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厄災の始まり3

 二階は思ったよりも広く、淡々と男が説明をしてくる。キッチン、ダイニング、トイレにバスルーム。そして、書庫。そこまで案内が終わった後、いきなり鍵を渡された。
「ここが君の部屋、そして部屋の鍵。私も一応住んでいるからね。間違いがないように渡しておくよ。年頃のレディだ。……それから君の出入りが許されるのは君の部屋と今案内した場所だけだ。他は立ち入り禁止。特に三階には入らないでもらいたい」
 住む場所も確保、というか監禁? と思っていたら、急に頭をなでられた。
「さて、同居人ということでよろしく、夏姫ちゃん」
「誰が『夏姫ちゃん』だ」
「おや、君の名前だろう? あぁ、私が名乗るのを忘れていたから、怒っているのかな?私はセインだ。『聖』と書く。呼び捨てで構わないよ」
 ニコニコと笑う聖を見るだけで苛々してくる。

「あ、お腹も空いているんだったね。サファイ、こちらのレディに急ぎ何か食事を。夏姫ちゃんは部屋の中を見ておいたほうがいいんじゃないかい」
 その言葉どこからともなくすうっともう一人女性が出てきた。あまりにも現実離れしたその現象に驚きすぎて、声も出ない。
「こちらがサファイ。彼女も使い魔だ。色々と世話を頼んだから、分からないことがあったら聞くといい。では、魔青が帰ってきてからまた会おう」


「ここも予想に反せずの場所かい」
 与えられた部屋に入って思わず呟いた。魔青とサファイの服が黒を基調としたひらひらとした服、階下もファンシーショップに見えたことからだいたい見当がついたが、ベッドもベッドのカバーもカーテンも、レースがかなり使われており、ファンシーすぎてこれはこたえる。一ヶ月の我慢として使うしかないだろう。

 元々夏姫の服はシャツとジーンズが基調なので皺になって困るような服は一着としてない。適当にクローゼットに押し込んでいく。あとはこの部屋にいたくはないが、どうしたものか。
「食事の用意が出来ました」
 タイミングよく、サファイから声がかかった。
 分かりましたと答えてダイニングに行くと、そこにはパンとシチューが置いてあった。
「急でしたので残り物ですが、どうぞ」
 そう言ってサファイはすぅっと消えていく。もう、何度目か分からない驚愕にただひたすら疲れ果て、おとなしく食べ始めた。
 間もなくパタパタと走る音が聞こえ、ドアが開いた。
「マスタ、魔青ね、きちんとお仕事してきたんだよぉ」
 食事中、褒めてといわんばかりに魔青が抱きついてきたが、鬱陶しかったので無視した。

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