いチェック柄のブレスレットを優真に手渡した。

「ほい、プレゼント。これからもよろしく」

「おっ、サンクス!」

 優真は手渡されたプレゼントに素直に喜び、早速腕に装備した。

「ふふん。どうだ? 似合うか?」

「似合ってるよ~」
「近藤君。チョイス上手いね」
「浅野君赤色似合ってるね」
「うん。いいと思う」

 と、それぞれの反応を見た後、優真は再び駿に向き直った。

「駿、ありがとよ」

「どういたしまして。じゃあ次は安藤さん、前に出て」

「あ、私? う、うん」

「安藤さんはこれだな」

 次に袋から出したのは桃色の宝石が埋め込まれたネックレス。

 綺麗なカットがされおり、日に照らせば光沢が溢れる宝石が所持者を一段と昇華させるだろう。

「ネックレス......ありがとう近藤君。嬉しい......大事にするね」

 受け取った夕香は駿に満面な笑顔を浮かばせたあと、優真と同じようにその場で装着した。

 肩にまで伸びたサイドテールは全体的にキュートな印象を受け、そこに女の子らしい桃色が加わったことにより相乗効果が生まれている。

「どう?」

 夕香は皆の方に向きながら微笑むと、駿を除いて他の四人がそれぞれ反応する。

「おー......イメージ通りだな」
「可愛い! アイドルみたい!」
「これまた上手いのチョイスするね~。夕香元々可愛いから妬いちゃうな~」
「可愛くなってる! 低身長なのも加わって保護欲が擽られるね!」

「あはは......皆ありがとう」

 称賛を受けた夕香は駿からも感想が欲しいのか少したどたどしく向き直った。

 少し気恥ずかしいのか頬を赤らませながら駿に向かって首を傾げる夕香。

「どう......かな?」

 駿はそんな夕香に少し胸が跳ねたが、すぐに返答する。

「うん、似合ってると思うぞ......? 我ながらいいチョイスだな......」

 駿はそんな率直な意見を言ったが、その意見を聞けて夕香は嬉しかったのか照れ臭そうに微笑んだ。

「......そうだね。ありがとう」

「おう。喜んでくれて何よりだ。礼は要らないからな?」

「礼はするからね? いつかどっか二人で食事にいこうよ。私が奢るから」

「えっ......悪いよそんな」

「だーめ。もう決めましたから。時間はいつもちょっとでもいいから空けといてよ?」

「......きょ、強制的っすか」

「そう」

 駿は何故夕香はそんな二人で食事に行きたいのか首を傾げたが女子と二人でどこか行くのは初めてのことだった。また、もしかしたらもう人生で女子からのお誘いは来ないかもしれない......、とも思ったため、渋々だが「分かったよ」と、了承した。

「そっかそっか!」

 また嬉しそうに何度もそう頷く夕香よそに、駿は「次は橘さんだな」と、袋を漁り始めた。

「わ、私か......一体どんなのかな......」

 三波はそんな駿の言葉にドキドキしながら袋を漁る手元をジーっと見つめる。

男子からプレゼント貰うのは大勢で遊びに行った時に何度も体験してるけど......なんだか近藤君からだとドキドキする......なんだろなこの気持ち......やっぱり近藤君の前で思わず三人して泣いたときからだよね。近藤君はそんな私達が泣き止むまでずっと愚痴とかも聞いてくれたりして......落ち着くまでずっとそば居続けてくれたりもして......自分の素の一部分を知られた人だから......かな? こんなにドキドキするのは......

 三波はそう思うと、ふと駿の顔を一瞥する。

思ってたよりも優しくて......思ってたよりも男らしくて......思ってたよりも明るくて......

 ずっと無視をしてきた相手が自分に今プレゼントを渡そうとしている。

あぁ......もっと早くこうして話したかったなぁ......そしたらきっと......

