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とりあえず、海へ行こう! 2

 滅多に怒ることのないユモトであったが、今回ばかりは流石に怒っている。

「これ女性用じゃないですか!!」

「あー、何か海パンムツヤっちの分しか無くて。何故か知らないけど女物の水着ばっかりなのよねー」

「じゃあ今から買ってきますよ!!」

 ユモトは水着を買いに行こうとするが、まぁまぁとルーは止めた。

「ユモトちゃん、大丈夫!! 目立たないって!! 逆に海パンのが絵面的にアウトかも……」

「どういう意味ですか!? じゃあ下だけ、下だけ履きますよ!!」

 ユモトは焦ってよく分からないことを言っているが、皆が全力で止める。

「それだと余計アウトだから!!」

「物は試しだ、着てみたらどうだ? それで変だったら買いに行けば良いだろう」

 押しに弱いユモトは「うぅ……」と言って更衣室へ消えた。

 しばらくして更衣室からムツヤが出てきた。海パン姿で。

 その後ろではユモトが顔だけを出してこちらを見ている。

「ユモトさん大丈夫ですって!! 似合ってますから!!」

「似合ってるって言われても嬉しくないんですけど……」

 水色のオフショルダーのビキニを着たユモトは、それはそれはもう、どこから見ても美少女だった。

「ユモトちゃん似合ってるよー!! それじゃ海へレッツラゴー!!!」

「やっぱりおかしいですって!!」

「ユモトさん早く海に行きましょう!! 海ですよ海!!」

 ムツヤはユモトのことよりも目の前の海が待ち遠しいみたいだ。

「うー、絶対変態だと思われる……」

 そんな事を言うユモトの手を引いてムツヤは海に向かって歩き出したのであった。

 どこまでも続く青い海、白い砂浜、眩しい日差し、ムツヤは海に向かって小走り気味に歩いていた。

「ムツヤ、海は逃げないぞ」

 アシノは珍しく笑いながら言った。キエーウという心配事が片付いて肩の力が抜けたのだろうか。

「うぅ…… 変態だと思われる……」

 ユモトはモジモジとして砂浜に立っていた。

「キャッホー!! 海だー!!!」

 ルーはムツヤと共に走り出して波打ち際に足をつける。

「冷たっ!!」

「すげー、本当に水がしょっぱい!!」

 ムツヤは海水を舐めて感動していた。モモは貸し出しのパラソルを立てユモトは逃げ込むようにその日陰に隠れる。

「お前ら、体慣らさないと溺れるぞ」

「ヘーキヘーキ…… ってあしつったー!!!」

 アシノの言う通り、運動不足のルーは走って海に腰をつけたぐらいで足をつっていた。

「そうはならんだろ……」

「なっとるやろがい!!」

「ムツヤっちヘルプミー!!!」

 近くにいるムツヤにルーは助けを求める。

「ちょっ、ちょっと待って下さい!!」

 ムツヤはルーを背中に乗せた。

 水着だからいつもよりも大きなアレの感触が伝わり、ムツヤは鼻の下を伸ばす。

 一旦砂浜に全員が上がり、ルーはアシノに怒られて、準備体操を始めた。

「はい、深呼吸して終わり!! じゃあ海へレッツゴー!!」

 再びムツヤとルーは一目散に走り出した。よっぽど海が気に入ったのだろう。

「アシノ殿は行かないのですか?」

「私は少しゆっくりしてるよ」

 パラソルの下で椅子に座り、トロピカルなジュースを飲みながらアシノは言う。

「モモも行ったらどうだ? 海は初めてだろう?」

「そうですね、それじゃ失礼して……」

 モモも初めて見る海に心躍っていた。「待ってくださーい」と言いながらムツヤ達の後を追いかける。

 海ではしゃぐムツヤ達を眺めて、ユモトはため息をついていた。

「どうしたユモト?」

「どうしたって、水着ですよ水着……」

「似合っていると思うが?」

「アシノさんまで!!」

 ユモトはプーッと頬を膨らませる。

「お前だって海は初めてなんだろう? 旅の恥はかき捨てって言うんだから行ったらどうだ?」

「……そうですね」

 こんな格好お父さんが見たら泣くだろうなと思いながら、ユモトはそそくさと砂浜を走り抜ける。

「あ、ユモトさーん!!」

「ユモトちゃん観念したのね!!」

「ぼ、僕だって海で遊びたいですもん!」

「やっと素直になったかユモト」

 ちょんと足先を海水につける。

 少しだけ冷たいが、気持ちが良い。

 それからは水着のことなど忘れてムツヤ達と波打ち際で遊んでいた。

 そんなムツヤ達を眺める影がある。冒険者の集団だ。

「なんで男だらけで海を楽しまなきゃならねーんだ!!」

「そう言うな、仕方がないだろ」

「そうですよ兄貴、仕方ねぇっす」

 長身の男と髪の長い優男、その弟分らしき男。

 海に来るには悲しすぎるメンバーだった。

「水着を眺められるのは良いけどよぉー、悲しい……」

「そうっすね……」

「特にあのグループ、上玉揃いじゃねーか!! それを独り占めしてるあの男は何なんだ!?」

「声でも掛けに行く?」

 優男に言われると長身の男は下を向いて小声で言う。

「いや、その、それはちょっと……」

「兄貴『鬼のミシマ』って呼ばれているのに女関係は奥手っすよねぇ」

 鬼のミシマと呼ばれた男はうなだれた。

「ムツヤっちー、オイル塗ってー!!」

 ルーは砂浜に寝そべってビキニの肩紐をおろしていた。

「オイルって、これを体に塗れば良いんですか?」

 ムツヤはこれからする事に鼻の下を伸ばす。

「そーよ、そう!!」

「ルー殿! そういう事は私がやります!!」

 ムツヤは美味しい役目を取られてしょんぼりとした。

「ヨーリィちゃん海は楽しい?」

 ユモトは無表情のまま海でチャプチャプと歩いているヨーリィに話しかける。

「海は初めてだし、凄いと思う」

 楽しんでいるのかよく分からない返事が帰ってきた。

 そんな2人に近付く男たちが居る。先ほどムツヤを羨望の眼差しで見ていた男達だ。

「お姉さん達ー。今お時間ありますー?」

 優男がそうユモトに声を掛けた。一瞬自分のことと思わずに周りを見る。

「お姉さんですよ、お姉さん」

 手をこちらに向けられてユモトは自分の事だと分かり顔を真っ赤にした。

「ちっちが、ぼ、僕は男で、いや、この格好はその、いや、あの」

「ははっ、お姉さん面白いね。いやね、ちょっと僕らとも遊んでくれたら嬉しいかなーって」

 モモが異変を察知してアシノに耳打ちする。

「アシノ殿、あれって……」

「……ナンパだな。男相手だが……」

「ユモトちゃんモテモテー!! ヒューヒュー!!」

 はしゃぐルーだったが、ムツヤは心配そうだった。

「ユモトさん!!」

「……助けてやるか」

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