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チェイサー 2

 その頃、ムツヤとカミクガはまだ追いかけっこを続けていた。

 モモ達からは遠くゴマ粒の様な距離まで走り去ってしまった。

「なかなか速いですね、でも私もぉ、足の速さには自信あるんですよぉ」

 カミクガはムツヤの隣に並んで走る。それをチラリと見てムツヤは更にスピードを上げた。

「ムツヤ聞こえるか? 状況はどうだ!!」

 アシノは王都でコウモリを追いかけながら連絡石でムツヤに話しかける。

「カミクガさんにずっと追いかけられてまず!!!」

 まずいなとアシノは思った。こちらもコウモリがどんどん王都の中へ侵入している。

「ムツヤ!! 悪いが聞きたいことがある。弓も魔法も通じないモンスターが居るんだ。だが、私のワインボトルのフタだけは効く!! 何か情報を知らないか!?」

「すいません、わがりまぜん!!」

 コウモリをまた撃ち落としながら「そうか」とアシノは言う。

 このままでは王都の住民が危ない。

 ここで、アシノは一か八かの賭けに出た。

「ムツヤ、王都に向かって走れ!! そして援護をしてくれ!!」

「わがりまじだ!!」

 ムツヤは煙を上げながら∪ターンをして王都へと向かい、カミクガも続く。

 剣を構えて道中の魔物の群れを押し斬り、ムツヤの通った後は1本の線のように綺麗に道が出来ていた。

「やっぱり只者じゃありませんねぇ」

 その道をカミクガも走る。王都が目前まで近付いてきた。

「青い鎧の冒険者……」

 兵隊長が遠くから走りくるムツヤを見て驚く。千里眼を使う兵が声を上げた。

「兵長、青い鎧を纏った者です!! その後ろにカミクガ様がいます!!」

「青い鎧の冒険者が来たか……」

 サツキも魔物を斬り捨ててからムツヤの方を向く。

 青い鎧の冒険者、敵か味方か分からない者が王都に近付くのは危険だと考え、前線から引いた。

 そして、ムツヤが王都に近付く頃、防御壁に激突を繰り返していたコウモリは方向を変えてムツヤに襲いかかった。

 ムツヤはそれらを魔剣ムゲンジゴクで切り裂く。するとコウモリは煙となって消えていった。

 カミクガの元にもコウモリがやってくる。バチバチと電気を込めてナイフで切り裂いたつもりだったが、その一撃はコウモリをすり抜けた。

「なっ!?」

 驚きの声を上げて一旦距離を取る。その間にムツヤは次々とコウモリを斬り捨てていった。

 王都の中ではアシノがコウモリを追いかけて次々に撃ち落とし、外ではムツヤが斬り捨てていた。

 兵士や勇者サツキと、そのパーティも黙ってそれを見ることしか出来なかった。

「そうだ、今のうちに怪我人を治すわ!!」

 クサギは怪我を負った兵士達の元へと走る。そして、しゃがみ込むと優しい笑顔を向けた。

「もう大丈夫だかんねー」

 怪我をした腕を手にとって、回復魔法を掛けた。

 ムツヤの薬を飲んだ時ほどではないが、出血は止まり、傷が癒えていく。

 次々に怪我人の手当てをしていくクサギ。それは聖女の名に相応しい優しさを纏っていた。

 アシノは何かを考えながら戦っていた。ワインボトルのフタとムツヤの魔剣、共通することは……。

 次の瞬間、ハッとすると同時に「どうしてもっと早く気付かなかったんだ」ともどかしさを覚えた。 

 仮説を試すためにムツヤに連絡を入れた。

「ムツヤ、なるべく特殊効果が無い裏の道具を使って攻撃してみろ!」

 言われた通りムゲンジゴクをしまい、塔で拾ったただの鉄製の剣を持ちコウモリを攻撃してみる。

 その刃はすり抜けること無くコウモリを切り裂いた。

「どうだ、ムツヤ!」

「斬れまじだ!!!」

 そうか、と言ってアシノはニヤリと笑う。

「まだ仮説だが、コイツ等には裏の道具が効くみたいだ。私とお前で片を付けるぞ!!」

「はい!!」

 アシノとムツヤは王都の中で、王都の外でそれぞれ暴れた。

 今のうちにアシノはルーにも連絡を入れておく。

「ルー、手短に話す。裏の道具でしか攻撃できない魔物が現れたみたいだ」

「どういうこと!?」

「時間がない、今は聞いてくれ。それでお前達にも最悪の場合戦ってもらう事になるかもしれない」

 パパンとコウモリを撃ち落としてからアシノは続けて言った。

「だがそれは、あくまで最後の手段だ。今は私とムツヤで戦っている。お前達までこの魔物に攻撃が出来たら話がややこしくなる」

