ジョンさん 2
ヨーリィの短くて的確な言葉にジョンは怒り狂う。
「ふざけるな!! いかに勇者とは言え、魔人の残した武具を相手に勝てるわけ無いはずだ!!」
ジョンはシルクハットをムツヤ達に向けて叫ぶ。
「くらえ!! ポッポポッポ!! ハトポッポ!!!」
その瞬間、シルクハットから無数の鳥達が羽ばたいて出てくる。
ユモトとムツヤが飛び出て防御壁を張り、目の前からの突撃を阻止した。
「馬鹿め!!」
ジョンはそう言うと、鳥の群れを上空に飛ばし、上から急降下させる。
だが、ムツヤは火柱を打ち上げ、それらを丸焼きにした。
「な、何だお前!! 無詠唱でその力は!?」
たじろぐジョンだったが、構わずもう1回鳥を呼び出す。
「まぁいい、何回耐えられるかな?」
ルーが精霊を大量召喚し、ムツヤが派手に暴れまわる。そんな中、こっそりと動いていたのはヨーリィだった。
ジョンの意識が、完全にムツヤ達に向いているのを見て、音もなく一瞬で距離を詰める。
そして、先を丸めた木の杭をジョンの手に当てた。
「あだー!!!」
そんな声を上げてシルクハットを落とすジョン。それを奪い去り、ヨーリィはムツヤ達の元へ帰る。
「ナイスヨーリィちゃん!!」
「で、奪ったは良いが、どうやって使うんだこれ」
依然として鳥達はムツヤ目掛けて突撃している。まぁ全て返り討ちで丸焼きにされているのだが……。
ルーはシルクハットを被ってみる。すると、鳥達の動きが止まった。
「あら、主が変わったって所かしら?」
ニコニコして言うと、ジョンの顔色がサーッと悪くなる。
「あ、あひぃ!!」
「行け、鳥達よ!!」
ルーの掛け声と共に鳥達はジョンに突っ込んでいく。
「なるほどね、精霊操るのと似たような感じだわ」
初見の裏の道具をルーは使いこなす。ジョンは命の逃走をしていた。
「ほら、逃げないと大変よー?」
「ひぎゃー!!!」
ジョンの後ろを付かず離れず鳥達が追いかけ、お尻をつつき始める。ルーを筆頭に仲間達はそれを見てゲラゲラ笑っていた。
「やめて、やめて下さい!! お尻の穴が増えてしまいますぅー!!」
「汚ったないわねぇ!!」
「おい、ルー。そのへんにしておけ」
見てられなくなったアシノが言うと、鳥達は追跡をやめてこちらに飛び、シルクハットの中に戻っていく。
ジョンは仰向けになりハァハァと荒い息をしている。
アシノは倒れるジョンの元まで歩いて言う。
「魔人の残した武具を許可なく所持することは禁止されています。が、まだ詳しい罰則は決まっておりません。これに懲りたら二度とこの様な事の無いようにしてくださいね」
「すみませんでしたー!!」
飛び起きてジョンはどこかに走り去っていった。
「捕まえなくて良かったの?」
ルーに聞かれるが、アシノは「あぁ」と言って答える。
「捕まえた所で大した情報は得られないだろうしな」
「ですが、あのジョンとかいう男。アシノ殿に恨みをもっているようでしたが……」
心配そうに言うモモに、アシノはあっけらかんとして返す。
「まぁ大丈夫だろ、それに恨まれるのは慣れてるよ」
夜も遅いので、ムツヤ達は街へ帰って寝ることにした。
月夜に照らされて、空を飛ぶ人影がある。
青みがかった銀髪と、獣人の耳。背中からは羽根が生えていた。
魔人ラメルの力を受け継いだ少女「ミシロ」だ。
やっと出来た心から慕える人を、この世界はまた奪っていった。
この世界は本当に理不尽で、大嫌いだ。大切なものを何もかも奪っていく。
ミシロは疲れを感じ、適当な山で休憩を取ることにした。
腹も空いているが、食べ物は無かった。
地面に降り立ったミシロは、ちょっとした洞窟の中で眠ることにした。
朝が来た。自分の涙で目が覚める。いつの間にか泣いていたのだ。
「お腹すいたな……」
朝日に照らされている外を見て、何か食べられそうな物を探した。
と言っても、ミシロには何が食べられて、何が食べられないのか分からない。
本来であれば、親が教えてくれる事だが、あの城の城主に家族は奪われてしまった。
ミシロは獣の気配を察知する。何だか感覚が研ぎ澄まされ、色々なことがわかるようになっていた。
遠くに見えたのはうさぎだ。ミシロが低空飛行で近付くと、急いで逃げ出したが、速さの差は圧倒的で、簡単に捕まってしまう。
モフモフとした感触と、温かめの体温が心地よいが、ミシロは覚悟を決める。
「ごめんね」
そう言ってうさぎの首をパキッと折った。洞窟まで戻ると、うさぎの口からは血が滴る。
ミシロはどうやって捌けば良いのか、一本だけ持っていたナイフを手に持ち考えていた。
だが、獣人の本能なのか、時間は掛かったが、毛皮を剥ぎ、内蔵を取り出し終える。