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キエーウ最終決戦 4

「効かぬわ!!」

 ダクフはそう言って力を込めると拘束魔法を弾き飛ばした。

 しかし、拘束魔法を破ったは良いが、ムツヤ達にぐるりと四方を囲まれている。

 目眩と気分の悪さはまだ続いていた。

「お前こそ降伏しろ。でないと…… 殺すぞ」

 アシノはワインボトルを構えて言う。ダクフは笑って答えてみせた。

「ビンのフタでどうやって人を殺そうというのかな?」

「それじゃあこれならどうかしら?」

 ルーは杖を構えて雷の魔法を打つ準備をしていた。まともに食らえば確かに命の危機であろう。

 ダクフは気分の悪さよりも、段々とイラつきの方が心を支配していった。

 そして、その衝動に身を任せる。

「うっ、うががががが」

 様子がおかしくなったダクフ見て、それぞれ武器を強く握りしめた。

 ぐるんと白目を向くと、正面のムツヤに向かって瞬足で駆け寄り剣を振るう。

「ぐっ」

 何とか防ぐも、勢いが強くムツヤは軽く飛ばされた。剣がぶつかり合った衝撃で手がビリビリとする。

「轟け雷鳴!! ついでに行け、精霊たちよ!!」

 ルーは雷の魔法をダクフに浴びせ、トドメとばかりに精霊を向かわせた。

 しかし、雷の魔法が直撃したダクフは怯むことなくムツヤに剣を振り続け、精霊も片手間になぎ倒していく。

「嘘でしょ!?」

 力で完全に暴走したダクフは無意識のままムツヤに向かって剣を振る。

「いい加減にしろっ!!」

 モモが斬りつけようとするも、片手で弾き飛ばされてしまう。

「くっ……」

 ユモトは氷の魔法に雷の魔法と打ち続けているが、一切効かない。

 状況はムツヤが劣勢だ。能力を奪われているのだから当然だった。

 そんな中でダクフの突きがムツヤの右肩を斬り裂く。

「ムツヤ殿!!」

「モモ、危険だ!! あっちはムツヤに任せるしか無い」

 駆け寄ろうとしたモモをアシノは制した。行った所で邪魔になるだけだろう。

 何も出来ないことがもどかしかったが、自分達にもやるべきことがあった。

 周りを囲むキエーウのメンバーと自分達も戦わねばならない。

 ムツヤはとっさに回復魔法を使おうとしたが、傷の治りが遅い。ムツヤの魔法は中級の冒険者レベルになっていた。

 ダクフは距離をとったムツヤに爆発魔法を使う。

 すると、ムツヤは爆風によって上空に吹き飛ばされてしまった。

 地面に落ちるまで景色がスローモーションに見える。

 そして、ドサリと落ちると気を失ってしまった。





 ムツヤは真っ暗な空間に1人で居た。

 どこだここはと思った次に、もしかして自分は死んでしまったのかと考える。

 何でこんな事になったんだろう。

 そんな事を考えていたら色々な景色が目の前に広がっていった。

 塔の中でサズァンに出会ったこと、外の世界に出てモモに剣を向けられたこと。

 ユモトを助けて一緒に冒険したこと、ヨーリィと戦って仲間になったこと。

 アシノとルーが自分に手を貸してくれたこと。

 皆、笑顔だった。そう思っていたら急に泣き出すモモが見えた。

 誰だ、モモさんを泣かす奴は。

 そうだ、自分は守らなくちゃいけない。モモさんを、皆を……。

「ムツヤ殿!!」

「ムツヤ!!」

「ムツヤっち!!!」

「ムツヤさん!!」

 皆が名前を呼んで駆け寄った。ムツヤは傷を負って倒れたのではなく、力を出し切って倒れたらしい。

 ダクフはと言うと死んでいた。暴走した力を使った上に、ムツヤの一撃がトドメとなったのだろう。

「モモ、ムツヤとヨーリィを頼む。私達はあの小屋を調べる」

「はい」

 アシノ、ルー、ユモトは、小屋を調べるために近寄る。敵の気配は無い。

 小屋の中はもぬけの殻で、地下へと続く階段があった。ユモトが照明弾を中に打ち上げ、皆で降りていく。

 そこには見間違えようもない、災厄の壺があった。

「見付けたわね……」

「ルー、あれは本物か」

 アシノは念の為疑ってかかった。ルーは探知盤を取り出して反応を見る。

「間違いなく本物ね、他に裏の道具も無いようだし」

「それじゃ、コイツを壊せば終わりってわけか」

 アシノはワインボトルを片手に災厄の壺まで歩き出し、手に持ったそれを振り下ろした。

 パリィンと良い音がして壺は壊れる。探知盤からは赤い点が消えた。

 アシノ達が小屋の外へと出るとムツヤはすっかり気を取り戻して、ヨーリィの手を握って魔力を送っていた。

「アシノ殿、終わったのですか?」

「あぁ、終わったよ」

 モモは安堵してため息を漏らした。ムツヤも同じくホッとし、モモと目が合うと、何だかおかしくなって笑い合ってしまった。

「だがな、束縛したキエーウのメンバーはどうするか」

 アシノはまだ頭を悩ませる。ルーもその事について考えていた。

「治安維持部隊に引き渡すんじゃダメなんですか?」

 ユモトが言うとアシノは首を横に振る。

「そうしたら尋問が始まるだろ? こんなに多くのキエーウのメンバーが裏の道具について話したら流石に怪しまれる」

 ハッとしユモトは杖を強く握った。裏の道具の存在が国に知られたら戦争が起きてしまう可能性があるのだ。

「最悪…… 口封じするしかないかもしれないわね」

「口封じって、その、殺すってことですか?」

 言いにくいことをユモトは言った。それにアシノは頷く。

 そんな時、ムツヤのペンダントが紫色の光を放って声が響いた。

「ムツヤ、それに皆。災厄の壺を止めてくれてありがとう。魔力が少ないから声だけで勘弁してね」

 裏ダンジョンの主、邪神サズァンの声だ。

「サズァン様!?」

「ムツヤ、あなたは人の記憶を消すことが出来る魔法を習得しているわ」

「そうだったんでずか!?」

「そうだったんですかって、それはこっちのセリフだ!!」

 アシノは思わずムツヤにツッコミを入れた。

「人の額に手を当てて、消したい記憶を思い浮かべるの」

 近くに倒れているキエーウのメンバーを捕まえてムツヤはサズァンの言われた通りにやってみる。

「そして『記憶よ離散しろ』と唱える」

「記憶よ離散しろ」

 ムツヤは裏の道具のことを思い浮かべながら言った。すると光が現れて消える。

「そう、それで大丈夫よ」

「こんな便利なものがあるならもっと早く言って欲しかったんですがねぇ」

 アシノがサズァンに言うと、少し困った顔をして返す。

「これ、失敗すると頭パーになっちゃうのよ。だから最終手段。それに、ムツヤに教えるにはまだ時じゃなかったの」

 いったいこの邪神は何を考えているのかと、アシノはモヤモヤした。

「じゃあ、私はここまでね。またねムツヤ、みんな」

 ムツヤはサズァンの声があまり元気で無かったことが少し心配だったが、急いでキエーウのメンバーの記憶を消さなければならない。

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