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6  謎は深まるばかりでございます。

 「待て!ちょっと待ってくれ!確かに私は魔王と言われる存在ではある。
 しかし、現在君たちと明確な敵対関係にあるわけでは…。」
 「この周りにあるたくさんの遺体は『魔王軍六魔将の副官』が攻めてきたから返り討ちにしたものなんだけど?」
 魔王?の言葉に明日香が冷たいセリフで返す。

 「え?」
 言われて魔王?は周りを見回し…顔色が真っ青になる。
 「こ、こいつらは獣魔将ライガーの軍じゃないか?!なんでこんなところにいるんだ?!
 そして、なんでこいつらが壊滅しているんだ?!」
 「ええ、私たちが壊滅させましたから。」
 涼しい顔で明日香が告げると魔王は完全に真っ白になる。

 「待ってくれ!これは何かの間違い…ではないし…私も状況がわからないのだ!ちょっと話を聞いてくれ!」
 魔王が泣きそうな顔になって、明日香から後ずさっている。
 どうやら明日香が強力極まりない魔法使いだと感づいたようだ。

 「へえ。部下の不始末をどういう風に説明してくれるのかしら?」
 「言い訳に聞こえるかもしれないが、彼らは…正確には他の六魔将は魔王の部下ではないのだよ。まず、そこから説明させてくれ!!」
 魔王が半泣きになって、じりじりと後ずさっている。
 魔王のセリフに違和感を覚えた俺たちは話を聞いてみることにした。


 彼女は確かに魔王だった。三四代目魔王エミリー・リリス。一一四歳。
 そして、魔族領は室町幕府や中世のフランス王国のようなもので、魔王は確かに魔族領の盟主ではあるものの、他の六魔将同様の領主の中で一番勢力のある領主という、ほぼ同格の立場になるだという。
 したがって、外交上で『盟主として指示までは出せる』ものの、配下ではないので、外交を含めて他領主に強制はできないのだそうだ。

 ただし、近年は魔族領全体としては人族や他の外部の種族に関して、『相互不干渉の原則』を掲げており、魔族領が攻められたら応援に軍事行動を起こすものの、他領主が勝手に外部侵攻をしないように『外交的な非難』を含めて牽制するようにしているのだとか。
 それでも部下ではないので、完全に抑えることは難しいのだという。
 魔王個人の力と、親衛隊を含めた軍事力は他の六魔将を含めた他勢力とほぼ同じくらいのため、一領主が勝手に人族に小規模侵攻した例はままあるものの、今回のように大規模侵略した例は最近ではほとんどないのだという。

 「では、あなたは今回の侵攻に関しては何も知らなかったし、もちろん関与していなかったというのね?」
 「その通りだ。いや、だからと言って、それで無罪放免になるとは言わないが、魔族全体が戦争を望んでいるわけではない。六魔将の二人が暴走してこんな暴挙に出たことは知っておいてほしい。」
 明日香とエミリーはイノシシの丸焼きを食べながら会話してる。
 …あのう…魔王さん?あなたは『他領主の部下』をそんなにぱくぱく食べていて問題にならないのでしょうか?

 「まったく、ライガーとガイストのアホが!!人族に下手に手出しをすると、今回のように『勇者という規格外を呼び出してえらいことになるから気をつけろ!』と口を酸っぱくして言っていたのに…。これだから、『選民主義のアホ』はどうしようもないのだ。他者を見下す思考ばかりして、冷静な判断力を持たないのだからな…。」
 「…エミリーさん、『勇者という規格外』て?」
 「ああ、すまん。五年前も魔将の一人が他世界から来た魔神にそそのかされて、こちらとは反対側の大陸に侵攻を掛けてな。
 その時に、大陸の人間がとんでもない勇者を呼びだしたのだよ。
 黒幕の魔神が暴れ出した時にはさすがの私も気づいて現場に駆けつけてな。
 その折に人間の呼び出した『白銀の勇者』が魔神を『かかと落し』の一撃で仕留めるのを見た時は私も凍りついたよ。」
 は?勇者が魔神を『かかと落し』一撃?!

