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知らされる真実

そのキーワード入力補助の上位に出ていたのが、
 『防衛省高次元生命体対策局』だった。おかしい。この組織は非公表の組織なはずだ。一体なぜこの局が検索できるんだ?戸惑いつつも、俺は、それをクリックする。すると、永海学園公式ホームページから、高垣教育グループ企業サイト、理化学研究所のサイトなど、高次元生命体などに関連する企業・組織のサイト・ホームページ・関連リンクが多数出てきた。その検索結果の一番下に、防衛省高次元生命体対策局公式サイトという謎のサイトがある。クリックして、サイトに入ると、各省庁のホームページ同様、お堅い雰囲気ともいえるレイアウトのページが出てきた。俺は、PC用TVチューナーが繋いであるノートPCを起動する。パスワードを打ち、開いたままにしてあるTV閲覧画面を見る。丁度NHKの7時のニュースをやっていた。キャスターの声が耳に入ってくる。
『・・・・報です。政府が12年前のウイルス流出事件に関する、非公表だった事実を先程記者会見で発表しました。公表されたのは、12年前より、超次元への門が開いたままという驚きの内容です。既に国立天文台や宇宙航空研究開発機構、気象庁からも間違いないとの見解が寄せられているとのことです。なお、その門からは多数の高次元生命体がこちらに入ってきているとのことです。その門は静岡県永海市の上空にあり、日中は殆ど見えないそうですが、夜になるとはっきりと目視することが可能であるという情報です。永海市の一部の市民は、以前から呪いだと言っていたとのことです。詳しいことはまだ不明ですが、今後取材を続けていきます』
と言う風に言っていた。俺は、スマートフォンを取り出し、絵菜に電話を掛ける。数秒のコール音が続いたのち、
『もしもし』
と絵菜が言う。俺は急ぐように言った。
「政府が超次元への門の事を発表した」
『え?くそっ。タイミング悪いなおい』
戸惑ったのか気が動転したのか絵菜はそう口走る。にしたって、いつもと口調が違いすぎるだろう。タイミング悪いってどういうことだ。俺は、
「タイミング悪いってどういう事だ?」
と言った。いい加減思ったことを口にするのはやめた方がいいかな?ふふふ。なんてしょうもないことを考えられるほど、絵菜からの反応は遅れた。
「まあ・・・それに関しては、明日説明します」
俺が切ろうともしないうちに、ガチャリといわんばかりに通話は切れる。俺は気にすることもなく、ノートPCとデスクトップPCの電源を落とし、下着とジャージを持って、部屋を出た。

翌朝、土曜日なので惰眠の限りに尽くしていたら、迷惑な着信音で目が覚める。俺は、起き上るのも面倒なので、腕を精一杯伸ばしてスマートフォンを手に取る。そして、
「もしもし?今惰眠中」
と不機嫌そうに言ってやる。すると、
『惰眠中・・・ね。今すぐ静岡市まで来て。駅前のコメダ珈琲店です』
と言う絵菜の声が耳に入る。俺は、
「・・・了解です」
と一瞬言い淀みながらも言った。すると、通話が切れる。俺は、仕方なくベッドから起き上がり、クローゼットの折れ戸を開けた。

