第83話 引きずるトラウマ
「何度も聞きますけど、去年のは受けなかったって聞いてますけど……ベルガーさんそんなにひどかったんですか?そんなに言いたくないほどひどかったんですか?お願いしますよ、教えてくださいよ、その内容」
ひよこも今年の春から隊の所属になった新人だった。それを見て誠は意を決してカウラにたずねることにした。
「そんなに去年のはひどかったんですか?」
追い打ちをかけるようなひよこの問いにカウラの顔が引きつった。乾いた笑いの後、そのまま目をそらして乾いた笑いを浮かべながら口ごもった後、ようやく話し始めた。
「確かに去年の作品はひどかった。我々の任務を映像化したわけだが……」
「まあつまらなくはなるでしょうね。訓練とかはまだ見てられますけど、東和警察の助っ人とか……もしかして駐車禁止車両の取締りの下請けの仕事とかも撮ったんですか?」
誠がそこまで言ったところでカウラはしばらくためらった後、表情を押し殺した顔で誠に言った。
「確かにそれもほんの一瞬映ったが……内容の半分以上を火器管制担当の仕事だけに絞り込んだんだ。しかも長回しでそれを一時間半映した」
誠はしばらくそれが何を意味するかわからずにいた。
「それがどうして……」
そう言う誠を見てカウラとひよこは顔を見合わせた。
「連中は小火器管理のを担当しているだろ?そしてうちの部隊の銃器の多くが隊長の家から持ってきた骨董品を使ってるわけだ」
そう言ってカウラは腰の拳銃を取り出した。M1911。二十世紀初頭にアメリカの銃器開発者ジョン・ブローニングが開発した商品名称『ガバメント』で知られた傑作拳銃だと嵯峨から聞かされていた。誠はベッドの横に置かれた勤務服とその隣に下げられた自分のベルトを見てみる。そこにあるのはモーゼルモデルパラベラムピストル。こちらにいたっては二十世紀初頭の名銃、ルガーP08のコピーである。
「銃は動作部品の集合体だ。ちょっとしたバランスで誤作動を起こすからな。弾薬も使用する銃にあわせて調整したものが必要なんだ。特にお前のモーゼルモデルパラベラムはかなり神経質な銃だ。市販品の弾を使おうものなら、かなりの確立で薬莢が割れたり引っかかったりする誤作動を起こすだろうな」
カウラはそう言うと誠のモーゼルモデルパラベラムを手に取りマガジンを抜いた。手にした弾薬を誠の前に見せ付けた。
「薬莢に傷がありますね。これは市販の弾じゃないですよね」
誠の目の前の弾丸の薬莢には引っかいたような跡が見えた。
「ああ、これは一回使用した薬莢を回収して雷管を付け直して再生したものだ。こいつを市販の同じ規格の弾薬で発射したらどうなるかは担当に聞いてくれ」
そう言ってカウラは再びマガジンに弾薬を押し込もうとするが、その強すぎるマガジンのスプリングでどうしようもなくなった。カウラはいったん手にした弾丸を誠に渡して力を込めて弾丸を押し、ようやく隙間を作って装弾した。
「もしかしてその弾と炸薬を薬莢に取り付ける作業を……」
誠はその映画の事を想像した。延々と続く薬莢を詰め替える作業。呆れ果てて出て行く観客。まさにそこは地獄絵図だろうと想像がついた。
「延々一時間半。薬莢に雷管を取り付け、火薬を計って中に敷き詰め、弾丸を押し込んで固定する。それだけの作業を映し続けたんだ」
カウラが苦々しげにつぶやいた。確かにそのような映画は見たくは無かった。しかも一応司法局実働部隊の仕事のひとつであることには違いないだけに誠も頭を掻きながら愛想笑いを浮かべるしかなかった。