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災厄の壺 3

「私がムツヤ殿の背中を守ります」

「それしか無いか……」

 モモが言うとアシノも苦渋の決断をする。危険だが、確かにあの2つの鉄球相手にはそれしか方法が無いだろう。

 ムツヤの元へ走るとまた鉄球が飛んできたが、盾で防ぎ、ムツヤと背中合わせになる。

「モモさん! ありがとうございまず!!」

「いえ、私の命に変えてもムツヤ殿はお守りします」

 モモは一度だけ振り返りムツヤに言った。

「ふざけるな!! 糞豚がァァァァ!!!!」

 2人は遅い来る鉄球を無力化の盾で防ぐ、しゃがみ込んで盾に身を隠し、ジリジリと女のもとへ迫る。

 だが、それよりも早く女は距離を取っていった。

「ムツヤ殿、背中合わせで走りましょう」

「そうですね、わがりまじだ!!」

 ムツヤとモモは背中合わせで走り出す。

 ムツヤが正面を向き、モモは背面を向けて。

 鉄球は直球で来たかと思えば、曲がりくねって横から来たり。真上から来たりと変幻自在だ。

 だが、2人は確実に距離を縮めていった。そして仲間たちの援護もあった。アシノはビンのフタを飛ばし、ヨーリィは木の杭を女に投げていた。

 そのため、女は女で鉄球を使い、それらを防がなくてはいけない。ムツヤ達への攻撃は1球だけとなった。

「くそっ、くそっ!!」

 女は鉄球の操作に夢中になっている。ムツヤがモモに耳打ちをした。

「俺が一気に飛び出して攻撃をします」

「わかりました」

 ムツヤは一気に本を持つ女に飛びかかった、ハッとし女は鉄球で吹き飛ばそうとするが盾で防がれ、地面へと落ちる。

 やられる。そう思ったが、ムツヤは本を素早く取り上げて、女に拘束魔法を使った。

「っぐ、クソッ!!!」

 手足を縛られ地面に倒れる女は悔しそうにムツヤを見つめている。

「終わったな、次に行くぞ」

「わがりまじだ!!」

 ムツヤはまたもキエーウのメンバーを倒すために早々にその場を去っていった。

 モモが剣を納めて女の元へと歩いていく。

「近寄るな、豚が!!」

「オークがお前の家族を奪ったことは本当に申し訳ないと思う。すまない」

 言ってモモは頭を下げる。

 そして、また馬車に乗り込んでムツヤの後を追う。

「くそっ、くそっ、くそおおおおおおおお!!!!!」

 森の中には拘束された女の叫びが響き渡った。





 ムツヤはキエーウのメンバーを倒しながら森の中を突き進む。探知盤を取り出すと、この先に裏の道具の反応が1つあった。

 さっきの様に襲いかかる者はおらず、ムツヤは警戒しながら裏の道具に近づく。

 瞬間、殺気を感じてムツヤは飛び退いた。その場所には突風が吹く。その匂いを嗅いだ時、連絡石を取り出して言った。

「皆さん、来ちゃ駄目です!! 毒です!!」

「流石に察しが良いね。っていうか毒、大丈夫なんだね」

 キエーウの仮面をかぶった銀髪の少年がムツヤに語りかける。

「ムツヤくん、君がいくら強くたって関係ない。僕に近づくことも、毒を防ぐことも出来ないよ」

 少年が手に付けている金色に輝く腕輪を見てムツヤは絶望した。

 そう、アレは危険すぎてじいちゃんにも使うことを禁止されていた道具……


――
――――
――――――――

「じいちゃん、これ使っちゃ駄目なの?」

「この腕輪から出る毒は防毒の仮面でも防げない。体から入り込んでしまうからな」

「えーじゃあ誰が使うの?」

「風魔法を完璧に使いこなせる人間でないといかんな、お前にはまだ早い」

 そうだ、思い出した。あの腕輪から出される毒は防毒の仮面でも防ぐことが出来ない。

「仲間たちが倒されたって連絡は来ているよ。君とは話し合えないみたいだね」

「当たり前だ、亜人の人達を殺すなんて間違っている!!」

 ムツヤが言うと銀髪の少年は意外な返事をする。

「そうだね、その考えは間違っていない」

 言われてムツヤは頭の中がこんがらがった。亜人を殺すことが間違いだということをこの少年は肯定している。

 だったら……

「じゃあ何でお前はキエーウにいて亜人の人を殺そうとする!!」

 少年は仮面越しに軽く笑う。

「その考えは君の中では間違っていない。ただ、僕にも考えがある。僕は亜人なんて居なくなってしまうべきだと考えている」

「何が言いたいんだ!?」

「人はそれぞれ、自分の考えを持っている。君には君の、僕には僕のね」

 会話に気を取られて、右から来る毒の風にムツヤは少し反応が遅れた。何とか躱したが、危ない所だ。

「まぁ、お互い時間が無いから戦いながら話そうか」

 少年は毒と風のバリアを作っており、近づく事ができない。ムツヤはカバンから弓矢を取り出して少年に向かって放った。

「無駄だよ」

 突風により、矢は軌道を変えられ地面に突き刺さる。

「僕に飛び道具は効かないよ」

 それならばとムツヤは魔法を飛ばそうとするが、次から次へと毒の風が吹き荒れ、それどころではない。

「世の中には色んな考えがあるんだよ、その中でも多数意見を元にルールや倫理なんかが考えられる」

 銀髪の少年は語り続ける。

「100年前は亜人は奴隷だという考えが世間で正しかった」

「でも今は違うんだろ!?」

 ムツヤは避けながら食って掛かった。

「そうかもしれないね、でも僕たちはそう思わない」

「いい加減にしろ!!」

 ムツヤは槍を取り出して少年に近づく。毒の壁の外から攻撃をしようとしたのだ。

 だが、その考えは少年が毒の壁を厚くすることによって防がれてしまった。

 残された道は1つ、また全力の魔法を使って少年を殺してしまうことだ。

「少なくとも僕達は亜人と分かり合うなんてできない」

「これ以上邪魔をするなら……」

「僕を殺すかい?」

 ムツヤは言おうとしていた言葉を言われて驚く。

「ほら、僕と君も分かりあえずに殺し合いをするんだ」

「違う、それはお前がやめないから……」

「僕も亜人にやめてと懇願しても、彼奴等はやめてくれなかったよ」

 この少年もやはり亜人と悲しい過去があるのだろう。

「どっちの考えが正しいか、少なくともこの場では戦いに勝った方が正しいことになるよ」

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