菜16話 心停止 The day of the second death
自分の体が地面にめり込んでいる感覚があった。
(体をよこせ 首に我を刺せ)
(インドラよ 我と組め
こやつを死なすには惜しい)
「ゴボッ ガッ」
悪いな インドラ、アシュヴァル。
上半身の感覚がもうない。
指ですら鉛のように重たくて動かない。
俺は
――死ぬんだな。
走馬灯のように異世界に来てからの記憶が高速で頭を駆け抜ける。
エルとヴィヴのおかげで最高の時間が過ごせた。
2人は最高の女性だ。
だが、こんな奴らに殺されて終わるのか。
――エルとヴィヴは
もう目が見えなくなってきた。
うっすら爆風と紫の閃光が目に映った気がする。
それに「~~~!」「---!」2人が叫んでいるような気がする。
(インドラ 腕に電気を流して筋痙攣させろ!)
(もうやってる!!)
バチッ!!!!
腕が焼けた匂いがする。
(よし首にお前が刺さった。これで制御が。)
バチバチバチッ
消えかけていた意識が急激に戻っていく。
全身の痛みが大きすぎて頭が割れそうだ。
「ガッ ヴェッ」
血を吐き出す。
「ゼェ ゲホッ ゼーゼー」
肺がやられているせいか息が出来ない。
(インドラ 我を振れ 痙攣させ続けろ)
(ちっ)
腕が勝手に動くとシャンシャンッと錫杖が鳴る音がする。
それと同時に錫杖から魔素<エレメント>が急激に俺の体に流れ込んでいき
「スー ゼ― ハー」
呼吸が戻っていく。
(よし 内臓の応急処置は済んだ。こやつの体は面白いな
超大量の魔素<エレメント>で再生できるのか。
大男から奪っておいて正解だったのぉ。)
(そのたびにこやつの寿命は削れる。
転生者ならではの肉体だ。)
「っ!」
俺は何とか立ち上がる。
「ほぉ。俺の魔素<エレメント>を奪いつくすか。」
大男が背後にあった文様を何度も明滅させる。
「おい!ジャンキー! 何をした!!!」
「こいつが大気中の魔素<エレメント>を全部吸い取りやがった。」
「はぁ? そんなわけ。」
女の足元にあった船の影が消えている。
「一回限りの技だろうがな。」
「お前を倒すために生き返ったぜ。」
(小僧 私を30秒間だけ解放しろ
アシュヴァルが壊れるまでは魔素<エレメント>で体を再生できる。)
俺はアシュヴァルを左手に握りこんだまま、インドラを右手でぐっと握りこむ。
「っおおおっ 滅侭杵!!!」
俺の全身を雷がめぐり、視界が真っ白になる。
(小僧! 作戦は)
ドッ!!!
俺は地面を蹴って大男の心臓の辺りを思いっきり殴り込む。
「!?」
大男が回転しながら吹き飛び、砦の石壁にめり込む。
「ばかなっ!!ジャンキーが」
赤いドレスの女が剣を俺に構えなおす瞬間に
踏み込み
「これは2人の分だ。」
ドゴゴッ!!!!
赤いドレスの女の顔面を思いっきり殴り飛ばす。
ドッと女が1回転して地面にめり込む。
(小僧!!!あそこじゃ。動力炉をさっさと破壊せい!!)
バチバチッと細かい電気が首筋に伝わりインドラからイメージ共有を受ける。
「便利だな インドラ」
全力で砲門の裏側にある動力炉へと一瞬で走って移動できた。
(行け。お前の体が軟弱すぎてもう1秒しか持たん。)
「ヴァジュラ!!!」
俺はインドラの力を全開放し、動力炉に電撃を撃ち込む。
パッ ドゴォアアアアアッ!!!
動力炉が破損し、大爆発が起きる。
スローモーションのように見えるその爆発の中で
インドラの力が切れつつあるが、ギリギリのところで動力炉から砦へ飛び移る。
「エルとヴィヴは」
「悪よ 滅べぇぇっいっ!!!」
大男が俺の背後に移動していた。
「しまっ」
ドゴォッ!
俺の心臓部に大男のラリアットが直撃する。
「がっ」
俺は砦から落ちていく。
同時に俺の心臓の音は止まった。
「サトー!!!!」
エルの声が聞こえた気がした。