電車に乗ったのはいつぶりだろうか。地方に住む人間の特殊性から、電車は遠出するときと相場が決まっている。3年前秋葉原行ったときに、東京駅から近いでしょと歩いて行ってひどい目に遭った・・・・。距離が長すぎて。何度も道を間違えたうえ、明らかに暴力団事務所のありそうなあたりに入り込んで、チンピラに囲まれたり・・・。あの時、何とか組の組長に助けてもらわなかったら、命の危険まであったんじゃないだろうか。しかもあの組長さん、自分の車で秋葉原まで送ってくれたし。その組長とは今でも連絡を取っている。いい人だし。ヤクザの車って黒塗りのセダンのイメージあったけど、真っ白なミニバンだったな。などと、並の人間なら経験しなさそうなことを思っていると、いつの間に静岡駅に着いた。さすが田舎の都会だけあって、それなりに整備された街であると思う。駅前、21階建てのインテリジェントビルの2階には、コメダ珈琲店がある。そこに入ると、窓際の日当りのいい席から、絵菜が手を振ってくる。もし、絵菜が彼女なら、俺は赤面していただろうか。でなくても、2人きりだったなら。俺はその席に向かって歩き、遠慮なく座る。やはり、中年男性が・・・・ん?
「えーと。いつかの・・・・おっさん?」
と俺は言った。何を隠そう。その男こそ、3年前出会った組長、正確には築瀬組組長、築瀬宣裕であった。築瀬は、
「おお‼いつかの若僧」
と言う。絵菜は驚いたように、
「おや。お知り合いだったんですか?暴力団と交友あるとか、光尚恐ろしい・・・」
と呟いていたが、俺は正直そんなことはどうでもいい。3年もの間、LINEやメール、電話だけで話していただけなので、実際会うのは2年ぶりくらいである。3年前はお互い電話番号を交換するほどの話をしなかった。俺は内心チンピラにビクビクしていたのだが、築瀬からしたら、肝が据わっていると思ったらしい。表情に動揺が見られなかったと。何のことはない。俺は喜怒哀楽が顔に出にくいようなので、落ち着いているように見られたのだ。それはともかく、俺は築瀬に気に入られたのか、2年前に東京に行ったとき、東京駅の前で築瀬組の組員一同に出迎えられた。つくづく偶然とは恐ろしいものである。何故俺の東京行きを知ってるんだ?と思ったが、大方叔父が教えたのだろうと思った。帰ってきたら、すごい知り合いがいるねって言われたからな。と昔の事を思い出していると、
「光尚。おーい」
と絵菜の呼ぶ声がする。俺は、
「すまん。なんだ?」
と言った。絵菜は、
「昨日の政府発表の事です。タイミングが悪いというのは・・・実は、宇宙航空研究開発機構が、宇宙空間の歪みを発見したんです。北緯約34度、東経137度、永海市の西部に位置するあたりです。そこが、超次元への門の位置です。つまり、超次元への門は宇宙空間すらも歪ませる大きさなんです。昨日の記者会見のせいで、その辺一帯にテレビ局・新聞社が殺到し、JAXAも現地での移動観測基地の設置ができないんです。折角日本に1台しかない移動観測基地を鹿児島から派遣させたのに、政府発表のせいで台無しだそうです」
と言った。移動観測基地、衛星中継車みたいなやつかな。俺は、
「理化学研究所高次元生命体科学研究機構は?」
と尋ねる。築瀬‐おっさんの頭に疑問符が浮かぶ。それを無視し絵菜が、
「高度情報処理衛星通信車を神戸から派遣したそうですが、テレビ局の中継車やらが何台も停まっていて、車輛が入れないそうです。そのため、理化学研究所・宇宙航空研究開発機構からは政府に苦情を出したそうですが、記者会見の後の事は知るか、と返されたと」
と言う。無責任な奴らだ。結局政治家はそんなものだ。自分たちにとって不都合なものは知らぬ存ぜぬで通し、売名に使えそうなときはとことん利用する、そういう薄っぺらい存在なのだ。公務員はまだ罪悪感を背負いながら政治家の命令に隷属しているので、まだましである。公務員は社畜のトップなのだろうな。薄っぺらい上司に使われる優秀な部下。ってところか。などと、内心政治家をディスっていると、おっさんが、
「政治家って本当に薄っぺらい屑野郎どもが多いよな。都合の悪いときは『知らない』『記憶にない』で押し通して、名を売るのにちょうどいいときには勤しんで売名行為に精を出す。つまり、この日本で最も殴る価値がない奴は、屑な政治家だ」
と言う。ちょっと?なんでそんなこと平然と言っちゃうの?言論の自由にだって言っていい事と言っちゃいけないことあるんだかんね。しかも、周囲の席に座る人たち、だんだん口数減ってきてるよ。ごめんなさい。とうっかり言いそうになるのをこらえた。明らかに嚙みそうだし。そこそこ大きい声だったおかげで、レジカウンターの店員さんすらも怯えている。すいません。ここのおっさんが。俺は、
「おっさん。声大きい」
と軽く注意する。おっさんは、
「だって本当の事だろ」
と悪びれず言う。まあそうだけど。俺もそう思ったし。すると、絵菜が咳払いしながら、
「・・・ごほっ。そんなことはどうでもいいです。とにかく、記者会見のせいで、研究が進まないそうです」
と言う。俺は、何の気なしに先程から疑問に思っていたことを口にした。
「でも、それが俺たちに何の関係があるんだ?」
と。宇宙航空研究開発機構だの理化学研究所高次元生命体科学研究機構だの言われても、こっちの知ったことかと思うんだが。絵菜は、
「いや、だって、現場に入れないと、門の正体が分からないじゃないですか」
と当たり前のことのように言う。だが、それは別に当たり前の事ではない。俺は、
「門だってわかってるのに?門は門だろ。それ以上でもそれ以下でもない」
と言った。絵菜は、
「・・・・あ。実は門といってもそれは便宜上の呼び方で、実際の呼び方は正体を突き止めないと決められないんです」
と言う。お前・・・・前そんなこと一言も・・・・言ってなかったろ。つまり、門でも何でもなく、高次元生命体は別のところからきている可能性もあるわけだ。俺は、
「それって、つまり、高次元生命体は別のところから来ている可能性もあるわけだな」
と言った。絵菜は、
「まあ。一概にそうとは言い切れませんが、まあそういう感じです」
と言う。結局俺たちが戦っているあの怪物が高次元生命体とも限らない、ともいえる。絵菜は、以前、高次元生命体対策局が市内各所に特殊センサーを設置していると言っていたが、実際はお飾りの物なのではないだろうか。俺達能力者を国家が一掃しようとしているのでは?なんて思った。国がいくら特殊な才能がある国民とはいえ、消そうとまでするだろうか。答えは否。ただでさえ日本人は減少傾向にあるのに、そんなことをする理由がない。ふと窓の外を見る。わずかな違和感がある。空の色がいつもより明るい。曇ってるわけでもない。ぱっと見快晴だ。だが、普段の快晴とは全然違う。ふと、青空の一点が動いた。その刹那、駅に何かが落ちる。駅のホームは音もなく崩れ、後に残るのは、その残骸のみ。中に人もいたはずだが、どこへ消えたのだろう。今年度導入されたばかりの新車両は、完全につぶれていた。撮り鉄が見たら悲しむだろうかとも思ったが、そんなことはどうでもいい。俺は、
「絵菜。おっさん。ここを出るぞ」
と言った。二人は頷き、さっさとアイスコーヒーを飲んでしまった。俺もそれに倣い、さっさと飲むことにする。飲み終わったら立ち上がり、代金を支払って店を出た。

