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後輩勇者 2

 そんなクサギとは違い、サツキは訝しげな目でムツヤ達を見る。

「どうも、私はサツキです。そ、し、て、あなた!! あなたは一体アシノ先輩の何なんですか!?」

 ビシッとムツヤを指差してサツキは言う。

「え、俺、いや、私ですか!?」

 ムツヤは急に名指しされてあたふたとしている。

「ムツヤはただの私の仲間だ。それよりも魔人について分かっていることを話すぞ」

「はい、アシノ先輩!」

 アシノの言うことは素直に聞くサツキ。アシノの隣に座ろうとしたが、クサギに引っ張られ向かい合う形でしぶしぶテーブルに着く。

 そしてムツヤ達は魔人ギュウドーに関して分かっていることを説明した。

「なるほど、そんな事が……」

 落ち着いた勇者らしい態度でサツキは言った。そんな時だった、扉がバンと空いて息を切らした衛兵が飛び込んできた。

「し、失礼します!! 魔物の群れが王都に向かって進行しているとの報告を受けました!!」

「わかりました、直ちに向かいます」

 サツキは剣を握りしめて立ち上がる。それに続いて皆も立ち上がった。

 城の外に出ると市民たちはパニックになっていた。兵士が屋内に避難するように呼びかけている。

「見ろ、勇者アシノとサツキだ!!!」

 誰かがそう言って皆の視線がこちらに集中する。

「皆さん、魔物は我々が引き受けます。なので指示に従って避難して下さい」

 サツキが冷静に言うと歓声が巻き起こる。ムツヤ達は皆の注目を浴びながら王都の門を目指した。

 アシノの頭には作戦があった。どこかでムツヤをはぐれさせて、1人で遠くの魔物の群れに特攻して貰いたかった。

 しかし、その為にはどこかでムツヤが着替えて『青い鎧の冒険者』にならなくてはならない。

 そして何よりもサツキ達に気付かれずに、アホのムツヤに作戦を伝え、実行しなくてはいけない。

 まずは門番の兵士に状況を確認した。

「只今参りました。状況はどうなっていますか?」

「はっ、魔物の群れが東から一直線に王都に進行しております!!」

「サツキ、二手に別れよう」

「嫌です、アシノ先輩と一緒に戦いたいです!! それに魔物の群れは一直線に来ているのですから、攻め込んで水際で止めましょうよ!!」

 最もな意見だった。事実兵士たちも門の前に隊列を成している。まいったなとアシノは思った。

「サツキ、私の力は他に誰かが居ると巻き添えを食らう。だから離れていた方が良い」

「私なら大丈夫です!」

 そう言ってサツキは胸を張る。勇者にそう言われてしまえば次の嘘が見当たらない。

「そうか…… だが私の力はあくまで最後の手段だ。すまないが、なるべくお前達で頑張ってほしい」

「お任せ下さいアシノ先輩!!」

 サツキは右手にショートソードを、左手にナイフを逆手持ちに構えて言う。これが双剣のサツキの構えだ。

「お前達は偵察に出てくれ」

 アシノはムツヤ達に言うと、任せてとルーが答える。しかし、ここでも問題が生じる。

「カミクガも魔物の牽制に行ってくれ」

「オッケーサツキちゃん」

 カミクガは足に魔力を貯めるとピリピリと雷が漏れ始めた。そして落雷のように走り出す。

 そんな様子をモモ達と兵士達は呆然と見ていた。これが勇者チームの力なのかと。

「さぁ、私達も行くわよー」

 ルーの声で皆、我に返る。こちらもどこかでムツヤを青い鎧の冒険者に変えなければならない。

 一足先に魔物の群れにたどり着いたカミクガ。それは灰色の人形の魔物たちだった。右手にナイフを構えて先頭の数体を斬りつける。

 目にも留まらぬ速さで魔物は首と胴体が斬り離された。

「なーんだ、ヨワヨワじゃん」

 そう言って砂埃を上げながらターンをしてまた魔物たちを斬りつける。

「ざぁこ、ざぁこ」

 スパスパと魔物たちは斬られて煙へと帰る。戦闘力ではこちらが圧倒していたが、いかんせん数が多い。

「アシノ様達の仲間が来るまで遊んであげる」

 クスクスとカミクガは笑いながら言った。ムツヤ達はと言うとモモが運転する馬車に乗り、前線に出ていた。

「ムツヤっちのお着替えタイムー」

 ルーがノリノリで言った。こちらの作戦はこうだ。

 ムツヤを変装させておいて、魔物の群れの一番後ろまで走らせ、挟撃する。そしてほとぼりが収まったらムツヤはどこかへ走り去る。

 少々無茶がある作戦だが、今はこれで押し通すしか無い。

「ムツヤっち、それじゃ気配を消して魔物の群れの後ろまで走っていって、そうしたら暴れまくっちゃって!」

「わがりまじだ!!」

 ムツヤは人目につかない森の中で馬車から飛び降りて走り出した。

「応援に来たわよ!」

 魔物の群れの前に馬車を止めてルーが言う。

「待ってましたよぉ、アシノ様の仲間の皆さん」

 カミクガは俊足で馬車まで駆け寄るとニヤニヤと言った。

「敵はヨワヨワですけどぉ、数が多いので手伝ってくださぁい」

「わかりました」

 モモは馬車を飛び降りて剣を構える。ユモトやヨーリィも降りてきた。

 そう、ここでルーはしまったと思う。ヨーリィが枯れ葉に変わったらどうすると。

 だが、次の瞬間には。まぁ、東の国の妖術とでも説明すれば良いかと能天気に考えていた。

「それじゃ皆で迎撃するわよ!」

 ルーは精霊を召喚する。数での戦いならお任せあれだ。魔物たちはこちらに向かって来る。

「貫け!!」

 ユモトは太い氷柱を何本も発射し、魔物たちを射抜く。ヨーリィも木の杭を投げて牽制している。

「はあああああ!!!」

 モモはこちらに向かってくる魔物を切り捨てていた。

「皆さんお強ぉい! 私も本気出しちゃお」

 足に魔力を込めてカミクガは閃光のように敵を縫って攻撃した。次々に煙へと変わっていく敵を見てモモとユモトは圧倒されていた。

 そして、次の瞬間。魔物の群れの後方から凄まじい量の煙が上がり始めた。ムツヤだ。

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