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#03-03

『了解、。ありがとな、黒田』
「別に良いですよ。一年以上学級委員をやってるんですから。先生に使われるのは慣れてます」
『そうか。それはそうと、天野に何か変わったこととかあったか?』
「変わったこと・・・ そういえば、天野の家に入ったとき、なぜか天野の部屋でもてなされましたね」
『部屋ぁ!?その後は!!』
「急に興奮しないでくださいよ。別に何もなかったですし」
『なんだよ~。お前男ならそのチャンスを逃すなよ』
「・・・前々から思ってたんですけど貴方教師ですよね?」
『当たり前だろ。それに私から教師をとったら、何が残ると思うんだ』
「未成年に不純異性交遊を進める変態、って感じですかね」
『あのな、教師って言う生き物は、大抵生徒の色恋沙汰に興味津々なんだよ』
「言い切らないでくださいよ・・・ ともかく、もう切りますよ」
『おう、明日も元気にこいよ』
 彼女がそういうと、通話は終了した。
 そんな訳で、今日の報告は終了だ。
 しかしあの教師()はまったく。
「なあ、姉ちゃんはどう思う?あの蛇を」
 ・・・・・・・・
 返事なんかあるわけ無い、か
 まあしょうがない。
 あの姉は気まぐれなのだ。
 だけど、いつか楽しく話せるように、そんな風になりたい。
 線香に火をつけると、姉の遺影に向けて二回、鈴を大きくならした。


 俺の話をする気は以前として更々無いが、ここで俺の姉の話をするぐらいは、別に良いだろう。
 俺の姉、唯一の姉、黒田千華(くろだ ちか)のことを
 まず根本的な話をするならば、俺と姉は本当の姉弟ではない。
 俗に言う義理の姉弟というやつだ。
 俺が小三の頃だったか。
 母親は突然いなくなった。
 といっても、家からではない。
 この世界(・・・・)から、突然消えたのだ。
 ようは死んだ。
 その頃は典型的な自殺方法であった、首吊りで。
 その後、一年と待たずに親父は再婚した。
 その連れ子が姉だった。
 姉とは、他人とは思えないほど趣味嗜好が似ていたおかげで、すぐに仲良くなった。
 そして中学最後の夏休み。
 俺は、姉を殺してしまった。
 あの日は近くの山にハイキングに行くことになっていた。
 基本的に緩やかで、特に難なく進むことができた。
 だが、山に危険は付き物だ。
 だから急な落石に、俺は気づくことができなかった
 姉は俺を庇って、そして―――――――――――――――――――――――――死んだ。
 即死も即死。
 当時は、何で俺は生きていて、なんで岩が落ちてきて、なんで俺が元々居た場所に姉が居て、岩に押し潰されていたのか。
 すぐには理解ができなかった。
 そして理解ができたときにはもう、すべてが遅かった。
 辺りには鉄臭い臭いが漂い、丸二日は、その光景が脳を離れなかった。
 その後の葬儀では。なんて・・・
 葬式は、なんと行われなかった(・・・・・・・)のだ。
 異常だと思った。
 そのときの俺もそうだったようで、親父に何度も抗議した。
 何度も何度も。
 無視されようが、叩かれようが。
 そして、最終的に言われたのが、
「お前らなんか、必要じゃないんだよ」
 異常じゃなかった。
 どちらかと言えば非情だった。
 自分の置かれているこの状況が、そして自分の親父が。
 義母の方はまだまともだったようで、姉が墓のなかに入るまで、ハンカチを手放さなかった。
 そんな義母も、今では病院のベットの上だ。
 といっても、どこか悪いというわけではまったくなく、どうも近々生まれるらしいのだ。
 弟と妹が。
 現在の義母はそんな状態だというのに、あの父と来たら仕事仕事。
 あのとき言った言葉は、どうも本心だったようだ。
 あいつは先々月辺り、姉の法事の前日に、海外出張としてアメリカに航っていた。
 そうあの事件。
 俺たちが起こした、人生最大の後悔。
 悔やんでも悔やみきれない、汚点。
 その前日にだ。
 と、気がつくと時計はてっぺんを過ぎていた。
 特にやることもないし、そのまま俺は床についた。



 目は、ちゃんと覚めた。
 やはりあの蛇は毒持ちではなかったようで、体に異状はなかった。
 咬み痕も完全に回復しているし、学校で何か言われることもないだろう。
「・・・今日にでも、あいつとあってみるか」
 誰に向けたわけでもなく、ただ淡々と呟いていた。



 時は飛んで放課後。
 俺は、家からはかなり離れた廃校に来ていた。
 名前は何だか忘れたが、確かに桜とか紅葉とか、そういう木に関係している名前だったはずだ。
 もちろん不法侵入ではない。
 ここは学校を再利用した、公共の施設みたいなものだ。
 といっても、よく人が利用しているというわけではないが。
 なので堂々と正門から入っても、警察を呼ばれはしないのだ。
 そのまままっすぐ校庭を進み、校舎のなかに入る。
 公共の施設といっても、律儀に靴を脱ぐ必要はないだろう。
 一応砂を軽く払うと、木材の匂いが漂う薄暗い廊下を進んでいった。
 そして、一番奥の教室の扉を開ける。
「なんだ、金でもまとまったか」
 そこには、こんな場所には似合わない黒いスーツを着用した、針金細工のようにほっそりとした男がたっていた。
 髪は黒のオールバックで、目でも悪いのか銀縁の眼鏡をかけている。
「会うたび見るたび、金金金金・・・ お前は金の亡者か」
「人間なんて所詮、金の王者だ」
「それだと全人類みな金持ちってことになるだろ!!」
「単なる冗句だ。気にするな」
「・・・・・・」
 ジョークなんて言うのか、こいつが。
 想像できないな・・・
「そうじゃなくて、仕事の話だ」
「仕事?なら金を持ってこい。話はそれからだ」
 こいつは・・・・
「ほら、これでいいだろ」
 財布から野口を取り出すと、近くにある机の上に置いた。
「ふん、まあいいだろう」
 そういうとあいつは千円札を・・・ではなく、俺の財布を奪い取った。
「ひーふーみー・・・ 一万七千か」
「ちょっ、それは!!」
「安心しろ。ほらよ」
 そういうと、中身の無くなった財布を、こちらに投げてきた。
「大丈夫だ。小銭はちゃんと残してある」
 小銭って、確か130円ぐらいしか入れてなかったはずなのだが。
 ・・・今日の晩飯どうしようか
「さて、内容は?」
 そういうと、あいつは教卓に座り込んだ。
 そして―――――
「まあ座れ」
 あいつが指をならすと、椅子が俺の元へとやって来た。

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