第1章23話:精霊
「驚かせてごめんなさい。あたしはシエラ。錬金術の精霊よ」
女性はそう名乗った。
「……精霊?」
精霊。
それはこの世界の管理者だとされる種族。
シエラと名乗った精霊は言った。
「ここ最近、ずっとあなたの術を見ていたわ。あなたは錬金術を極めて深いレベルで理解している。
……聞いたことがある。
魔道を極めていくと、精霊が下りてきてくれることがあると。
そういった精霊の力を借りることで、真の到達点へと至れるということを。
「あたしと契約しなさい、ルチル・ミアストーン。より錬金術の高みへと昇りたいのならば」
「……」
いきなり言われて困惑する。
本当に精霊ならば、ぜひとも契約したい。
しかし、まず確認しなくてはいけないことがある。
「あなたが本当に精霊だという証拠はありますの?」
「……! へえ? あたしのことを疑うの?」
シエラさんは目を細める。
ただならぬ威圧感を感じた。
私は慌てて答えた。
「そ、それは……しょうがないことだと思いますの。いきなり現れた方を、精霊だと信じることは難しいですわ」
「ふむ……まあ、それはそうかもね」
シエラさんが納得したようにつぶやいた。
「わかったわ。なら、これを見せてあげる。これを見てもまだ精霊だと信じられないなら、どうしようもないわ」
そう告げたシエラさんが、指をぱちんと打ち鳴らした。
すると彼女の斜め背後に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
私は目を見開いた。
「なっ……それは、精霊魔法陣!?」
「ご名答。精霊だけが行使できる魔法陣。これであたしが精霊だと信じてもらえたかしら?」
精霊しか扱えない精霊魔法陣。
それを展開できるということは、シエラさんがまさしく精霊であることの何よりの証拠だ。
私は頭を下げた。
「疑ったことをお詫びします。申し訳ありませんでした、シエラさん―――いえ、シエラ様」
「構わないわ。で、契約はどうするの?」
「是非、させていただきたく思います。お願いします」
「わかったわ。じゃあ、じっとして」
シエラ様が私の頭に手を乗せてくる。
私は言われた通り、動かず静止した。