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 クリスマス・イブ。

 今日の町は、いっそ不気味なほど異様だ。

 日が沈んでそれなりに時間が経っているはずなのに、周りは絶え間なく光るイルミネーションで照らされている。歩く人間も、店に呼び込む人間も、普段と比べものにならないほど多い。冬場特有の暗い色ではなく、赤や緑が多く見えるのも私の神経をざわつかせた。

 どうして、今日に限って外に出てしまったのだろう。

 しかも、上着のポケットに折り畳みナイフを入れて。

 独りで。

 目的もなく。

 詩織と会う予定だって、ない。

 ここのところずっと、どす黒い感情が力を増し続けていた。灰色の仮面は何度も剥がれかけ、やけに目が冴えて眠れない日もあった。

 オクルスからの依頼は、まだない。

 嫌悪や不快を感じていたはずなのに、私はオクルスからのコンタクトを待ちわびている。

 それとも、この縁はすでに終わってしまったのだろうか。

 だとすれば、今の私に必要なのは「きっかけ」だった。

 あと一歩。踏み込む要素が足りない。

 それさえあれば、私は……なにをするつもりなのだろう?

「────?」

 私にかけられたらしい言葉は、喧噪にまぎれて聞きとれなかった。

 となりには若い男がいて、私と歩調を合わせてなにか話している。私が足を止めれば同じように立ち止まって、さらに親しげに接近してきた。

 その顔に、見覚えはない。

 やけに明るい色を発していて、なにやら私をどこかに誘いたいらしい。

 ぼやけた頭が適当に相槌と返事をして、私は男に導かれるまま浮ついた町を歩く。

 しかし、男の向かう方は明らかに寂れていた。「穴場があるんだよ」という言い訳染みたせりふがわざとらしく、聞き取ろうとも思っていないのに耳に残る。

 男の持つ色は、徐々に黒へ近づいていた。

 私と同類か、あるいは。

 そう思ったところで、私は男に肩を掴まれた。

 そのまま背中を薄汚れた壁に押し付けられて、男と正面から向かいあう形になる。

「騒ぐな」

 そこで初めて、私は男から明瞭に言葉を聞きとった。

 男は、私に見せつけるように刃物を持っている。やけにきれいなナイフだった。汚れがない。この刃は、血に濡れたことがあるのだろうか。

 きっと、ないのだろう。

 かわいそうに。

「おい、なに笑ってんだ」

 苛ついた男の声で、私は灰色の仮面が剥がれていると自覚した。

 そうか。あなたが「きっかけ」だったのか。

「おとなしくしてろ、いいとこに連れてってや──あ?」

 肉を裂く感触が、両手に伝わってくる。

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