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死んだ後の世界

 どうしてこんな場所に居るんだ?
 さっき俺は何かの爆発に巻き込まれ死んでしまったんじゃないのか?

 しかもゲームを続けて下さいだって?
 理解が追い付かない…何なんだ………







 それは今日の昼休みの事だった。
 俺の名前は大木 朝陽(おおき あさひ)会社員で営業係だ。
 高校卒業した後から6年間この会社にお世話になっている。

 今日もいつもの通り午前の商談を終わらせて来て、同僚達と近くにある定食屋に向かっていた。

「今日も朝陽はカルビ定食か?
 いつも同じもん食って飽きないもんだよなぁ…」

「肉食って午後の営業の力を養ってんだ。
 それに美味いんだってあそこのカルビ定食は、いつ食べても最高の味を提供してくれるんだぞ。」

 話し掛けて来たのは同期の下山 樹(しもやま いつき)だ。
 見た目から「体育会系です」と言わんばかりの体格の良さと豪快なキャラクター、顔までしっかり筋肉ついてんじゃないかと思う…
 高校ではラグビーやってたらしい、納得出来る感じだな。
 樹とは配属が同じ部署で、会社終わり呑みに行くようになり愚痴を言っている内に気が合って、今では地元の友人より仲が良いかもしれない程の存在だ。

「僕は無理かな〜、だって毎日色んな物を食べて色々と経験してみるのが好きなんだもん。」

 こいつは吉澤 拓(よしざわ たく)と言って毎日違う眼鏡を掛けて、お洒落を気取っている。
 樹と違って体格が良い訳でもなく、どちらかと言えば華奢な方だろう。
 色白で、俺らと一緒に居ても若く見られる位の童顔だ。
 こいつも同期だが樹の様に気が合って仲良くなった理由では無い。
 拓とは配属された部署も違い、入社式の時もこいつが居たかどうかも覚えていない。
 こいつは元々女癖が悪く、入社後1ヶ月で女性問題を起こしていた。

 それは4年前の事だった、その女性問題で樹の想い人に手を出して来たのだ…
 会社内で樹が大声出すわ、拓は気にせずに歩き続けるから樹のスピーカーが会社の至る所で聴こえていた。
 結局仲裁として俺が入って話しを聞いた訳だが、拓が手を出した樹の想い人から「両方興味はありません」って事で事情を説明し、その日に傷心会を開き、その時からなんだかんだ事付けては集まる様になって今に至る。

「俺はお前と違って何でも一途なんだよ。」

「言い方が悪いな〜、僕はさっきも言ったけど色んな経験をしてみたいだけなの」

「拓、朝陽はそれがいかんって言ってるんだと思うぞ…」

「良いですよね〜朝陽さんは咲さんと言う女性がいるから〜、僕はまだまだフリーなんで楽しめる時に楽しんどきますよ〜だ」

 咲と言うのが俺の彼女だ。
 高校の時からの付き合いで、今度の休みには向こうの親御さんに挨拶に行く予定だ。

「はいはい、じゃあ充分に楽しんどけよ。
 俺は先に幸せを満喫しておくからさ。」

「俺が居るところでそんな事言わなくてもいいじゃないか…」

 樹は最近また振られたみたいで、またまた傷心中だ。
 またまたって言うのが、女性慣れしていないせいか、ちょっとした事で気があるんじゃなかろうかと暴走し、告白→破局を繰り返している。
 根が真面目なだけに注意の仕方に困ってしまい、なかなか言い出せないままでいる。

「まぁそんな事は気にせず美味いカルビを食って、午後の営業の力を養おうじゃないか」

「僕らは違うの食べるんだって…」

 定食屋に向かう途中、何やら後ろが騒がしくなり悲鳴や叫び声が聴こえてくる。

 スクランブル交差点で信号待ちしている俺らは何が起こっているのか全く見えてこないが、危機的状況が起こっているのだけは解る。

「何が起こってるんだ?
 樹、背伸びしてでもジャンプしてでも見る事は出来ないか?」

 俺らの中で1番背の高い樹に状況が解るか確認するが、信号待ちの真ん中に居た俺らは後ろから押されて前の人間に挟まって身動きがとれなくなる。
 そして、雪崩式に倒れていく…
 倒された後にようやく何が起こっているのか解った。
 1台のトラックが結構なスピードで歩道を走って来ている。
 しかも、周りを見渡すと違う場所で信号待ちしている所にも迫って来ている。

