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ボッチ、賭けに出る

 屋敷の一室では、剣戟が続いていた。

「......っ」

 三人による猛攻。

 ルリアやメイド達が固唾を飲んでそれを見守っている。

 長剣を握っている駿の手は、三方向から容赦なく襲いかかる剣を受け流すのに精一杯で悲鳴を上げている。

「おいおいどうした糞餓鬼ぃ? それじゃあいずれお前の体が持たないぞ~?」

 男はそんな嘲笑を浮かばせながら、豪速の剣を駿に浴びせ続ける。

「くっ......」

 他の二人も男には及ばないものの、なかなか実力が近い。

 駿は男からの迫り来る刃を長剣で受けつつ、体を反らして二人の斬撃を回避する。

 数的不利のこの状況はまさに初戦闘の駿にとっては最悪だった。

少しでも判断が遅れると......死ぬっ......

 戦いでは、実力もそうだが経験も物を言う。

 例え実力が拮抗しているとはいえ、周囲の物を活用したりすれば好機が見出だせる。

 数的不利な状況も覆せることだって出来る筈だが、駿は圧倒的に経験が少ない。

 このままでは男がいった通り駿の体は持たないだろう。

「シッ......」 

 駿は一旦三人による同時攻撃を切り払いながら後ろへ跳躍する。

ふぅ......実際三人には同時に攻撃してほしいんだけどな

 駿はそう溜め息をつきながら、疲れていた右手を長剣の│鐔<<つば>>から放し、数秒間ブラブラさせる。

「......何休んでんだよ? 休ませねぇぜ!?」

 男はそう言いながら、斬りかかってくる。

 駿は慌てず、剣の刀身に左手を添えて横向きにした。

「【闇よ───瞬く間の視界を奪え───堕目(ダウンアイズ)】」

 その高速詠唱によって、駿の胸から黒いオーラの塊が高速で男達の頭を襲った。

 男達の頭の中にその黒いオーラが入ってきたと思った瞬間に、体に異常が起きる。

「く、糞っ!?」
「何も見えねぇっ!?」
「これは闇属性魔法かっ!? こうしてる間に───!?」

 男達は目を開けている筈だが駿が放った闇属性魔法によって三秒ほど一時的に失明した。

 そして、男たちに視界が戻ると、至近距離に駿が袈裟で構えていた。

「しまっ......ぐあっ!?」

 駿は一人の男の顎を思いきり鐔でブローをし、その男も脳が物凄い衝撃で揺れ、そのまま気を失った。

「......っ!」

 隣で真隣で気を失った仲間をみた瞬間、男はそのままそばにいる駿に向かって大きく薙ぎ払う。

 駿もそれを予想していたのか、直ぐに後ろへ跳躍、回避した。

二人やった......あと残り二人!

 そう思いながら、長剣を強く握りしめた。

 駿は今のような一撃離脱(ヒット&アウェイ)がこの実力が上の男達に有効だと感じ、念じるように目を瞑りながら、次にはこう唱えた。

「【闇精霊よ───我の足に漆黒の疾風の加護を───鉄靴(グリーグ)】」

 そして続けざまに

「【闇精霊よ───我の腕に漆黒の疾風の加護を───籠手(アーム)】」

 すると、駿の足と腕により濃い黒いオーラが纏まっていく。

「っ......気持ちわりぃ付加魔法を使ってんじゃねぇ!」

 男はそんな駿に向かって地面を蹴り、一瞬で肉薄する。

貰ったぜ......!

 男はそうニヤリと笑みを浮かばせながら、依然として目を瞑って剣を構えている駿の首の付け根を狙って、横に一閃をかました。

 しかし

───ブンッ

何!?

 男の剣は空を斬っていた。

捉えたはずだ......なのにどうしてだ!?

