第67話 どことなくぎこちない会話
「ああ、神前。この前の豊北線の脱線事故の時の現場写真はどのフォルダーに入っているんだ?」
気分を変えようとカウラが誠に言葉をかけてきた。
「ああ、ちょっと待ってください……」
誠はそう言いながらデータをカウラの端末に転送した。
「カウラ!」
お通夜の雰囲気のかえでが居なくなってほっとした表情のランが、カウラに向かって声をかけた。
椅子に浅く座ってノンビリとしていたカウラがそんなランに目を向ける。
「私ですか?」
「おう!東都警察の第三機動隊の隊長さんからご指名の通信だ」
そう言ってランは画面を切り替えた。誠は思わず隣のカウラの画面を覗き見ていた。見覚えのあるライトブルーのショートカットの女性が映っていた。誠はそのメガネの鋭い視線から先日演習場で出会った警部補、エルマ・ドラーゼのことを思い出した。
『カウラ、先日は久しぶりだったな』
艶のある声に誠の耳に響いた。彼の目の先にかなめのタレ目が浮かんでいたのですぐに誠は下を向いた。
「ああ、エルマも元気そうだな」
あまりにあっさりとした挨拶に茶々を入れようと顔を出していたかなめは毒気が抜かれたように呆然のカウラを見つめていた。
『同期で現在稼働中の連中にはなかなか出会えなくて……誰か仕切る奴が居れば会合でも持ちたいとは思うんだが』
誠はエルマと言う閉所戦闘訓練所であった性格のきつそうなメガネの警部補の事を思い出していた。
「難しいな。それぞれ忙しいだろうし。民間企業に行った連中はさらに今の時期は大変らしい。私達などかなりましな方だ」
カウラはそう言って画面のエルマに向って苦笑いを浮かべた。
『そうなのか。機動隊は年末は勤務だからな。その直前なら時間が取れると思ったのだが、確かに民間企業に入った連中の予定は逆だろう。民間企業は年末が休みだからな。時間が合わないと言うのはもどかしい限りだな』
東都警察は司法局に対してこれまで要請してきた年末の応援出動を今年は自粛している。誠はそのことをこの前守衛室で聞いていたのでカウラが暇なのは知っていた。
「それでは私達だけで会うと言うのはどうだろうか?エルマもこの『特殊な部隊』には関心が有るんだろ?」
どうにも硬い言葉が飛び交う様に誠もさすがに首を傾げたくなっていた。人造人間でも稼働時間の長いアメリア達と比べると確かにぎこちなさが見て取れた。特に同じ境遇だからなのだろう。カウラは誠達と接するときよりもさらに堅苦しい会話を展開していた。