 このままでは轢き殺されるぞ
 だが何人も重なってもみくちゃになりながら倒れている所為か抜け出せない。

近付いて来るトラックを見て死を覚悟する。
 あぁ死ぬんだ…こんな所で…
 そう思った時、トラックは歩道を外れ交差点の真ん中に向かって行った。
 助かったのか?
 だけど、他の場所のトラックも交差点向かって走って行く、合計4台のトラックが交差点中心に向かって行っている…

 そして、交差点の真ん中でトラックがぶつかり合い、その衝撃音がビルの間に響き渡り、次の瞬間激しい光と俺らを包んだ……

 

どうなったんだ…
 息が苦しい………………

 目を開けると交差点は隕石でも落ちて来たのかと思う程のクレーターになっていた。

 そして、俺の胸には……さっきこっちを襲いかかろうと走って来ていたトラックの破片が……刺さ……って……いる……?

 1番死を覚悟し、難を逃れたかと思った後の爆発……胸に刺さる金属
 息…が…苦……しい…………

 あいつらはどうなって…いる?

 樹は?
 俺の左側に居たはずだ……
 目線を左側に向けるが、そこにあるのは腹より上の部分がない身体だ……
 樹……死んだ……嘘だ……さっきまで一緒にバカ言ってたじゃないか……

 拓は生きているのか?
 後ろに居た拓を見る……
 拓のトレードマークである眼鏡はなく、眼鏡があった場所に俺の胸に刺さっているような金属片が刺さっている。
 拓まで死んだ……何でこんな事に……嘘だろ……こんな事があってたまるか……
 夢だ……これは夢なんだろう……目を覚ませば朝だ……仕事に行かなきゃ……いけないだろ……

 痛い……胸が、息が……出来ない……
 口から大量の血を吐き出す。
 現実なのか……死ぬのか俺は……

 咲と週末に親御さん所に挨拶に行くんだ。
 それで、親父さんと気まずい空気の中認めてもらえるように咲への想いを伝えるんだ……

 こんな…と……こ……で………死………ね…………な……………………

 俺の意識が…命が途切れた……






 明るい光が目に射し込む…

 どうなってる?此処はどこだ?
 息が出来る、胸に刺さった金属片が…無い

 白い壁に囲まれた部屋で目を覚ます。
 ベッドが置かれ、その上で俺は横たわっていた…

 どうしてこんな所に居るんだ?死んだんじゃなかったのか?

 部屋を見渡す。
 部屋と同じ色のテーブルが置かれ、その上に腕章の様な物が置かれている。
 何だこれは?考えても答えが出ないが、永遠に疑問が浮かんでくる。

 よく見ると自分の服もスーツではなく、白い上下のワイシャツとスラックスだ……

 俺が生きていると言う事は樹や拓も生きているんじゃないのか?
 先ずはここから出ないと…でも、出口が見当たらない。
 部屋を隅々まで観察していると1箇所四角い凹みがある…これは引き戸か?

 凹みに触れて横にスライドしてみると、ドアだった様ですんなり開いた。
 テーブルに置かれた腕章を手に部屋から出る。

 出た先は同じ様な白い壁が続く場所で、体育館程の大きさのになっていた。
 俺と同じ様に白い上下を来た人間が大勢確認出来た。
 部屋が空いていない所もまだあり、ここへ集められた人間まだ居ると言う事だ。

 あいつらが居ないか走り回り確認するが居ない…
 あいつらは死んでしまったままなのか?
 ここに居ないだけで、まだ空いて居ない部屋に居るのかもしれない…

 部屋の中央に行き、空いて行くドアを確認していく…が現れない……
 居るんだろう早く出て来いよ。

 そう思った時だった。
 部屋の上部に赤い文字で60と表示されたタイマーが現れた。
表示が59、58と変わっていく……
 残量だ…残り時間を表してるのか、と言う事は急いで出て来ないともしかしてロックが掛かってしまうとかじゃないよな?
だが可能性はある、急いで真ん中で叫ぶ。

「みんなすまない、上部に出て来たタイマーは部屋から出れる時間を現しているのかもしれない。
 急いで開いていない扉を叩いて、出る様に促して下さい。」

 皆んなで手分けしてドアの中の人を叩き起こして行く……

樹、拓どこだ…どこに居る?早く出て来い。
乱雑にドアを叩き、声を掛けていく…

残り時間20秒に差し掛かった時に聞き覚えのある声がする。

「その声は朝陽か、此処はどこでどうなっているんだ?」

樹の声だ、部屋の中にいる以上このカウントダウンは見えていない。

「ああそうだ。それよりも急いでこっちへ来て、四角い凹みを横にスライドして出て来い。」

早くしろ、本当に時間が無い…
残り時間が1桁になろうかとする時にやっとドアが開く。
視界に樹が入った途端に、有無を言わさず引きずり出す。
樹が俺の後方にバランスを崩し倒れてこんだ次の瞬間、タイマーがゼロになり部屋の天井が勢いよくベッドとテーブルを押し潰した。

