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Chapter 04

 翌日から取り引きの下準備にかかった。手始めに小樽港の港湾荷役作業員に転職をした。倉庫の経験をしていたため、難なく受かる事が出来た。作業自体の仕事は変わりなくやりがいを感じなかったが、その裏にある久々の刺激的な仕事を考えると、作業仕事にも精を出せた。

 ある時倉庫長が長期休みに入る時に、鍵の管理を代わりに他の社員が担う事になったのだが、下っ端の自分に任せて下さいと翔が自ら名乗りを上げた。懸命に働く姿を見せて信頼を得ていたため、容易く鍵の管理を任せてもらえた。その間に合鍵を作る事に成功した。

 翔は、警備が薄くなる時間、監視カメラの死角になる倉庫、そして倉庫の合鍵を手に入れた事など、逐一陣内にメッセージを入れた。

 下準備も整い、いよいよ取り引きは当日に迫った。当日は翔がレンタカーで新千歳空港まで迎えにいく事になっていた。

 北海道は夏も寒いと思っていたが、八月は北海道もやはり暑かった。翔は気合を入れるために久々に千葉からもらったアロハシャツを着ていた。

 レンタカー屋でハイエースを借りて、夜に空港へ向かった。空港から出てきたのは陣内一人だった。

「お久しぶりです。あれ、鮎川さんたちは?」

「鮎川さんたちは前乗りしてもう小樽港へ下見で向かってる。お前が開けてくれてる倉庫の場所も教えてるから」

「そうなんですね。港まで一時間半もあれば着きます。取り引きまであと三時間ほどありますけど、俺らももう向かっちゃいますか」

「そうだな。でも俺ちょっと腹減ってるから途中でなんか飯食おう。お前が食いたいもんでいいぞ」

「わかりました。やっぱ肉がいいっすね。あ、でも陣内さんは、せっかくきたからやっぱ海鮮が良いですか?」

「いや、別にそんなのいつでも食える。肉でいいよ」

「ありがとうございます」

 翔と陣内は、道中で見つけたステーキハウスに寄った。取り引きが成功して組を抜ける際、どう話を持っていくか、抜けた後どういう店を開きたいかなど、久しぶりに会った兄貴分と会話を楽しみながら、特上のサーロインステーキを頬張った。

「俺が奢ってやるよ」

「いや、いいですよ。自分の分は自分で出します。わざわざこんなとこまで来てもうたのに」

「別にお前のために来たんじゃねぇんだよ。たらふく食いやがってよ」

「すいません。じゃあお言葉に甘えて……。ご馳走様です!」

 翔と陣内は再び車を走らせて、小樽港に着いた。

 時間は深夜十二時過ぎ。取引まであと約一時間。まだ人っ子一人いない。暗く広がる海、無数のコンテナ、ここでもうすぐ派手な取り引きが行われるとは思えないほど静かだ。

「鮎川さんたちどこらへんにいるんすかね?」

「お前が教えてくれた倉庫にもう待機してるのかもしれない。とりあえずそこに向かおう」

「あ、はい。こっちです」

 翔と陣内は、カメラの死角で鍵がかかっていない倉庫の前に着いた。

「これですわ」

 そう言って翔は倉庫の扉を開けた。そこには誰もいなかった。

「ッあぁっ……」一瞬ですべてを察した翔は舌打ち混じりにため息を吐いた。

 パァンッ! 乾いた音が夜を引き裂いた。そして何もなかったかのように、再び静寂が夜を包んだ。

——八月二十二日、茹だるような暑さの中、歩睦と西澤、津田が那覇空港に到着した。

津田「沖縄やー! 早よ海行こ海!」

西澤「子供か。まずホテルチェックインせな。荷物も邪魔やし。腹も減ったわ」

歩睦「そやな」

津田「いやぁー、まさか翔も来れるとはな。あいつどこらへんにおるって?」

歩睦「いや、まだわからん。一週間前にまだはっきりした時間わからんから当日着く頃連絡するって連絡来てた。もしかしたら夜とかから合流なるかもな。とりあえずさっき何時頃なりそうや? とは送っといたけど」

津田「んなもう先海行っとこうや。あっついわ!」

西澤「だからまずホテルや!」

 三人はホテルでチェックインを済まし、ズボンを海パンに履き替え、有名なステーキハウスへ向かった。

津田「なんで沖縄でステーキやねん!」

西澤「アホ。ステーキ、沖縄名物やねんで」

津田「そうなん? まぁめっちゃうまそうやけど」

 三人はテンダーロインを注文し、あっという間に平らげた。

西澤「めっちゃやらかくてうまかったな。あと五枚は食えるわ」

歩睦「全然食えるな。やっばー、うますぎた」

津田「早よ海行こ海」

西澤「こいつほんまアホや」

 三人は一休みすると、早速ビーチに向かった。

 暑い日差しを浴びて、キラキラと輝く海を目の前にすると、津田は一目散に駆け出して海に飛び込んだ。歩睦と西澤はその姿を見て大笑いした。

西澤「そういやお前、翔に会ったら話したい事あるって言うてたけど、あれなんなん?」

歩睦「いや、俺起業する言うてたやん? 実はそれに翔も誘おうと思ってさ」

西澤「ガチ?!」

歩睦「うん。あいつ、確かに悪かったけど、その分いつも筋通ってたし、エネルギーも凄かったやん。まともに働いたらそれが絶対ええように作用すると思ってな。立ち上げの忙しい時期にはなおさら、あいつみたいにパワフルな奴が必要やろ。俺は割と保守的な所があるけど、あいつは逆に怖いもの知らずで革新的やろ。バランスええと思うねん。昔からあいつが隣にいると、俺も勇気づけられててん。ちょっと悩んだりしてても、あいつと話してるだけで、別に悩み事とか相談してるわけちゃうねんけど、くだらないな、ちっちゃいなって思わされてさ、だからあいつとやったら絶対成功出来んちゃうかって」

西澤「なるほどねー。そらすげえわ。真逆の二人が起業か。成功したらなんか映画にでもなりそうな感じやな」

「そやろ」歩睦は少し誇らしげに答えた。

 カラッとした暑さの中、賑やかなビーチ、煌びやかで透明な海を前に、浮かれたイエローのアロハシャツが風に靡いていた——

——同じ頃、雨がポツポツと振る、静かな港に面する海の防波堤には、潮にさらされて色褪せたネイビーのアロハシャツが波に揺れていた。



勝手にED主題歌 〜Post Malone - rockstar ft. 21 Savage〜

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