 謝罪をしただけじゃ、やはり取り除けないものはある。

 それは後悔。

 三波も夕香も希も同様に、それだけはどうしても心にあり続けている。

 そんな後悔に煽られながら駿に接している今の状況は、嬉しくもあったが気持ちが悪くもあった。

 ───心に後悔という足枷が無い関係を作りたかった。

 三人はこれからも一様にそう思い続けるだろう。

 しかし三波は二人と決めたことがあった。

 今を大事にする。

 罪滅ぼしをしたい訳じゃない。

 勿論その気持ちもあるが、駿にとっても自分達にとっても、過去のことを引きずり続けながらの関係は持ってはならないと思っている。

 ───これからは友達として分け隔てなく接していく。 

 三人はそう決めたのだ。

 これは哀れみ等のそんな感情は一切なく、三人が今、一番仲良くなりたいと思ってる人は誰だとしたときに『近藤 駿』の名が挙がっただけの結果である。

 この結果もとい目標を三人は過去の過ちを忘れずに達成したいようだ。

プレゼントは......肌身離さず持っておこ......近藤君からのものだから

「───はい、橘さん。橘さんは髪飾りだけど......要らなかったら捨てていいぞ」

 考え耽っていた三波は駿の言葉にハッとして、差し出された綺麗な青色に煌めく蝶の形をした髪飾りを受け取った。

「......綺麗」

「だろだろ? 俺も綺麗だなって思ってな。青色にしたのは橘さんに合うかな~って思ったから」

 思わず口にした言葉に駿がそれを買った理由を被せてきた。

 そんな駿の言葉に「ふふっ」と、笑った三波は次には髪飾りをその艶々した茶寄りの黒髪に装着した。

「......どう? 近藤君」

 と、微笑み、三波は上目遣いで駿の顔を見つめる。

 少し潤んだ目をしながら、頬を赤らめさせている三波に駿は素直に可愛いな......と思いながら、ぎこちなく感想を述べた。

「お、おう......その......似合ってるぞ......」

 そんな駿に三波は妖艶な笑みを浮かべた三波はからかうように

「あれっ? もしかして照れてるの~?」

「てっ......照れてない! 橘さんは終わり! はいっ! 次は岩沢さん!」

「ちぇっ......釣れないなー」

「ちぇっ、じゃない。さっさと退きなさい。後で飴ちゃんあげるから」

「わーい......じゃないわ! 私は子供じゃないの!」

 と、駿にむかって頬を膨らませる三波を希が宥(なだ)める。

「三波ったらそんなに喚いたらますます子供だよ~?」

 と、人指し指をたてながら、諌(いさ)めるように言う希に反発した。

「ますますって......元々子供みたいじゃん!」

「はいはい分かった分かった」

からかいがいがあるのう......橘ちゃんは

 三波を面白そうな顔で見た駿を一瞥した隣の人物は首を傾げた。

「そうなの? 橘さん」

 と、純心に信じ込む人、その名は伽凛。

「三波は子供じゃないよ~?」

 そんな伽凛の言葉を否定した希に三波は

「えっ! ホント! そうだよね! 希は分かってる!」

 仲間を見つけたように頬を緩ませる。しかし

「三波はね~可愛い女の子だよ」

「そうだよ! ............ん?」

喜んでいいの?......それ?

 子供=女の子は確かに微妙なところである。

「───はい、微妙なところではありますが再開しま~す」

「そうしよ~」

「おいおい......」

 三波をおいてけぼりにする駿と希に優真は苦笑する。

「岩沢さんは......はい! ミサンガ!」

 黄緑のミサンガを駿の手から受けとった希は高らかに持ち上げながら破顔する。

「わぁ......ありがとう近藤君!」

「喜んでくれて良かった。どうだ? 自分で結べそうか?」

「あ、やってみるね」

 と、希はそう言って、やってみたもののやはり一人で結べそうになかった。

「うーん......」

「俺が結ぶよ。ほら貸して」

「───えっ?」

 少し強引に希の手からミサンガを取った駿は「手、だして」と希に言った。

近藤君顔近い......

「う、うん......」

 希も言われるがままに手を差し出すと駿はなれた手つきでミサンガを結び、「ほどけないようにキツく結ぶから、違和感があったら言ってよ。緩くするから」と、結び目をキツくし始める。

「あ......そのぐらいでいいよ?」

「よし......どう? 丁度良いか?」

「うん......ありがとう」

「お~似合うな。みんなどう思う?」

「似合う似合う!」
「いいんじゃね?」
「岩沢さん可愛い!」
「似合ってるよ。希」

「どうもどうも~」

 希はそれぞれ感想を言ってくる五人にはにかんだ。

「じゃあ最後は伽凛さん」

「えっ! 私の分もあるの!?」

「え? あるに決まってるよ。何で伽凛さんだけ渡さないの?」

「......っ!! ありがとう! 近藤君っ!」

「う、うん」

近藤君からのプレゼント......すごいドキドキするなぁ......でも何よりも貰えるだけで嬉しいっ! 私も何かお返ししないと!

