超スペックな幼馴染達。と、俺。
幼馴染というものに憧れている。
幼稚園だとか保育園の時から知っていて、小学校でもだいたい一緒に遊び、中学生になり思春期を迎えるとちょっとだけギスギスするも、なんやかんやで高校も同じで縁が続いていくような、そんな関係。
そこには、純愛の基本が詰まっているんだと思う。
しかしながら、実際には幼馴染というものはあまり重要視されていない。扱いが雑なのである。
アニメだとかマンガだと幼馴染は負けヒロインのように描かれることが多く、現実ではそもそも高校まで続く幼馴染自体がレアケースと言える。
だからこそ憧れざるを得ない。
過去から今に至るまで、そして未来へと続く関係性。
他者の介在をものともしない、不可侵領域と言える二人の絆というものに。
俺には、そんな奴がいない。
兄弟姉妹もいないし、なんなら今の家だって中学二年の時に母さんと一緒に引っ越してきたわけで、昔馴染み的な存在が皆無だ。
もちろん中学の時に友達はできたが、それはあくまでも中学からの付き合いであって、幼馴染とは言い難いだろう。
まさにないものねだり。
自分にはないからこそ、それは特別であって、何よりも輝いて見えるのだ。
そんな俺が憧れてやまない幼馴染という関係性を持つ奴らがいた。
男の名は、柊木周斗。
その名の如くサッカー部に所属していて、地区代表にも選ばれている程の腕前だ。使うのは足だが。
奴は中学時代から何かと有名で、サッカーの上手さはさることながら、一番の話題はその顔面偏差値の高さにある。中性的な顔で、モデルも逃げ出すほどのイケメンであり、高身長で手足も長いが、決してひ弱ではなく、鍛え抜かれた芸術的細マッチョである。
性格もまた御仏のようにイケメンであり、最大の武器は、その純粋無垢なイケメンスマイルだろう。奴が一度笑えば後光の如き輝きを放ち、その光を目の当たりにした女子は、漏れなく心を撃ち貫かれる程の威力を持っている。もはや凶器と言えるかもしれん。
そんな超絶イケメンには、幼馴染の女子がいる。
それも、二人も。
一人目の幼馴染は、楠原奏。
天真爛漫で性格は明るく、誰にでも優しい。陸上部に所属していて、短距離のスペシャリストである。あらゆる地方大会で優勝をかっさらい、全国でも上位に食い込むほどの猛者であるが、その運動神経はスポーツ全般に渡り、体育ではそれぞれの部活生よりも活躍する程である。
イケメンの幼馴染に相応しく、楠原奏は美少女である。つぶらな瞳に、トゥインクルな微笑み。まだまだ幼さを残しつつも、要所要所では大人の色気のようなものも垣間見える。短めの栗色の癖毛、スレンダーで小柄だが、それこそが彼女の魅力を更に向上させているかのようである。
二人目は、杠葉鏡子。
美術部に所属するクール系女子であるが、彼女を一言で表すと、超絶美人である。どうやったらそんな顔面になるのか聞きたい位に、彼女は美し過ぎた。長いまつ毛に切れ長の目。全ての顔面パーツの形が完璧であり、おまけにそれらが奇跡的なバランスで顔面に配置されている。俺をゆうに超える超高身長でありながらグラビアアイドルも白目をむく程のスタイルであり、艶のある長い黒髪も相まって、まさに神が与えた芸術的美人と言える。
無論彼女は美人なだけではない。成績は常に学年一位で、全国模試ですら上位に君臨する勉学猛者である。更には彼女の描く絵画は軒並みのコンテストで金賞に輝き、将来を有望視されている。
とまぁ、周斗にはそんな幼馴染が二人もいるわけだが、なんとも贅沢な話ではないか。
超スペックイケメンに超スペック美少女、超スペック美人と来たもんだ。
そんな奴らが三軒並んだ家に住んでいるのだから驚きだ。自ずと三人は同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学に進み、おまけに小学校から中学までの九年間も同じクラスなのだという。もはや天文学的な確率である。先生達による忖度が働いたのかもしれんが。
ではなぜ俺がそんな三人について詳しいのかと言うと、なんてことはない、その周斗と友達だからである。
この街に引っ越して来た時、俺は孤独だった。
クラスの奴らは既にそれぞれのコミュニティを形成していて、ノコノコ現れた無愛想な新参者なんぞ入れるわけもなく、転校してしばらくは常に一人で過ごしていた。
そんな俺に声をかけてきたのが、周斗だった。
動機は同情だったのかもしれん。しかしやけに気が合った俺達はすぐに打ち解け、何をするにしても一緒に行動するようになっていた。
周斗と過ごすということは、楠原と杠葉とも接する機会が増えるわけで、気が付けば四人で過ごすことも増えた。
しかし勘違いをしないでもらいたい。
俺達の関係性は少し特殊で、俺はあくまでも周斗の付属品でしかない。
言うなれば、三人と一人というグループなのである。
楠原と杠葉という超スペック女子と知り合ったことで、最初こそ嫉妬の業火に焼かれそうになったのだが、学校ヒエラルキー上位三人の威光のおかげでいつしかそういうこともなくなった。
そんな俺達は無事同じ高校に進み、中学の延長線のような付き合いを続けていた。
周斗には、心から感謝している。
もちろん楠原にも、杠葉にも。
この三人がいなければ、俺はたぶん、中学卒業までボッチだっただろう。
だからこそ、この三人には幸せになって欲しい。
……だが、彼らは三人である。
仮に楠原と杠葉のどちらかが周斗と結ばれるとすれば、片方はいわゆる負けヒロインとなる。
周斗の性格は分かっているつもりだ。
あいつは、二人と付き合うなんていう愚策を取る奴じゃない。もしも同時に告白されれば、必ずどちらか一人を選ぶだろう。柊木周斗とは、そういう男だ。
とは言え、俺程度に出来ることなんて、近くから三人を見守ることくらいだろう。
もしも誰かが悩んでいれば、ちっぽけな脳みそをフル稼働させて俺なりの助言くらいはしてやりたい。
この三人の仲に部外者なんていらない。
どうか幼馴染と結ばれてくれ。
それを、それだけを、切に願っている。