89.神獣 対 魔法の夫婦
「安菜、しばらくこっちの仕事に集中するから。
チーム・ノーブル・アンビルの言うことをよ~く聴いて、良い子にするんだよ」
『・・・・・・了解。
Amuse toi bien』
フキゲンな声でアミューズ トワ ビァン。
フランス語で楽しんで。だって。
スマホは切られた。
おふざけが過ぎたかもしれない。
だけどね、これで良いんだろう。
涙の別れ、とか、あとで取り返しがつかないケンカをしてしまった、よりはずっとふさわしい!
さてと。
「忍! 」
河川敷にはウイークエンダー・ラビット、パーフェクト朱墨、ブロッサム・ニンジャがならんでる。
そのブロッサムのパイロットをよぶ。
『はい、こちら忍』
「みつきのところへ行って、非連続時空間狙撃モードになって」
『了解』
みつきの機体はディメンション・フルムーン。
そしてブロッサムとディメンションが合体した姿が、非連続時空間狙撃モード。
2機はすべてのセンサーを一点に集中することで、物理法則が変わってる世界を観測する。
あの超巨大キャプチャーのような、こっちの世界とは切り離された世界でもね。
そう言うのを非連続時空間とよぶ。
さらに、ディメンションの強大なエネルギーを渡すことで、ブロッサムの両手の大砲は威力を高める。
広大な非連続時空間を貫ぬくモードになるんだ。
そしてこれは、ハンターの中には使うものもそれなりにいる。
ブロッサムの腰から延びた2枚のはね。
中のファンがバタバタと回り、青い巨大ロボットを空へ運んだ。
『こちらみつき。
集中して調べるのは、あの赤い光でいいね』
「そう。ボルケーナ先輩の物に違いない、あれ」
超巨大キャプチャーの中で、たくさんの赤い光がまたたいてる。
瞬きの間隔はバラバラ。
短く瞬いたり、ゆっくりだったり。
しかもあの光、集まってる?
発光のタイミングも、そろっていく気がする。
「先輩がでてきそうな様子を見たら、教えて」
『『了解』』
「映像は、近くから撮った映像はないの? 」
そうだ、チーム疾雷なら。
あのキャプチャーを取り囲んでいる達美さんたちなら。
『チーム疾雷が、映像を公開しました!
超巨大キャプチャーを囲んでいるチームです! 』
この声は、ホクシン・フォクシスのアナライズ担当の、宇潮 心晴さんのだ。
「仕事早いですね」
ちょうど道路で、キャプチャーの端が来ている地点の映像だ。
そこに、ひときわ大きな赤い光がある。
このまま、出られるのかな。
そう言えば宇潮さんは、科学系動画配信者上がりだった。
デモで熱心に撮影してたな。
あのあと動画は公開されたんだ。
でもなぁ、組織の論理としては、控えてほしいのも事実なんだ。
恥ずかしい失敗を写すこともあるから。
私がゲンコツを振り上げ、ちっちゃい子たちにしがみつかれて止められたシーンも、バッチリ。
『アー!! 』
ビックリ!
宇潮さんの叫びがとびこんだ。
『ああっ、失礼しました。
今、ルルディ騎士団からの観測データをもとに、ボルケーナ氏の動きを予想してました。
外に出ようとしていることは、間違いないです』
「詳しく話して」
『詳しく話して』
朱墨ちゃんと同時に言った。
『了解。
まずは、あの巨大キャプチャーの説明から始めます。
あのキャプチャーにかけられた魔法は、みんなが使うキャプチャーのように、相手を固く閉じ込める物だけではありません。
内部では時間や空間がバラバラなんです。
真っ直ぐ進んだつもりでもキャプチャーの中に向かっていたり。
同じ距離を歩くのでも、何十倍、何百倍の時間がかかったりします』
さすが、ルルディ王国の王と王妃。
魔法の重ねがけって難しいんでしょ。
『それでもボルケーナ氏は、自分で空間と時間を支配しようとしているんです』
そっちも、さすがだね。
そうか。
空間がバラバラだから、違うところに赤い光が見える。
時間が違うから、同じタイミングのまたたきも違って見えるんだ。
その光は今、超巨大キャプチャー表面では。
道のそばでさらに大きくなっていた。
すべての光が1ヵ所に集まり、ひときわ大きく輝いた。
『出てきました!
ボルケーナ氏です! 』
モニターでは、たちまち速報で流れた。
ボルケーナ、帰還のニュースが。