「はい、伽凛さん。髪飾りなんだけど......」

 駿から手渡されたのは真っ白な十字架の形をした髪飾りだった。

 伽凛はそれを丁寧に手に取ると、大事そうに両手で包み込み、やがて胸へと持っていく。

 慈愛に溢れた表情を浮かべ、髪飾りを胸で抱き締めた。

「「「「「......」」」」」

 五人はそんな大袈裟に髪飾りを大事にしている伽凛に困惑したが、なぜそんなことをしているのか直に理解できた。

「嬉しいっ......近藤君っ......」

あぁ......私はなんて幸せなんだろうな......好きな人からプレゼントが貰えるなんて......

「......っ!?」

伽凛さんっ......そんなに嬉しかったのかっ!? というか......直視できない! あの笑顔をみると俺なんだか体が熱くなってくる......恥ずかしい時になるやつと同じだ......
 
 ───そんな大輪の花のような笑顔を浮かべた伽凛に駿は盛大に胸が跳ねた。

「峯崎、そんなに嬉しいのか?」

「そうだよ! 嬉しい」

「よかったね? 峯崎さん」

「うん! ありがとう安藤さん」

「......」

 赤面している駿をよそに、他の四人は伽凛を取り囲み、喜びを分かち合っているようだったが、「駿。こっちみろ」と優真に突然呼ばれて言われるがままに目を向ける。

 するとそこには───

「「「ジャーン♪」」」

 と、夕香と三波と希が言った瞬間、三人は退き、そこには照れ臭そうに頬を染めている髪飾りを着けた伽凛だけが立っていた。

「───」

 声にならないほどに、瞠目している。

 ロングストレートの黒色の髪が、対となる白色の髪飾りを引き立たせている。

 ───恥じらっているのか、駿と同じく赤に頬を染めている可憐な少女は、ふと横から吹いた爽やかなそよ風に長い髪を抑えながらやがてこう呟いた。






「───近藤君、これからもよろしくね」






 そうはにかんだ少女に駿はただ呆然と見惚れているのだった。



▣ ▣ ▣ ▣ ▣ ▣



 ───噴水広場でプレゼントを渡し終わった駿は五人を連れて、服屋に来ていた。

 理由は、そういえばと優真が「俺達って服全然持ってなくね? 俺なんて制服と訓練着数着しか持ってないわ......」と、言ったのが発端で、そこから皆もそういえば自分達もそうだと言うことになり、急遽服を買いにきたというわけだ。

「───近藤君、この服なんて似合うと思うよ?」

「えっ......いやそれはさすがに派手というか......普通の服でいいよ」

 伽凛が取り出してきたのは、黒いコートと黒いズボン。黒いシャツに......etc

「というか何で全部黒......?」

「えっ? だって近藤君ダークナイトでしょ? 髪も一切茶に染まってなくて真っ黒だし......もしかしてダメだった?」

「いや、その......」

 駿は今一度伽凛が持ってきた服を分析する。

まぁそうだな......ズボンは黒でいい。シャツも黒でもまぁ許容しよう。だけどなぁ......なにこの厨二満載の漆黒のコート! 絶対着たくないな......うん。でも伽凛さんがこうして悩んでる俺を見ながらね? 自分の持ってきた服が気に入らなかったのかな......みたいに心配そうに見てくるんだよな。しかも、上目遣いで........................よし、買うか

「ありがとう伽凛さん。これ買うよ」

「ホントっ!? そっか~......よかったぁ......もし気に入れてくれなかったらどうしようかなって思ってたんだよね......」

うわ~......買うの否定してたら何だろうな......すごい落胆してる伽凛さんが見えたわ。......まぁ服に関しては買ってしまったが、指ぬきグローブさえ無ければ───

「あっ、近藤君! 渡し忘れたものがあったんだけど」

「へ?」

「はい、グローブ」

はい、フラグ回収お疲れさまでーす!
 





────三十分後




結局、伽凛さんと別れたあと白色の同じような服のセットを買った訳だが......これで黒一色ではなく、下(ズボン)から黒、白、白という風にバラバラに着ていけば多少は大丈夫なはずだ......

「皆も買えたか?」

「おう」

「私たちもオッケーだよ。伽凛さんも買えた?」

「うん」

「じゃあ次は武具店に行こうよ。今の鉄の剣とかの武器じゃ心許ないし、何より防具をなにも装備してないってことは不味いしな」

 駿の言葉に皆に異論はなく、服屋から次は王都一と名高い『ビッセル武具店』に足を運びのだった。

しおり