◇プロローグ
これは、本編よりおよそ十年前――
カインがまだ〝少年〟と呼ばれていた頃の物語である。
今の〝彼ら〟の関係は、そんな小さな少年の片想いから始まった。
◇◇◇
ここはアケドラルと呼ばれる不可思議な世界。
その世界にある〝北の国〟では、北の領に魔族が、南の領に人間たちが、それぞれ暮らしていた。
そしてもちろん、魔族というからには〝魔王〟もおりました。
さて、その魔王を倒そうと、ある日、とある本に感化されたひとりの若者――
いや、少年か? ともかく、ちょっとおかしな男の子がおりました。
彼が読む本のタイトル、それは――
〝魔王討伐日誌〟
この本は人間たちの間でとても有名で、絵本にもなっているほど、広く親しまれているものでした。
彼はその本を閉じると、勢いよく立ち上がり、元気よく言った。
「この本の勇者みたいに、俺は魔王を倒して勇者になるぞ! いや、むしろ今から俺は〝勇者〟だ!」
かくして〝自称勇者〟カインは、旅の装いに着替えると、意気揚々と家を飛び出したのだった。
――それがおよそ一年前のことである。