静岡駅前は、騒然としていた。普段は通勤通学できたサラリーマン・学生が雑然と歩く場所。今や、そのサラリーマンや学生の避難所と化していた。中には、ケガをしている者がたくさん。自衛隊のどこかの部隊が、大型テントを張り、臨時救護所を設営していた。俺は、駅ビルの方に向かう。おっさんと絵菜がついてきていないのは放っておくことにする。入口近くの非常階段で2階に上がる。ここは駅と連結していたはずだ。暫く歩くと、駅とビルの連絡通路の入り口があった。俺は迷いなくそこに入る。連絡通路に窓はほとんどなく、とても暗い。ふと、明るいものが見える。そこは出口だった。出た処は、ホームの手前、自動改札があるところだった。だが、自動改札機は2台ほどが完全に壊れている。壊れた自動改札の上には、コンクリートが載っている。恐らく落下したのだろう。俺は、そのコンクリートの上に飛び乗り、ホームの方向に向かう。ホームの惨状は、言うまでもなく、酷い有様だ。天井にあったガラスはすべて落下し、コンクリートの柱も、すべて崩れている。その破片がホームに散らばり、何人か倒れている。ホームに壁はもともとない。全方位ガラス窓だった。それすらもなくなり、ホームは、建っていた建物を壊した後の、住宅用地の様である。俺は、潰れた電車の上に、怪物がいることに気が付いた。そいつは、マジシャンのような帽子を被り、スーツを着た、ぱっと見紳士ともいえるやつである。俺は、
「ファベルか?」
と尋ねた。そいつは、
「俺を知ってるんだな。若僧」
と言う。俺は、指を鳴らし、その手を広げる。いつも通り、俺の武器、村正が出てくる。ファベルは驚いたように、
「おお、ソード・ファイターか。あの女騎士みたいだな」
と言う。言った途端、電車の上から消える。すると、背後から、
「おい。全方位の警戒をしておかないとダメだろ」
と言うファベルの声がする。俺は素早く後ろを向くが、既にそこにはいなかった。俺は、背中に貼ってある紙を見た。そこにはこう書かれていた。
 じゃあな。ソード・ファイター またそのうち。と。

数日後、俺は生徒会室にいた。生徒会の仕事である、生徒関係の資料をまとめていると、部屋の扉が開く。一瞬絵菜かと思ったが、40代くらいの男だった。男は、
「君がソード・ファイターか?」
と言う。ソード・ファイター?俺は、
「どちらさんです?今忙しいんですが」
と言った。事実忙しいのだ。男は、
「私はこの学園の理事長です。あなたにお話ししなくてはならないことがあります」
と言った。続けて男‐高垣創輔は、
「あなたのお母さま、北宮明理さんはあなたと同じソード・ファイターでした」
と言い出す。俺は、
「あの、ソード・ファイターって?」
と尋ねる。俺はそれが未だにわからない。高垣は、
「世界で一人しかいない、能力者のなかでもとても異質な存在。北宮家は、代々その能力を受け継いできた伝統ある家です。ただ、一部の能力者は、北宮家を忌み嫌います。その能力者は、以前から北宮家に敵対心を抱いている連中です。実は、普段私たちは能力者と呼んでいますが、正式名称は、3次元高能力生物と言います」
と言う。俺は、
「うちが伝統ある家?そんなことがあるんですか」
と言った。高垣は、
「ええ。今あなたが住んでいる家の隣に古い平屋建ての家があったでしょう。あそこにヒントがあります」
と言った。

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