 「で、その勇者が『講和を結ぶのと、かかと落し喰らうのとどちらを選ぶ?』と聞いてくるものだから、もちろん、すぐに講和を結んださ。その時まで七魔将だったのが、一人減って六魔将になったのだ。
 あれが人生で一番恐ろしい瞬間だった。」
 俺に聞かれて魔王はその時のことを思い出して身震いしている。
 
 「先代から『勇者は規格外だから、その勇者を呼びだす人間とはできるだけ争うな。人間を絶対に追い詰めすぎるな』と言明された意味があの時はっきりと分かった。
 だから、今回もライガーとガイストの暴挙を証拠を集めて、なるべく早く止めるように動くつもりだ。」

 「ふーん…。魔王様は『仲間の凶悪な侵攻』に謝罪もせずに『なるべく止めるだけ』なの?」
 明日香が冷たい目線で魔王を見ている。

 「待ってくれ!!悪かった。知らぬこととはいえ、同胞を止められなかったことは本当に悪かったと思っているし、戦争を止めると同時に相応の賠償もする予定だ!
 だから…『白銀の勇者並みのこの女性』を何とか止めてくれ!!」
 魔王は俺にしがみついて懇願している。

 「しかし、妙だな。今回暴走した二人の六魔将は白銀の勇者のことを知っていたはずだよな。それなのに『二人だけ』の判断で暴走したのだろうか?」
 ライピョンさんの言葉にみんなが気づく。

 「それじゃあ、今回も前回同様に他世界から来た魔神のような黒幕がいると?」
 エミリーがすごく嫌そうな顔をする。

 「…そうね。イノシシみたいな武将のすぐ近くにいた魔法使いから、あなたやイノシシの武将とは根本的に異質な雰囲気を感じたわ。
 危険だと思ったから、真っ先に潰したのだけれどね。」
 魔王が出たから事件は解決…とはいかなかったようだけど、真相解明には一歩近づいたみたいだ。

 「では、魔王。私たちに協力してくれるわね。」
 「ああ、我々を利用しようというやつを倒すことは魔族にとっても大切なことだ。
 …ところで、魔王と呼ぶのはやめてくれないか。名前で、エミリーと呼んでほしい。」
 「では、私たちと同行してもらって二人のアンポンタンな六魔将を退治するのを協力してほしいわね。」
 「いや、ちょっと待ってくれ!私はこれでも一応国のトップだ。
 勝手に単独行動をし続けるわけにはいかんのだよ。」
 「仲間が人族の領地に勝手に侵略しておいて、そんなわがままを言うの?」
 「一応行政は議会や内閣に任せる立憲君主国になったとはいえ、外交や軍事は私がいないと国の運行に大きな支障が生じてしまうのだ!国政に支障がでない範囲で協力させてくれ!」
 明日香がシビアに協力を要請するのでエミリーは半泣きになっている。

 「待ってくれ!魔族領が立憲君主主義てどういうことだ?」
 俺がエミリーにツッコミを入れる。

 「うむ、魔族の中に異世界の記憶を持つ転生者がいてな。王が行政すべてに携わるよりは議会や内閣などを上手に活用した方が民衆の知恵や活力を得られるという話を聞いて、少しずつ実践してみたのだ。
 現在では魔王直轄領では新しい制度の方が商業工業が発達して経済発展が著しくてな、経済力、軍事力でも魔族領で我らの領地が図抜けて強くなっているのだよ。
 これを『異世界チート』というらしいな。」
 なんてこったい!魔王の方が『転生者の活用』をしちゃっているよ!!

 「六魔将はそれぞれ六大公爵でもあるのだが、彼らのうち、二人は親魔王派、二人が中立、そして、今回侵攻騒ぎを起こした二人が反魔王派なのだ。
 まあ、反魔王派と言っても今までは明確には敵対的な意志を示さなかったんだが…。
 親魔王派の二領主はわが領の発展を見て、少しずつ新制度を採り入れて、だんだん国が豊かになりつつあるのだ。
 国力に差が付きつつある二人は精神的に追い詰められて五年前のあ奴同様『対外侵攻』で国力の差を詰めようとしたのだろうな。」
 エミリーが難しい顔をしている。

 「明日香殿。エミリー殿は普段は魔王業に勤しんでもらって、必要な時だけ合流するようにしてはいかがだろうか?
 エミリー殿の召喚コストを減らす魔法とかがあればありがたいのだが。」
 おおっ?!さすがはライピョンさん、非常に建設的なアイデアを出してくれている。

