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分岐する運命

 腕時計を見ると22日だ。学校に復帰してから3週間ほど立っている。
 その日、俺は下駄箱の中からラブレターをもらった。
 相手の名前は読めないが会ってみることにした。

 17時に体育館の裏で待ち合わせだったのだが、17時にまだ昇降口で靴の履き替えに手こずっていた。
 焦るとうまく靴が履けない。
 ようやく昇降口を出ると、3階の方から僅かにピアノの音と女声合唱の声が聞こえてきたので立ち止まり、上を見上げた。
(何か……懐かしい音楽だな)
 なぜそう思うのか不思議だと思いつつ、体育館の方向に足を向けた。

 指定の場所へ向かってスピードを上げて走っていると、目の前に130~140センチくらいの背の低い女生徒が、体の半分の大きさの人形を持って俺と同じ方角へ歩いているのが見えた。
 ミディアムのヘアスタイル。少し赤毛。
(ああ、廊下でよく見る小学生か)
 あの髪で人形を持っているのは一人しかいない。
 彼女はうちの学校の女生徒だが、背が低いので俺は<小学生>と名付けている。
 すると、その彼女のポケットから何かが落ちた。
 その時、遠い記憶が蘇ってきた。

(この光景……どこかで見たことがある……いつだろう)

 彼女は落とし物に気づかない。
 さらに、記憶が蘇った。

(そうだ……話しかけないといけない気がする……何故だろう……分からないが、この子に話しかけないといけない気がする)

 俺は彼女の落とした物を拾って、「落ちたぞ」と声をかけた。
 彼女が振り向く。
「ほら」っと落とした物を手渡した。
 彼女はちょっと驚いた様子だったが、ニコッと笑って「ありがとう」と言う。
 アニメに出てくる小さな女の子によくある可愛い声だ。
「どういたしまして」
「お礼をしたいけど」
(そんなに大事な物か?)「いいって、いいって」
 俺が走ろうとすると、彼女は手を振った。俺も手を振った。
 そのまま体育館の裏へ急いだ。

 体育館の裏へ行く途中、渡り廊下で男子生徒に絡まれている女生徒を助けようとして男共と喧嘩になり、派手にやり合って保健室へ運ばれた。
 女生徒は、身賀西(みがにし)イヨと名乗った。
 成り行きで俺の彼女になったが、彼女は照れている様子だった。

 喧嘩のせいで待ち合わせ時間が過ぎたため、ラブレターの相手と会うのを諦め、教室へ鞄を取りに行くと、遠くでピアノの音と合唱が聞こえてきた。
 まだ練習しているらしい。
 さっきも気になったので、音の聞こえる3階へ行ってみた。

 合唱は音楽室の方からだ。
 音楽室の近くに行くと、廊下でしゃがみ込んでいる女生徒が見えた。
 大きな人形を抱えている。さっき落とし物をした彼女だ。
 音楽室の扉の前に陣取り、壁を背にして指をしゃぶっている。いや、爪を噛んでいるのだろう。

 彼女が俺に気づいて立ち上がり、手を振りながら近づいてきた。
「さっきはありがとう……あ? 怪我している。どうしたの?」
 喧嘩とは言えないので誤魔化した。
「いや、転んで」
「ああ、さっき走っていたからね」
「そうそう」
 明らかに嘘だ。
「保健室の薬より、私が持っている薬の方が効くのに。まあ、いいか。」
 ちょうど音楽室の中では練習が終わったらしく、ガヤガヤと声がする。
 彼女はポケットの中に手を入れて何かお守りみたいな物を取り出した。
 赤いお札のようだが学業成就みたいな言葉は書かれておらず、首にかけられるように細い金の鎖が付いている。
「今度会ったときに渡そうと思ったけど、ちょうど良かった。お礼にどうぞ」
「そこまでしてもらわなくても」
「あれは凄く大事な物だったから。受け取って」
「そう。じゃ、遠慮なくもらっておく。ありがとう。何のお守り?」
「幸運が来るわ。ところで、お名前聞いていい?」
「俺? 鬼棘(おにとげ)マモル」
「……やっぱり」
「やっぱり、って?」
「いいえ、こっちの話。……私、梨獲華(なしえか)リク。よろしくね」
「ナシエカ リクさん? こちらこそよろしく」
「私2年1組。マモルさんは?」
「俺6組」
「わかったわ」

 その時、音楽室の扉が開かれて、色とりどりの髪の女生徒が出てきた。
 その中に黄色い髪でマネキンのように美しい女生徒が混じっていた。
 彼女は笑顔で「キャー!」と言ってリクの人形に近づいて言う。
「カワイイ~」
 彼女は人形をなでなでする。リクが微笑む。
「今日はクマさんよ。カワイイでしょー」
「ウンウン」
 他の女生徒も二人を取り囲むように集まる。そんな(なご)やかな雰囲気に、満身創痍の俺は場違いなのでその場を去った。

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