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第八話_今更

「あの…ここは…」
見慣れない部屋だ。生徒会室っぽいが。
「ここは生徒会室だ」
「あ、そっすか」

「君に渡したいものがあってな」
そう言って紫お姉さんは一つのケースを持ってきた。
「あの…これは?」
見たところかなり大きい。これだったらどんな武器でも入ってしまうのではないかというサイズ。
しかし何故か雅には見たことあるケースに見えた。
「この中には君がいた世界で使っていた武器が入っている。確認してくれ」
「…!?」
飛びつく。すぐさま箱を開けて中身を確かめる。

短剣の「白雪」
片手剣の「紅葉」
両剣の「五月雨」
刀の「天雲」
ナックルの「鵜匠(うしょう)・鷹匠(ようしょう」
槍の「春風」
二重鎌の「秋雨」
自在剣の「下風」

「おおおおおっ!」
「どうやら間違いないようだな」
「ええ、でもどうやってこっち側に持ってこれたんですか?」
「召喚儀式の時。召喚される者の一番愛着のあるものがこちら側に送られてくるんだ。
どうやら、どのこの武器全部に愛着があったらしいから全部送られてきたという事だ」
「へぇー」
召喚。そうなんだよなぁ。召喚されてるんだよなぁ、俺。
今更だが改めて認識する。
翔はどうしてるんだか…。

「ところで、私からの提案なんだが」
こちらを向いて居住まいを直す紫お姉さん。
「あの、その前にお名前を…」
「ん?ああ、そうだったね。私の名前はシュルク・アルデバロン。第1貴族よ。そしてこの学校の生徒会長を務めているわ。よろしくね」
「俺の名前は…って知ってますよね」
「(ん?第1貴族?まじかよ。しかも生徒会長?え、俺今すごい人の前にいる?)」
「ええ、話を戻すけれど。この武器、しばらく私達に管理を委ねてくれないかしら?」
「…え、なんでですか?」
折角愛する武器が目の前にあるのにこれはひどい。
「実はこの武器をこの『アクア』の中に入れるために鍛冶屋に発注しに行くのと、それと。武器をコーティングしてこちらの世界の『ゼロス』に対抗出来るようにして申請書を帝国に提出しなければならない。なにせこの武器は特殊でしかもかなりの業物だ。大切に扱うよ。ちなみに、申請書を出さないと一生この武器使えないしこちらの世界では演舞くらいしかできないからね」
「えぇー…。うーん。じゃあ、オネガイシマス」
いまいち気が乗らない。
「あ、あの。コーティングとアクアについて説明してくれませんか?」
「いいよ。コーティングっていうのはね。現在敵陣地のクローズワールドに存在する敵、ゼロスに対抗してダメージを与えられるようにするものね。それとか、この世界の魔力に干渉できるようになったりするの。でも、本当にただコーティングするだけだから切れ味とか全然変わらないよ」
「なるほど」
「そして次はアクアね。アクアは武器を魔術と科学の技術で作り上げた超小型武器結晶。いわば武器入れね。これをすることによってこんな小型からいつでも取り出すことができるわ」
そう言ってシュルク先輩はトンファーに似た武器をとりだして見せる。
「おおー」
「ま、こんな感じね。これだと持ち運び楽だからね。制服についているような金具に当てはめて持ち運ぶわ。戻すと結晶の形になって自動で元の位置に戻るわね」
「すげー」
「(…さっきから相槌しか打ってないが単細胞な奴とか思われてないかな?先輩美人だからそんな風に思われたくないなぁ。)」
「結晶の当てはめる数には限度があって最大9個ね。それ以上はMPが消費するようになって体がもたなくなるそうよ。でも、基本的にそんなに武器の数持ってる人や習ってる人いるわけないから大体1つか2つだけどね」
「ってことは俺あと1つしか空きがないんですか…」
「まぁ、その1つもそうそう埋まらないと思うけどねー。気に入った武器があれば入れてみれば?」
「はい、そうします」



暫く雑談した後生徒会室を出る。お礼も忘れずに。
どうやら武器については鍛冶屋がじっくり見させてほしいと言ってタダどころか4万セルくれた。この世界の1セルの価値はそれほど高くはなく。今朝の商店街で見たパンの値段が100セルだったので日本円とほぼ変わりないようだ。
「にしても、思わぬ臨時収入が入ったな」
「(鍛冶屋の人、見ず知らずの人に4万円も渡すか普通?まぁ、それほど俺の武器に惚れたっていう事なんだろうけど。今度話してみたいな。)」

「さて…じゃあお屋敷にもどりま…」
「!?」
突如、轟音が鳴り響く。
どうやら場所は正門付近らしい。

「まさか、ゼロスってやつがいるのか!?」
先ほどの会長の話では向こうには結界があり、こちらに来ようとするには困難を極めると言っていた。
はやる気持ちを抑え俺は正門へと駆けだしていった。


