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第1章1話:転生

私は奈川(ながわ)理緒(りお)

20歳。理系大学生。

大学の帰り道、車にはねられて死亡し……

最近プレイしていたファンタジーゲーム【グラティール物語】の世界に転生した。



転生時、女神様が以下のようなことを言った。

1:転生する先は、ファンタジーRPG【グラティール物語】をベースにした異世界であること。

2:ゲーム異世界だけどセーブやロードはなく、蘇生(そせい)もできない。1度死んだら終わりだから注意すること。

3:転生特典はないので、自分の力だけで頑張ってね。

いや、厳しい。

一個ぐらいチートスキルとかくれてもいいんじゃ……

と、思ったが、無視された。

ゲーム知識や前世知識でなんとかしろ、ということであった。






そして転生。

【グラティール物語】の世界では、生まれたばかりの人間は皆、精霊界に預けられる。

そして精霊界で100年の眠りにつかなくてはいけない。

その100年で、精霊たちが人間の魔法回路を開いてくれるのだとか。

だから私も、100年間、精霊界に預けられた。

まあ、ずっと眠っていただけだけどね。

そして眠りから覚めて、ようやく異世界での生活がスタートすることになった。







ミアストーン公爵家の屋敷――――

それが、私の家であった。

精霊界から転送されてきた私は、その屋敷の一室に立っていた。

テーブルと天蓋(てんがい)つきのベッドがある。

壁際(かべぎわ)姿見(すがたみ)があったので、自分の容姿を確認してみる。

金髪のセミロング。

赤い瞳。

ローブ姿。

ふむ……

(これが新しい私、ですか……)

お嬢様みたいなたたずまいだ。

まあ、お嬢様なんだけどね。公爵令嬢だし。

ちなみに名前はルチル――――ルチル・ミアストーン。

年齢は100歳。

いきなり100歳から始まるとかぶっ飛んだ世界だよね。

赤ん坊や少年期をすっ飛ばして、最初から成人なんだから。

まあ100歳といっても、見た目は20歳ぐらいだけどさ。

ちなみにルチルはゲームにおいては主人公……

ではなく、脇役だ。

しかもあんまり重要な役回りではない。

たまに出てくるぐらいのモブ。

まあ、主人公みたいな波乱万丈な人生は私には無理だし、それがお似合いなのかもね。

と、そんなことを考えていたとき。

トントン。

「失礼いたします」

ノックの後に、メイドが入室してきた。

「お待ちしておりました、ルチルお嬢様。副メイド長を(つと)めております、アリアです。以後お見知りおきを」

そのメイドは、肩にかかるぐらいの黒髪と黄色い瞳を有していた。

メイドとしてベテラン(かん)のあるたたずまいである。

「あ……えと、その……」

どうしよう。

言葉がわからない。

私は困惑する。

メイドはそれを承知しているかのように、私の手を引いた。

「精霊界から下界(げかい)したばかりですから、言葉がわからなくても仕方ありません。さあ、皆様がお待ちですので、どうぞこちらへ」

メイドに手を引かれ、私は部屋を出る。





そのあと。

私は公爵家の家族たちと顔合わせをおこなった。

父と、母と、姉。

それからメイドや執事のみなさん。

みんな精霊界から下界した私のことを祝福してくれた。

まあ、言語は全然わからなかったけど……

夜には屋敷内でパーティーが開かれた。

美味しい料理と。

使用人のみなさんによるおもてなしと。

両親と姉からのプレゼントをもらった。

どうやら私は、暖かな家族に恵まれたようだった。

そのことに安堵(あんど)しつつ、私はパーティーを楽しんだ。


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