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3−4: 知能サービス・ユニット

「じゃぁ、イルヴィン、あなたが気にしている知能サービスとサロゲートの話ね」
「あぁ。テリーのものを基にした分類だとこうなるらしい」
 TVにはイルヴィンのウィンドウが前面に現われた。そのウィンドウは上下に分割され、上には「根拠がありそうに見える不可解な話」と示され、下には「現代の怪談」と示されていた。
「『根拠がありそうに見える不可解な話』でいいのかな?」
 イルヴィンがそう言うと、ウィンドウの分割は解かれ、「根拠がありそうに見える不可解な話」と示されたものが残った。そのウィンドウには短いタイトルと、そしてやはり短かい概要が映っていた。
「もうちょっとウィンドウは広い方がいいな」
 テリーの言葉に応え、TVにあるウィンドウは広がり、概要として表示される内容が増えた。
「このタイトルや概要なのかな? これは君たちがつけているのか?」
 イルヴィンはエリーとテリーに目をやった。
「いや、それも知能サービス」
 テリーはピザを取り、TVを眺めながら答えた。
「うーんと。『知能サービス・ユニットは脳』を見せて」
 テリーのウィンドウが前面に現われ、「知能サービス・ユニットは脳」というタイトルと、その内容が表示された。
「そこを基点に、伝播と変異、関連のウェブを見せて」
 新たにウィンドウが開き、「知能サービス・ユニットは脳」を中心に置いた蜘蛛の巣状の映像が現われた。線には太いものもあり、細いものもあった。線の交点には、小さく、あるいは大きくタイトルか、その一部が表示されていた。太い線同士の交点にあるタイトルは、大きく表示されていた。
「さて、『知能サービス・ユニットは脳』だけど、」
 テリーがそう言うと、ウィンドウは先のものに戻った。
「イルヴィンも知っているとおり、ユニットは一辺が10cmの立方体。まぁ、その資料が正しいとしてだけど」
 またウィンドウが開き、立方体が表示された。
「これの容積は、10 x 10 x 10だから1,000ml」
 その計算が立方体の横に表示された。
「知ってのとおり、人間の脳の容積は1,350mlってとこ」
 エリーの言葉を受け、そのウィンドウに脳の絵が現われ、またその下に容積が表示された。
「うん。そうだね。つまり、收まらない。じゃぁ、これと関連しそうな近いものを見てみる」
 テリーがそう言うと、都市伝説のウェブを示すウィンドウが前面に現われた。
「ほら、伝播の過程で、それに気付いた人もいるわけだ。修正か変異が起きてる」
 ウェブ表示上の「脳の分解」というタイトルが大きくなり、明滅した。
「それを表示」
 テリーの言葉を受けて、「脳の分解」の内容がテリーのウィンドウに表示された。
「これは、間を飛ばしてるのかな」
 テリーは表示を読みながら呟いた。
「一気に脳の分解が進んでるけど。頭蓋内が、400部位に分解されているって話になってる」
「400部位って?」
 エリーが訊ねた。
「さっきの脳の図で見るよ」
 先の立方体と脳が描かれたウィンドウが前面に出た。
「片側だけの表示で」
 頭蓋内の、とくに大脳の外側表面と内側表面を示すウィンドウが開いた。
「大脳皮質が52部位だっけ? 基底核が6個? 辺縁系が20個くらいかな。あぁ、22個か」
 テリーの言葉に合わせ、データを示すウィンドウが現われては消えた。
「小脳はどうなんだろうな。52個でいいのかな。間脳が5個」
 テリーは頭蓋内を示すウィンドウをあらためて確認した。
「ここからはどうなんだろうな。仮に、中脳が19個。橋が27個。延髄が28個とするか」
 立方体が示されているウィンドウが前面に戻った。そこにある脳の絵の横には、テリーが言った部位とそこに含まれる数が表示されていた。
「これを合計すると、」
 ウィンドウのそれらのデータの下に「211」と表示された。
「小脳以降は部位の数え方に自信がないし、仮に実際に話のようになっているとしても、そもそも全体としてどう分解されているのかもわからない」
 そこでテリーは缶を傾けた。
「だけど、随分いい推定かもしれないな」
「211だと400の半分程度だが?」
 イルヴィンが訊ねた。
「いや、今のは大雑把には脳の左右の片方の話。だから、数を比べるなら、それの倍」
 テリーはまた一口ピザを食べ、ドリンクでそれを流し込んだ。
「これだけ分解すれば、ユニットに入ることは入るよな。そうすると、内容まではともかく、問題は、分解というアイディアがどこから来たのかだな」
 「脳の分解」を中心に置いた、新しいウェブ表示が前面に現われた。
「これに水槽の中の脳と、脳の分解に関する思考実験も加えてみよう」
 その言葉を受けてウィンドウの内容が変化した。
「あぁ、それだ。『脳細胞を配布』の話を」
 テリーはウィンドウを確認して言った。
「全体があれば、人格は生まれるかもしれない。でも、脳細胞一つだけを、それ以外のシミュレートを行なう機器に接続したらどうなのか。そこに人格は生まれるの? 生まれるとしたら、それは誰の、あるいは何の人格なの? そういう問題ね」
 ウィンドウを眺めながらエリーが言った。

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