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またもや告白される

 翌朝、下駄箱を開けると、中からヒラリと白い封筒らしい物が出てきて下に落ちた。
(何だろう? またミイか?)
 足下に落ちた封筒を手にとって見ると、裏に<品華野ミキ>と書かれている。
(今度は誰だ?)
 手紙を見ていると、横を通り過ぎる女生徒達がこちらをチラチラ見るので封筒をすぐに鞄の中へ隠し、後でトイレの個室の中で封筒を開けた。
 中には可愛い絵柄の便箋が折り畳まれて入っていた。
(ミイのと同じ便箋だ。流行か?)
 俺はそれを取り出して開いた。

(なになに……『あなたのことが前から好きでした』……またか。えーと……『お話があります。17時に体育館の裏で待っています。』……ミイと同じ文面だな)
 偽の俺が、実はこんなにモテていたなんて、意外である。
 ミイの時は会ったので、今回断る理由が思いつかない。俺は会うことにした。

 指定の場所に着くと、20~30メートル先に女生徒がこちらを向いて立っているのが見えた。
 俺は少しドキッとした。
(あれはミイじゃないのか?)
 背格好も髪型もそっくりだからだ。
 少し間合いを置いて、俺の方から近づいて行った。徐々に顔がはっきりと見えてきた。
 ショートヘア。少し茶髪。髪の両側に太くて赤い髪留めをつけている。
(ああ、あの似ていない双子、ミイじゃない方だ)
 腕を組みながら廊下を歩いている二人のうち、目のぱっちりした方だ。

 二人の間が10メートルくらいに近づくと、彼女は頭を下げる。俺はミイの時と同じく、3メートルほど距離を置いて足を止めた。
 彼女は頭を上げて口を開いた。
品華野(しなはなの)ミキです」
「シナハナノ ミキさん?」
(そう読むんだ)
「はい。ミキでいいです」
鬼棘(おにとげ)マモルです。初めまして、かな?」
 昨日と同じ探りを入れた。
「いえ、前に助けていただいたことがありました。その時はお話しできなくて。こうやってお話しするのは初めてです」
「そう。記憶喪失なので、覚えてなくてゴメン」
「いえいえ。来ていただいてすごく嬉しいです」
「そう」
「マモルさん、と呼んでいいですか?」
「いいよ」
 昨日のミイとは全然話し方が違う。やはり、似ていない双子だ。本当に双子かは知らないが。
「あのー、前から好きでした。お付き合いしていただけますか?」
 彼女も言い方は違うが、ストレートだ。そこで昨日と同じことを聞いてみた。
「俺のどういうとこが好きなの?」
「格好良くて、力が強くて。私の憧れです」
「それほどでも」
(同じことを言うなぁ)
「いいえ、これほど強い男子生徒はうちの学校にいません。……あのー、私とお付き合いしてもらえますでしょうか?」
 ここで考え込むのはイコールお断りだろうと、昨日の流れで俺はつい首を縦に振ってしまった。
(ちょっと待てよ。これじゃ二股じゃないか!)
 しかし、気づいたときは遅かった。
「ありがとうございます。嬉しいです。今日、お暇でしょうか?」
「あ、……ああ、この後は特に予定はないよ」
「お茶でも飲みに行きませんか?」
「わ、……分かった」
 言葉は違えど、昨日とそっくりな会話をしていることに気づき、変な気持ちになった。それから、<二股>の二文字が俺を動揺させた。
 彼女はそんな俺の動揺をつゆ知らず、ホッとした表情で立っていた。

 兄弟みたいな他人がたまにいるが、それは顔のパーツがどれもよく似ているから、他人でも兄弟に見えるのだ。しかし、目がぱっちりしているか細いか、かなり印象に左右するパーツが違うと、それ以外はそっくりでも他人に見える。
(双子なんだろうか? 他人なんだろうか?)
 彼女と俺はそれぞれ鞄を取りに教室へ戻り、門で待ち合わせて、街へ繰り出した。
 歩いていても彼女は手を握ってこない。
(ちょっと期待した俺がバカだった。……昨日は特別。これが普通だよな)

 駅の近くにあるパーラーに入った。昨日と同じ店である。
 中に入ると、女店員が昨日ミイと一緒に座った奥の席へ俺達を案内した。
 彼女は、昨日ミイが座った席にサッと座る。
 そこには座られないように俺が座るつもりでいたが、失敗した。
 同じ位置で別の女生徒と向かい合わせ。これは気まずかった。
 彼女はフルーツパフェと紅茶を、俺は昨日のことがあるのでタルトとコーヒーを頼んだ。
「ショートケーキはお好きじゃないの?」
 昨日注文した品をズバリ言われたので、ドギマギながら答える。
「い、いや、好きだけれど。今日はこっち」
 彼女は微笑んで言う。
「このお店、初めて?」
 もしここでコーヒーを口にしていたなら、確実に吹き出しただろう。
「ま、前にも来たことがある。友達と」
 咄嗟(とっさ)に嘘をついた。
 彼女は意地悪そうな目で言う。
「男友達と?」
 動揺して目が泳いだ。
「あ、ああ……」
 ここまで畳みかけられると、昨日ミイとデートしていたことが彼女に筒抜けなのではないかと思った。

 彼女がフルーツパフェを嬉しそうに頬張る姿が可愛い。
 紅茶の香りを楽しみながら美味しそうに飲む。
 俺は彼女の姿にミイの姿を重ねていた。
(仕草までそっくりだ)

 彼女が結構しゃべるのには驚いた。だいたいミイの時と似たような話をしたが、今の世の中のこととか、少し暗い話もした。
 彼女は2年2組。家では姉と母親と三人で暮らしているらしい。
 父親は戦死。母親は軍需工場で働いているそうだ。
 姉は同い年で2年3組。血がつながっていないという。
 詳しくは教えてくれなかったが、少々家庭環境が複雑なのだろう。俺はあまり詮索しなかった。
 不思議と彼女は、俺というか偽の俺の昔話をしなかった。
 彼女と楽しい話をしていると、心地よい。あっという間に時間が過ぎてしまった。

 帰り際に彼女が言う。
「私、習い事があるので、金日火しか空いていません」
「じゃ、ほぼ一日おきという感じだ」
「はい。……で、習い事のないときに、またこうしてお話しできますか?」
 これを聞いて動揺した。
(と言うことは、二人から交互にデートを申し込まれたわけだ)
 急に、顔が熱くなった。
(ここで断るのか? ここまで来たら断れないだろう?)
 そこで、動揺を隠しながら答えた。
「……い、いいよ」
 彼女は微笑んだ。

 パーラーの店の前で俺達は別れた。
(初対面で断るのも悪いと思ったが、これって完全に二股だよな)
 そう思うと、ひどく不安になってきた。
 家に帰ると、また帰りが遅い俺に対して妹が少し怒っていたが、先生に絞られたと出任せを言って謝るしかなかった。妹は不満そうだった。

 こうして俺は、ミイとミキと交互にデートすることになった。

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