―――都立魔法学校―――正門付近―――
「え、なにこれ…」
その光景に俺はただ立ち尽くす。
2人の少女が己が武器を持って睨み合っている。
「喧嘩…かな?」
「ああそうだよ。全く、心配させんなって話だよな」
「ん?君は?」
「俺ぁクリスト・デンファーって言うんだ。お前オオオカミヤビだろ?今日の測定すごかったな。あんな数値見たことねぇよ。あ、よろしくな」
興奮のあまり挨拶より感想が先に出てしまっていたらしいこのクリスト君は人懐っこい笑みを浮かべて挨拶をしてくれた。
「まぁ、俺自信あまり実感がないんだけどな。炎属性の魔法を一回撃っただけでどれくらいすごいのか…、ってかそれよりあの二人止めないと」
「あっおい!」
クリストは「別にいつもの事だし学園内は魔力によって一定数攻撃を無効化してくれるから大丈夫だぞ」という言葉を雅の背中にストレートを投げつけるのであった。

一方、雅のほうはリリースどころかキャッチすることもリリースすることも出来ず、二人の間に突っ込んでった。

「貴方、いい加減にしなさいよ!そっちから突っかかってきておいて!!逆切れってどういう事なの!?謝罪しなさい!」
「はぁ?謝るわけないでしょ!大体、突っかかってきたのはそっちじゃん!」
「はいはい、そこまでー」
2人の中に割って入る。
「「なによ!」」
2人の声が雅の耳を攻撃する。
「(う、うるせぇ…)」
「まぁまぁ、落ち着いて。まずは状況を整理しましょう」
「そんなこと言ってる場合ではありませんわ!一刻も早く彼女に謝罪してもらわないと!」
「嫌。そもそも私のせいじゃないもん!」
2人とも、頭に血が上ってまともに会話ができない状態だ。

「このままじゃ、全校生徒の晒し者だぞ?それでもいいのか?」
「(ここは正門だ。いくら何でも正門で揉め事とは恥ずかしいだろう。)」
「うぐっ」
「ふんっ」
2人は雅の言葉に少し冷静さを取り戻したのか、口喧嘩は終わったようだ。
ただ…。
「………」
「(まだ2人でめっちゃ睨み合ってる。)」
「と、とりあえず自己紹介しようか。俺は大岡雅。2年だ。よろしくな」
その言葉に二人はピクッと反応する。
「もしかして、キャパが恐ろしいほどあってゾルギア先生を近接戦闘で追い詰めたって人?」
「へー、もうそんなに広まってるのか」
噂程度にはなってるんだな。なんかちょっと嬉しいような感じ。

「「………」」
今度は二人で俺を睨んできた。
「そういえば、今度魔術大会があるのよね」
「ん?なんだそれ」
何を言われるかビクビクしていたので少し拍子抜けしてしまった。
「この学園で行われるトーナメントよ。クラスの代表2名を選出してトーナメントに組み込んで1対1で戦わせるの。そして勝者には帝国栄誉勲章と多額の資金がもらえるわ。それと、クローズワールド対策本部直轄で雇われるの。そうして戦場へと駆り出されるわ」
「ちなみに、優勝しても雇用の誘いを蹴る人もいるわ。まぁ、理由は様々だけど」
「へー。それでさ、俺自己紹介したんだけど君たちの名前を聞いてないんだけど答えてくれない?」
雅は大会はあまり興味がないのでとりあえずこの2人に仲良くなってほしいと思い、話を戻した。
「私はアンジェ・レルトと申しますわ。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。以後お見知りおきを」
「私はイレイ・フォルテって言うんだ。よろしくね」
必死にメモる。

アンジェ・レルトさんは如何にもお嬢様という雰囲気だ。髪はグレーで腰までストレートでそこからカールをかけているのか向かって右側にくるんっとなっている。顔立ちは白い肌にピンク色の唇。睫毛も非常に長く。誰が見ても美女だ。あと胸おっきい。

イレイ・フォルテさんは活発な美少女のような雰囲気だ。髪はライトグリーンでショートヘア―。肩まで伸ばしている。顔立ちは少し焼けた肌と涙ぼくろ。耳にしたピアスが朱色に輝き彼女の魅力を3割増しに表しているようだ。胸は中の下くらいだが、体にマッチしていて素敵だ。

「あの、何故私達の名前を書いていらっしゃるのでしょうか」
「俺って人の名前覚えるの苦手だから」

「(…そういえばこっちの世界の言語と日本語って一緒なんだな。すっごい今更だけど。)」

しおり