その光景を目にし唖然となる……
出れなくなる位じゃない…部屋から出れなかった者は押し潰されて死ぬ……

振り返り樹の無事を確認し安堵するが、直後叫び声が響き渡る…
まだ開いて居ない部屋から赤い血が流れ出してくる……
全面が白いこの空間に血の赤色は目立つ。

そう言えば拓はどうなった?
混乱が蔓延していくこの空間で、樹と一緒に拓を探して行く。

その時だった、天井からボイスチェンジャーを使っているであろうアナウンスが流れてきた…

「皆さん第1のステージクリアおーめでとーございますーー
あなた方には次のゲームに進む権利が与えられましたーーーーパチパチパチー
ステージクリア出来なかった方々はざーんねん、強制的に退場して頂きましたー」

何だこれは?ステージ?ゲーム?一体何の事を言っている?

「次のステージへ向かわれ方々にー、ルールの説明を行いますね〜
あなた方はここに来る前に爆発によってお亡くなりになられました〜可哀想に〜
そこでこのゲームをクリアして頂ければ〜生き返る事が出来まーすぅ
良かったですね〜、でもクリア出来なかった方は……さっき見て頂いたように退場して頂きまーす」

「それと〜さっきの部屋にあった腕章は持ち出されていますか〜?
その腕章は〜ここを出るための〜手助けをしてくれるぅ大事なアイテムなんでーーーす
持ち出せなかった人は残念〜」

ポケットの中に入れていた腕章を取り出してみる。
五角形を逆さにした形状で、黒縁で中は金色
その中に上からの矢印と逆行して、人が飛び上がっている絵が描いてある。

「それはですね〜中に描かれた絵によって各個人に持たされた能力を表しているんです〜スゴイですね〜
例えば、何かを持ち上げる様な絵が描いてあれば、その人が力持ちになっちゃうんですよ〜なんて良いものなんでしょうね〜」

俺のは矢印に逆行して飛び上がっている絵だ、単純に考えれば空を飛ぶ等の力なのか?

「説明も終わったので〜次のゲームを始めようと思いまぁすぅよ〜
ルールは簡単で今から開く扉を通過してもらうだけのか〜んたんなゲームですぅ
それでは生きてクリア出来る様に応援してますね〜」

言った直後、背後の壁が開く…
すると、大型犬よりも大きいサイズのコオロギもどきが出てくる…しかも何十体もだ。
そして、反対側の壁も開いた……
コオロギもどきの1体が飛び上がり、人にのしかかった…
倒された人は足掻いているが相手の重さで立ち上がれない。
そうやっている最中コオロギもどきはその人の頭にかぶりついた…いや、あれは食べたと言った方が正解だろう……
それを見ていた皆が一斉に反対側のドア目掛けて走り始める。

さっきのアナウンスが気にかかる…さっき何て言った?
俺が考えていると、肩を掴まれ振り向かされた。

「オイ、急いで逃げるぞ。
早くしないとアイツらに襲われてしまう…
朝陽、早くしろ!!」

アナウンスが……思い出した。
逃げる?多分、いや間違いなくそれは違う。

「樹、多分それは不正解だろう…
さっきのアナウンスを良く聴いていたか?
「今から開く扉」って言ったんだぞ、先に開いた扉はどっちだった?
コオロギもどきが現れた扉じゃなかったか?」

アナウンスはしっかりとルールだけは説明していた…そのルールでゴールは今から開く扉と…

「何を言っているんだ?あっちの扉にはアイツらがうじゃうじゃいるんだぞ。」

「そうだな、でも間違いなく後で開いた扉は不正解だ。
向こうは悲惨な事が待っているだろう…
だから、アイツらを掻い潜ってあっちの扉に入るのがクリアの条件だ。
樹、行くぞ…アイツらは瞬発力は凄いが、動きは絶対的に直線上になる。
だから、アイツらの正面に立たなければ行けるはずだ。」

「正気の沙汰とは思えないが、お前が言うなら間違っていないだろう…
解った正面に立たない様に進めば良いんだな?」

「多分そうだ。アイツらをしっかり見定めながら前に進むぞ。」

「死んだら絶対化けて出てやる。」

「信じろ、この手の問題は得意だからな。
化けて出てやるって言っても多分すでに1回は死んでるんだぞ」

2人で皆が逃げる逆方向に移動する……
人が襲われているのを利用して扉へ向かう。
これが正解と祈って……

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