ジョンさん 1
「あの男、怪しすぎるな」
「そうよねー」
アシノとルーはそんな会話をしていた。そこにモモが疑問をぶつける。
「あの男を拘束してしまえば良いのでは無いでしょうか?」
「いや、あの男の持ち物どれが裏の道具か分からない今は、下手に取り押さえるのは危険だ。思わぬ反撃を食らうかもしれない」
アシノは言葉を続けた。
「あの男の情報を集めよう。今日中にはケリを付けたい」
「あのー、さっき街の外で戦っていた方ですよねー?」
街の食堂で、ルーがジョンに話しかけていた。
「私達ー、さっきの戦い凄いなーって思って!! お話を聞きたいので隣、良いですか!?」
「えぇ、大した話は出来ませんが。どうぞ」
ルーとユモトがジョンの両隣に座る。これはアシノの作戦の1つだった。
「私は立場上できんが、ルー、ユモト、お前達にはジョンって野郎に接近して欲しい」
「オッケー!! ハニートラップね!!」
「は、ハニートラップって!! 僕は男ですよ!?」
ユモトが抗議の声を上げるが、ルーは「大丈夫大丈夫」と言う。
「私が話をするから、ユモトちゃんは話を合わせてニコニコしてれば良いだけだから!!」
そんなこんなで言いくるめられてしまい、この状況に至る。
「確かジョンさんって呼ばれてましたよねー?」
ルーが胸元を強調させながらジョンへ少し近付く。
「えぇ、ジョンと申します」
「ジョンさんさっき凄かったですよねー。もしかして、上級の冒険者なんですか?」
ルーはジョンの視線が一瞬、胸元へ向かったことを見逃さなかった。
「一応、上級の冒険者ではあります。そして、落ちましたが勇者試験にも望んたことがありましてね」
「えー、勇者試験ですかー? すごーい!!」
ぶりっ子のようにルーが振る舞うと、ジョンも気を良くしたのか、自慢話が始まり、食事をしながら二人はそれを聞き届けた。
「で、どうだった?」
アシノに聞かれると、ルーは腕を組んで答える。
「もー、自慢ばっかりよあの男!! 紳士を装って、プライドは高いわね!! 付き合ったら変貌するタイプよ!!」
「そんな事はどうでもいい!!」
「はいはい、上級の冒険者で、勇者試験も受けたことがあるらしいわ」
勇者試験と聞いてアシノは疑問符が思い浮かぶ。
「私達もギルドで聞き込みをして、上級の冒険者ってことは分かったが。勇者試験を受けるほどの人物だったら、私が知っていても良いはずなんだが……、知らんな」
「勇者試験なんてそうそう受かるもんでも無いでしょ」
「まぁ、何にせよ上級の冒険者ってことは気を抜けないって事だな。面倒くさいな」
アシノはそう言って頭をかく。
その後の尾行はムツヤに任せていた。隠密スキルと探知スキルを使い、ジョンを監視し、連絡石でアシノに報告を入れる。
だが、夜まで特に怪しい行動はなく。中々ボロを出さないジョンに仲間達はイライラとしていた。
そんな時だった。深夜、ジョンが街を抜け出すのを見てムツヤが連絡を入れる。
「ジョンさんが街の外へ出でいぎまず!!」
「やっとしっぽを見せたか、行くぞ!!」
まず、ムツヤが気配を消して、千里眼でジョンの動きを監視していた。
周りを見渡して、人の気配がしない事を確認すると、ジョンは被っているシルクハットを脱いで逆さまに持つ。
すると、そこから昼間見た鳥達が一斉に現れ、上空へと消えていった。
「ジョンさんの帽子から鳥が出て来ていまず!!」
「なるほどな、それが裏の道具ってわけか」
仲間達も急ぎ街の外へ出てムツヤと合流する。一行はジョンの後ろから忍び寄り、アシノが声を掛けた。
「ジョンさん、こんな夜中にお会いするなんて奇遇ですね」
ジョンはビクリとし、こちらに振り返った。
「あ、あぁ、アシノ様。ちょっと外の空気を吸いに来ていまして」
アシノの横に見えるのは、昼間レストランに居た巨乳の女と、美少女だ。
「お昼ぶりですね、ジョンさん。あーやだ、ジョンさんのお帽子素敵ですね!! よく見せて頂けませんか?」
ルーがニヤニヤ笑いながら言うと、ジョンはシルクハットに手をかける。
「またか……」
「はい?」
突然、ジョンがそう言ってアシノは気の抜けた返事をする。
「勇者アシノォ!! いや、俺様はお前を勇者だなんて認めちゃいねぇ!!」
「アシノ、あの人と何かあったの? 相当お怒りみたいだけど」
ルーに聞かれるが、アシノは腕を組み、上を見て言った。
「いや、知らん」
「知らんだとぉ!? どこまでも俺様を舐めやがって!!」
全員が武器を構えてジョンと対峙する。
「忘れたとは言わせんぞ!! あの勇者試験の時を!!」
「勇者試験?」
話は数年前に遡る。
「今日の試験では、応募者同士の対人戦を行います」
勇者の一次試験を突破した者たちが、そこには集められていた。
「なお、説明した通り、相手を不必要に痛めつけたり、故意に殺す事は禁止です」
自分は勇者になる事を信じて疑わないジョンは、そんな説明を聞き流しながら妄想にふけっていた。
そして、自分の番が来た。対戦相手は赤髪の女だ。顔もそこそこ良い。圧倒的な力の差を見せつけて、惚れさせてやろうかと考えていた。
試合はアシノの一方的な展開で始まり、ジョンは木刀でボコボコにされていた。
「あの、もう降参された方が……」
「まだ、まだじゃい!!」
開始一分もしない内に立っているのがやっとになるジョン。アシノの呼び掛けにも応じず剣を構える。
「そうですか……」
アシノはジョンの木刀を思い切り弾き飛ばして、目の前に木刀を突きつける。
「これで終わりです」
ジョンは参加した冒険者の中で一番みっともない試合をして終わった。
「そう、あの時の試験の屈辱、忘れやせんぞ!!」
「あぁー、思い出したかも、一試合目でボコボコにされた人」
アシノが指さして言うと、ジョンは怒る。
「ボコボコ言うな!! 俺は待っていたぞアシノ!! お前に復讐できる時を」
「何よそれ、逆恨みじゃない」
ルーが言うのを皮切りに皆がそれぞれ感想を言い始めた。
「正式な試合で負けて逆恨みとは情けない」
「あの、良くないと……。思いますよ?」
モモとユモトに言われてジョンは地団駄を踏む。
「はっ、ちょっと待って、ヨーリィちゃんが何か言いたそう!!」
ルーの声に、皆は一斉にヨーリィを見る。すると、ヨーリィはジョンを指差し。
「ぶざま」
一言そう言った。