 そう、ちゃんと捉えたはずだった。

 実際、男の剣は振った直後に、その豪速によって首の間近まで迫っていた。

 駿もその時動いてなかったことを確認した男は、完全に捉えたはずだ。

 しかし、斬った直後にはそこに駿の姿がなかった。

 つまり、男は最初から駿の残像を斬っていたことになる。

 驚愕した顔をしながら、男は辺りを急いで見渡す。

あいつどこ行きやがったッ......!

 男はそう思いながら、目を細めた。

「っ......!?」

 瞬間、男の後ろからただならぬ寒気が襲う。

 冷たい殺気に男は思わず避けるように前に飛び込んだ。

 すると、後ろからブンッと何かが恐ろしい速さで空気を斬ったであろう風切り音が響いた。

 男はそのまま前転し、その勢いのまま立ち上がり、風切り音がした方向に剣を向けて振り向く。

「餓鬼......お前どういう芸当か魔法を使ったか知らんが調子に乗るなだけ伝えておく」

 男は冷や汗をかきながら、振り向いた先で剣を袈裟に振り切っていた駿に忠告する。

 駿はまた構い直してから、落ち着いた声で返答した。

「芸当でも魔法でもありません。言うなればスキルの一種です」

「はっ......思い切り詠唱してたじゃねぇか。シラを切ってるんじゃねぇよ」
 
「本当のこといってるんですけどねぇ......しかもまた調子に乗るなとかなんとか言ってますけどそれ口癖なんですか? そんな人聞いたことないですよ?」

 駿はうわぁー、と何か引き気味な顔を男に向ける。

「あぁ......? てめぇぶっ殺してやる」

 男はそんな駿に憤り、男は地面を蹴った。

 駿も向かってくる男に対して剣を上段に構え、再び戦闘が始まった。

 男は下段に持っていた剣を駿が間合いに入った途端に斜め上へと切り上げた。

「......っ」

 駿は切り上げられた剣筋を体を捻らせて回避、そのまま回転し隙が出来た男の腹へ一閃した。

「ちっ......」

 男は舌打ちをしながら一旦後ろへ跳躍し、また駿へと猪の如く剣を突き立てながら突進した。

「【火よ───求めるは燃え盛る炎の海───煉獄の海(シーオブフレイム)】!」

 駿は突進をしてくる男に対して、目の前地面を詠唱の通りに火の海にした。

「甘いんだよッ!」

 男は駿の突っ込んでくる自分に対しての対策に醜悪な笑みを浮かばせた。

俺がなんで身体強化したか分かってやってんのか? バカだなぁ!?

 男はそのままスピードを落とさずに駿が生成した火の海に向かい、そのまま七メートルほどのジャンプで火を飛び越えた。

 その勢いのまま駿に向かって落下攻撃をするために、男は剣を振りかぶって力を込めた。

「あ?」

 しかし、火の海を抜けると詠唱を完成させた駿が構えていた。

「【───地獄の業火(ヘルファイヤ)】」

 駿がそう口にすると、闇の燃え盛る業火が空中の無防備な男に向かって一直線に飛んでいく。

 そのまま、空中で爆発する。


ドオォオオオオオオオオン......!

 そんな爆発音が部屋に大音響した。

「っ......」

あの魔法は......!?

 ルリアやメイド達も余りの大音響に耳を塞いだ。

闇属性魔法と火属性魔法の混合初級魔法だから......あまりダメージに期待しない方がいいな

 駿は黒煙をじっと睨み付けながらあの男について再確認を開始する。

にしてもあいつ......口だけじゃなく結構強いぞ。身体強化してる上攻撃の速さも力もあいつの方が上。敏捷はどっこいどっこいだから......速さで圧倒できれば行けるか? でもこれ以上ダークナイトの契約霊である闇精霊の力を借りると魔族に堕ちる可能性が増えて危ない......賭けにまだ出るには早いか

 駿はそう歯がゆく思いながらも依然として黒煙が立ち籠っている場所を警戒する。

「───」

 刹那、黒煙を突き破ってくる影が二人、駿を挟み込むように突撃してきた。

 右には男。

 左には先程まで駿と男の戦いを呆然と見ていたもう一人の男。

 二人とも剣に、闇属性の対である光属性の白く光輝くオーラを纏っていた。

恐らく、光属性を剣に素早く付加(エンチャント)させて【ヘルファイヤ】を剣で防いだってところか......