 「確かにライの言う通りだわね。では、エミリーは戻って情報収集とか、連中を足止めする政治工作とかやってもらえるといいわね。
 エミリーに対して私たちとの結びつきを強くする魔法を使うから、召喚コストを大きく減らせると思うわ。」
 「わかった。今回も魔神が関わっているなら人族だけでなく、魔族の存亡にもかかわることだから最大限できることをしよう。
 それと戻る前に魔族領の地図を渡しておこう。
 問いかけるといろいろ『解説してくれる』地図だから、使い勝手もいいはずだ。
 ここからだと、獣魔将ライガーの領都が一番近いはずだ。そこをとりあえずの目的地にされることをお奨めしておく。」
 俺たちがエミリーから地図を受け取ると、エミリーは魔王城に戻っていった。



 俺たちは魔王からもらった地図をちずそのものの解説付きで検証を進めていたが……魔族領めっちゃ広いんですが?!!
 アリーナ王女の母国・ロジック王国は九州くらいの広さなのだが、魔族領全体はアメリカとカナダを合わせたくらい!!で、直轄領はその1/3になるのだとか…。
 それも複数の大陸に渡って魔族領は広がっており、ロジック王国と同じ大陸にあるのが今回侵攻してきたライガー公爵とガイスト公爵で、直轄領と他の四公爵の領地は大陸から少し離れた別大陸にあるとか…。
 後でエミリーさんに確認したところ、別大陸のしかも遠距離にあるからこそ、今回の二人の勝手な侵攻に気付くのが遅れたのだそうだ。

 俺たちは地図も併用して、ナビの案内先をライガー領の領都に変更して旅を再開したのだった。


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 「お腹すいた!!めちゃくちゃお腹すいた!!」
 エミリーを召喚すると、目の下に隈を作りながら机に座った状態だった。
 うーむ、また机ごと召喚してしまったのだね。

 「いや、君らが悪いわけではないのだが、あ奴らのことを調べ出したせいでまともに食事や休憩を取る暇すらないくらい緊急の仕事が増えたのだよ…。」
 言いながら、エミリーはまだ書類を一生懸命見ている。

 「諜報の動きがおかしいと思ったら、洗脳されていたり、魔法の諜報道具が壊されていたりしたことが分かった。
 …しかし、これで、やつらは本国に『勝手な行動をしたことがばれた』ことに気付いたろうな。下手すると黒幕の力を当てにして『独立』することも考えられるな…ふう…。」
 「まあ、それは本当に大変ね。
 お疲れのようだから、よかったら一緒に夕飯にしない?
 冷凍蟹を使った、蟹鍋だから。おいしいわよ♪」
 エミリーのやつれた様子にさすがに気の毒に思った明日香が気遣いを見せる。

 「え?それは助かる!ありがとう!!」
 エミリーの顔がぱっと明るくなって、書類を片付け始める。

 こうして俺たち五人はその晩は軽く作戦会議をしながら『蟹鍋』をつついた。
 自家製ポン酢を使って、みんなに大好評だったが、冷凍蟹て…昨日の蟹の怪人たちだよね…。ライピョンさんとアリーナ王女はもちろん気付いているし、エミリーさんも……イノシシを平気で食べていたから、『食材の正体』がわかっても、気にしなそうだよね…。


 「そっかあ…。明日香とタツは幼馴染なんだね。」
 「うん、小さいころからお世話になって…ひっく…るの♪」
 いつの間にかワインを飲みながら明日香とエミリーが意気投合している…。
 えええええ???!!!明日香!完全に酔っぱらっているよね!!!

 「そうなんれすよね♪幼馴染…いいわね♪王族なんて、そんな出会いもないから、あこがれちゃうんれす♪」
 アリーナ王女もへべれけになっているよ?!!
 ああああ!!戻しちゃってるし!!
 そして、すぐ『癒し魔法で自力で回復』してるんですが!!!

 「そうだよな…。王族は本当に出会いがないものな…。」
 ええと、それまで明るかったエミリーさんがいきなりずーんと暗くなったんだけど…。

 「なんだか、大変な思い出があるのですか?」
 「うん、実は今まで政略上三回結婚したんだ。」
 アリーナ王女の問いにエミリーがさらに暗くなっていく。

 「それも、三回とも相手が私を暗殺しようとしやがって…。」
 「「「「………。」」」
 あまりの展開に俺たちは全員言葉をなくす。

 「ちくしょう!!魔王なんてどうだっていいんだ!!王位なんていらないからせめて、まともな恋愛をさせてくれ!!!」

 ……この後、全員でエミリーを何とか落ち着かせると、そのまま眠ってしまい、明日香が魔王城まで送って、ベッドに寝かしつけたとか…。

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