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第1章14話:アレックス


※ルチルはここで一度婚約しますが、のちに婚約は解消されます。
※あくまで主人公恋愛ナシのハイファンタジーという方針で、最後までつらぬき通します。


ミジェラ女王は口を開いた。

「こちらは私の息子……第一王子のアレックスだ」

女王と私は面識があったが、アレックスとは初対面であった。

私はアレックスに自己紹介をした。

「お初にお目にかかります、アレックス殿下。わたくしはルチル・ミアストーンと申しますわ」

「……ああ」

やたらと不満げにアレックスがあいづちを打つ。

女王は私に言った。

「ルチル……今日、お前を呼び出した理由についてだが、お前とアレックスの婚約が決定したからだ」

「……!」

やっぱりそうきたか。

最悪だ。

アレックスは、ゲームでもだいぶ評判の悪いキャラクターだ。

一言でいえばクズなのである。

そんな相手と婚約なんて遠慮したいところだった。

「既にお前の両親には話を通してある。そうだな、ラティーヌ?」

「仰るとおりです」

母上は肯定した。

この婚姻は拒否することはできない。

それにしても、いきなり婚約を通告してくるとは、さすが異世界の政略結婚だ。

本人の意思はまるで無視である。

(まあでも、ある程度は予想できていた、かな……)

私は思う。

ゲームでも、ルチルとアレックスは婚約関係にあった。

だからこれはある意味での予定調和だ。

一応、救いがあるのは、アレックスとはいずれ破局する運命にあるということだ。

それまで形だけでも婚約者をやっていればいいのだ。

「私とラティーヌは話がある。二人で親交を深めていなさい」

ミジェラ女王はそう述べて、母上とともに部屋を出て行った。





応接室に、私とアレックスが取り残される。

しばし沈黙があったが、やがてアレックスが言った。

「おい。お前、商会を経営してるんだとな?」

「はい。そうですわ」

「それ、やめろ」

「……え?」

「商会経営を辞めろ。お前の名声が高まれば、私が比較されて、見劣りすると思われるだろ。それで王子の名に傷がついたらどうするんだ」

なっ……

なにふざけたことを言ってるんだ、この王子は?

はぁ……。

やっぱりこいつ、ゴミだわ。

ゲームでも第一王子は自己中心的な性格であり、物言いも横暴、八つ当たりや責任逃れの多いダメ王子だった。

今の発言を聞くかぎり、ゲームのときと変わらないようだ。

よし。

絶対に言うことを聞いてやらないぞ。

「お断りしますわ」

「……何?」

「ですから、お断りしますと言ったのですわ。どうしてあなたの都合で、私が商会を(たた)まなければいけませんの」

私がそう告げると、アレックスは顔を怒りで真っ赤にした。

「お前は公爵令嬢だろ! だったら王族と結婚できることに感謝して、私のために生きるべきだ! 自分の()をわきまえろ!」

「イヤですわ」

「口答えするのか! 公爵家の分際で!」

アレックス王子は(つか)みかからんばかりの剣幕だった。

まさか、私が言い返してくるとは思ってなかったのだろう。

腐っても第一王子。

周りからはヘコヘコされてきたはずだし。

「婚約者ですから、立場は対等。言いたいことは言わせていただきますわ」

「この……!!」

「とにかく婚約してしまったのですから、今後殿下におかれましては、わたくしの迷惑にならないようにお願いしますわね」

「ふん。お前の迷惑など知ったことか!」

それっきり私たちは会話を交わすことはなかった。

なんというか……

婚約者以前に、人としてこの王子と仲良くやっていける気がしないなぁ……。

(まあ、いずれ婚約破棄に持ち込もう。向こうから破棄させる形で)

私は内心で、そう心に決めるのだった。


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