 ───光属性と闇属性には大きな特徴が二つある。

 火、水、樹、土になにも弱点が無く、それでいてその四属性等に対する与える損害が大きいことと、光と闇は対であることから、互いに与える損害がかなり大きいということだ。

 そもそも付加(エンチャント)とは属性魔法の力を借りて武器や自身に特別な力を与えることを指す。

 ということは、普通の剣と光属性が付加(エンチャント)されている剣とどちらが力強いかというと当然、光属性が付加(エンチャント)されている剣に決まっている。

 魔法の力はそれほど強力で付加(エンチャント)するときに魔力を注ぎ込むほど自然と攻撃速度と破壊力が増し、またその属性の相性がいい時ではより、その効果が倍増になる。

 強力な付加(エンチャント)武器を扱っている敵と対等な強さを得るために駿が次に取るべき行動は同じだ。

「【闇属性───付加(エンチャント)】!」

 駿は多めに魔力を長剣に注ぎ込み、男達の白く光輝く刀身のように、長剣の刀身に黒い光が灯った。

「やったはやったけど......これで対等になるはずはないか......」

「はっ! 諦めろ! 光が二つに、闇が一つだったらどっちが勝つか分かるよなぁ!」

 しかし対等な力を得たとしても、数的不利には変わりなく、結果的に一対二の状況では力負けする。

「断ります、よっ!」

 駿は挟み打ちする男達にそう言いながら二方向から迫る斬撃から横に大きく転がり避けた。

不味いな......

「さっきまでのように剣で受けないのか? ま、そうだろうなぁ! だって二人からの光属性付与している武器の攻撃に、一人の闇属性付与している武器が耐えられなくなっちまうもんな?」 

「っ......」

あぁくそ。あれほどまでうざったい顔見たのはじめてだな畜生......でも男の言ってることは事実だ......二方向から一気にこられると折角付与した闇属性が解けて終いにはその衝撃と突然の付与魔法解除でかなりの負担を被っているこの剣がいつ折れてもおかしくないんだしな......でも後一分ほどでこの不利な状況は覆される......が

「はああああ......」

 大きく長い溜め息を着いた。

「......あぁめんどくせ」

「......あん?」

もう敬語疲れるわ......てかなんでこんな糞野郎に敬語使ってたんだ? 俺?

「うるさいやつらだ。チンピラって本当に見てて腹立つ」

こんな奴等......俺が一人で倒してやる......初戦闘で賭けに出て

「ここから逆転してみせる。いや、する」

 駿のその言葉に男の口がつり上がる。

「はぁ~ん。じゃやってみるんだな? まぁ結果は目に見えてるけどな」

「───あぁ確かに結果は目に見えてる」

 不敵な笑顔を浮かべた。

「敗けを認めてるのか? 降伏ってやつか? おいおい情けないやつだなぁ!?」
「はははははははは!」

 男の嘲笑を聞いた後、隣に居た男も釣られた。

 しかし

「いや、お前らの負けっていう結果が見えたってだけだ」

師匠が直にくると思うけど......そこにいるメイドさん達があの師匠のバーサーカー振りを目撃してしまう前に倒しておきたいという理由もあるからな......

 駿はそう言った瞬間、剣を高らかに上げながらこう詠唱し始めた。

「【闇の精霊よ───契約に従いさらに我に重厚なる漆黒の鎧を────上級(エリート)闇騎士(ダークナイト)(アーマー)】」

俺は賭ける───成功して人間か




失敗して魔物になるか───

 屋敷のとある一室で、駿は人生最大の賭けに出ようとしていた。

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