「……、わかったわ」

 そこで通信は終わった。アシノは自分自身でコウモリを釣って撃つ。

 ムツヤは次々とコウモリに飛び掛かって切り落とした。

「皆さん、王都は勇者アシノ様に任せましょう。私達は目の前の敵に集中します!!」

 サツキが叫ぶと兵士の士気が上がり、魔物の群れを押し返していく。

「私もきましたよぉー、やること無いですし」

 カミクガも前線の白兵戦に参加し、その戦線の後ろ側から魔物を挟む形でルー達が登場する。

「私達も負けてらんないわよー」

 ルーは精霊を大量に召喚して1個小隊を作る。その中にモモも紛れて魔物たちの背後を突いた。

 鋭い刃で次々と魔物を切り裂くモモ。精霊は腕を振り回して魔物をなぎ倒していく。

「氷よ降り注げ!!」

 ユモトは広い範囲に太い氷柱を飛ばして敵の数を削っていった。

 ヨーリィは散らばる敵を各個撃破し、確実に敵の数を減らす。

「流石はアシノ先輩の仲間。やりますね、私達も頑張りましょう!!」

 そうサツキは口に出したが、心の底では別のことを思っていた。

 勇者パーティにしては弱くないかと。

 確か、キエーウはアシノ先輩が殆ど1人で壊滅させたと聞いている。

 あの仲間達はサポート役だった。

 だが、それにしても、もう少し強くて良いのではないかと。

 召喚術師のルーさんと黒髪の少女は確かに強い。しかし、オークの少女と魔法使いの少女は良くて中級の冒険者程度の実力だ。

 そんな事を考えながら戦っていたが、街の外の魔物の群れはほぼ倒し終えた。後は空飛ぶコウモリの化け物だけだ。

「ムツヤ!! そっちの状況はどうだ!?」

「はい、外の魔物は皆さんが倒したみたいです。そしてこのコウモリも大体倒し終えまじだ!!」

「そうか、後は私が片付ける。今の内に引け!!」

「はい!!」

 アシノに言われ外壁に飛び乗ると、ムツヤはそのまま音もなく走り去る。

 城門から離れて戦うサツキ達はそれに気付くことが出来ず、青い鎧の冒険者を取り逃すことになった。

 サツキ達とルー達は街へと戻る。

「おつかれ、私もコウモリを倒し終えた所だ」

「流石はアシノ先輩!!」

 どさくさに紛れてサツキはまたアシノに抱きつこうとするが、軽く避けられる。

「青い鎧の冒険者はどうした?」

 アシノはしらばっくれて自分からその話題に触れた。するとサツキは浮かない顔をする。

「青い鎧の冒険者は見失いました」

「あの人、すっごく速かったですよぉー」

「そうか……」

 残念そうにアシノは振る舞う。

 街の中では戦いが終わった事を知らされた住民たちが勇者と兵士を歓声で出迎える。

「アシノ様、流石のご活躍でしたそうで」

 声がして振り返る。すると、そこには近衛兵長のカミトが居た。

「カミト殿、王の護衛はよろしいのですか?」

「他の者達に任せております。私は攻撃の通じぬ魔物への対抗策を調べておりました」

 能力のことを聞かれるのだろうなとアシノは覚悟をした。

「戦いの後お疲れの所申し訳ありませんが、あの魔物達について、また青い鎧の冒険者についてお話をお伺いしたいのですが」

「えぇ、わかりました」



 勇者アシノパーティと、勇者サツキパーティはまたも会議室へと通された。いつの間にかちゃっかり戻っていたムツヤも一緒だ。

「まずは改めて魔物から王都をお守り下さったことに感謝を申し上げます」

 カミトが深々と礼をするとアシノは小さく頷いた。

「それで、まずはあの攻撃の通じない魔物についてお伺いしたいのですが」

「はい、あの魔物は私の攻撃、または青い鎧の冒険者の攻撃しか通用しない様子でした」

 それを聞いてうーむとカミトは唸る。

「そこが疑問なのです。何故アシノ様と例の冒険者の攻撃だけが通用するのかが」

「私の能力は『試練の塔』で授かったものです。もしかしたらあの冒険者も……」

 なるほど、とカミトは納得した。

「それならばあの者の強さにも納得がいきます」

「それでしたら、私も試練の塔へ挑みます!!」

 サツキは身を乗り出して言う。

「今、勇者様達に王都を空けて欲しくは無いのですが…… 対抗する手段がそれしか無いと言うのであれば仕方がありません」

「街には私が残りましょう。サツキには私の仲間達を案内役として付けます」

 アシノは思った。これで策は成ったと。

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