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第三話:生活していく

作られたリョウシンと共にユミヒコの生活は始まった。
 ユミヒコたちに与えられた部屋は、比較的広い部屋だ。周りの住民は、科学者、機械工学など、頭脳の優秀な者ばかりだ。もちろん、運動能力に優れた者が集まる地域もある。
将来何になるかなど、生まれる前から決められている。科学者として過ごす者、運動選手として過ごす者、『自分が将来なにをしていきたいか』『何が好き』『何が得意』なんて意味をもたないし、関係がないことだ。
 引っ越し先の部屋のベッドにごろんと横になりながら、ふと、天井を眺めるユミヒコ。
「僕はなんのために生まれてきたんだろう?」
 ぼんやりとした思考のはずなのに、はっきり決めなくちゃいけない気がする。まだ、この思考を有意義に繰り返していたいと思うが、キーンとした金属音のような声で思考を遮断された。
「ユミヒコ。食事ですよっ」
 ハハオヤのマルムルの声だ。
「ああ。わかったよ。いくよ」
 めんどくさいなと思いつつ、食卓へ向かう。食事と言ってもゼリー飲料に過去の地球に自生していた食物や料理の味付けがされているだけだ。食事の回数は一日に一回。一日分の必要な栄養を一度に摂る。あとは、喉の渇きを潤すために水分の接種だけ行う。
 食卓につくとチチオヤのパルトがもう席についていた。ぎろっと睨むようにしながら、
「ユミヒコ。明日からスクールが始まるのだよ。食卓につく時間ぐらい正確にしなさい。予定より一分三二秒も遅れている」
「わかったよ。うるさいな」この感情をかみ殺す。
「はい。ごめんなさい。オトウサン」
「まぁ。いい」
 自分の意見が通り満足したのか、それ以上は何も言わなかった。
「さぁ。食べましょう。今日は日本食にしました。焼き魚と味噌汁です」
 マルムルが相変わらずのかなぎり声で言う。
 ユミヒコは、ちょっと、ぐっと胸を押さえつけた。
「うげー。また、こんなまずいものを食うのか」
 今度ばかりは、本心が声に出された。
「なんだい、どういうことだい? これを作ってくれた人に感謝して食べられないのかい?」
 さっそく、パルトからお決まりの文句がきた。
「じゃ、聞くけどさ、作った人って誰だよ? たんなるゼリーに香料とかで味付けしてるだけじゃん」
「工場で決められた人が管理下で作っているのです。香料も過去のものを忘れぬようにと考えて作られているのですよ」
 パルトは容赦なく言ってくる。ユミヒコも負けじという。
「だって、食事なんて栄養取るだけのものじゃないか。それなら食べやすいものにしてくれよ」
「そんなことはありません。食事は大事なコミュニケーションの場であったりだな」
「それから、なんだよ! 言ってみろよ。そらっ、言えないじゃないか」
 パルトは、ぐっと押し黙る。
「ああ。ごめんごめん。僕がリョウシンを君達を作るときにその答えを入れなかったね。ああ、僕が悪いのさ」
「お父さんになんてこと言うのっ。謝りなさいユミヒコっ!」
 マルムルが顔を真っ赤にして怒鳴る。
「だってそうじゃないか。きちんと答えもだせないなんてさ。リョウシンじゃないよっ」
 むかむかとする感情をおさえつつ、自室へと戻るユミヒコ。
 ベッドに顔をうずめながら、自分がなぜこんなイライラするのか、思いつつ眠りについた。
 眠りに入る前に誰かがそっとユミヒコにブランケットをかけた。

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