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因縁 3

 
挿絵


(イラスト:SOMEDAY先生)

 エルフの村、クロースで宿を取ることにしたムツヤ達。それは大正解であった。

 美味しい料理を堪能した後は旅の疲れを癒やす風呂に入ることが出来たのだ。

「見てみてー! 花びら浮いてる!」

 8人ほどが入れそうな大きさの風呂には花びらやハーブが入れられており、芳しい匂いがしていた。

「本当、良いですね」

 モモもその光景をみてウットリとして言った。アシノも満足そうな顔をしている。

「さぁさぁ、体洗ってさっさと入るわよ!」

 ルーは張り切ってシャワーを浴び、石鹸を泡立てて体を洗い始めた。

「ヨーリィちゃんこっちおいで、頭洗ってあげるから!」

「いえ、自分で洗えますので」

「洗った後お風呂に髪が入らないように結ってあげるから!」

 ルーに押し切られたヨーリィは観念したのか椅子にちょこんと座る。

 皆が体を洗い終えて風呂に入った。

 温かい湯は旅の疲れによく効く。そしてこのハーブ達の香りでウトウトとし始めてしまった。

「あー気持ちいい寝ちゃいそうー」

 ルーは浴槽にもたれ掛かりながら言う。そんな時にコンコンコンとノックの音がする。

「失礼します、お湯加減はいかがでしょうか?」

 ドアが開くと先程のエルフの娘カノイが居た。

「あぁ、いい湯加減だ」

 アシノがそう答えると笑顔でカノイは言う。

「そうでしたか、良かったー下等な人間と下劣なオークにもこのお湯の良さは分かるのですね」

 皆がいきなり信じられない言葉を浴びせられて固まってしまった。

「すまないな、なんて言ったかよく分からなかった」

 アシノは浴槽から立ち上がって聞き返した。目には警戒心が宿っている。

「あら、失礼しました。下等な人間にはもっと簡単な言葉じゃなければダメでしたね!」

 他の皆も異常に気付き、立ち上がった。

「おバカな人間とクソみたいなオークさんにもお湯の良さは分かるんですねって言ったんですよ」

 エルフの宿屋の娘、カノイは笑顔で言い直す。

「何々、急にどうしたってのよ」

 ルーはカノイを見据えたまま近付く。その瞬間、何かを察知したヨーリィが風のように走り、投げつけられたナイフを木の杭で撃ち落とす。

「あらあら、面白いことができるんですね! ですが、あなた達には死んでもらいます」

 後ろからゾロゾロとエルフ達がやってきた。

「お風呂覗きなんていい趣味してるわね」

 追い込まれていることを悟られないようにルーは虚勢を張ったが、人数の差は大きすぎる。モモも危険を察していた。

 相手は武装したエルフの集団。こちらはタオル1枚体に巻いただけ。

 モモとアシノは武器が無く、ルーは杖という触媒無しには弱い精霊しか召喚できない。

 唯一まともに戦えそうなのはヨーリィだけだ。

「お姉ちゃん達は下がっていて」

 ヨーリィを中心に枯れ葉を巻き込んだ竜巻が起き、収まるといつもの服へと着替え終わっていた。

「ヨーリィちゃんのそれ、こういう時便利ね」

「言ってる場合か! お前も精霊を出せ!」

「あーもう、分かってるわよ!」

 ルーは風呂の湯を触媒にしていつもより弱めの水の精霊を召喚した。

「いくわよ、ヨーリィちゃん!!」

 5体いる水の精霊がエルフへ襲いかかるが、矢で射抜かれパシャパシャと水へ帰る。

 その間を縫ってヨーリィが飛びかかり、ナイフで弓の弦をピンと切り裂く。それはしなって細長い棒へと変わり、武器としての役目を終えた。

「モモ、2人に任せて逃げるぞ」

 アシノが小声でモモへ伝える。

「ですがっ!!」

「武器もない私達が居ても出来ることは何もない。外へ出て武器かムツヤを探すぞ」

 2人の仲間を見捨てるようで心苦しかったが、モモはアシノの後を付いて窓から外へ出た。

 その後ろでは短剣でエルフの男がヨーリィに斬りかかっていた。先を丸めた木の杭を手に投げつけ当てると、痛さで思わずエルフは短剣を落とした。

「やるわね、ヨーリィちゃん。私の出番は無いかしら?」

 時間を掛け、より強力な水の精霊をルーは召喚した。そして風呂場のお湯を吸い込みあげて発射させる。

 水鉄砲を喰らい、エルフ達は怯んでいた。態勢を崩して倒れる者もいる。

 先頭に居たエルフの娘カノイも両手を前に出して水から身を守っていた。

 ヨーリィは致命傷を与えるためにカノイの元へと走る。それを察したルーが言う。

「ヨーリィちゃん、駄目!!!」

 ナイフは首元でピタリと止まった。そしてヨーリィは後ろを振り返る。

「今のうちに逃げるわよ!!」

 ヨーリィは質問をするでもなくコクリとただ頷いてルーと共に窓から外へ脱出した。

 モモとアシノは体にタオルを巻きつけて宿の外を走った。素足のため地面の石が痛いが、そんな事を気にしている場合ではない。

 隣の男湯へと向かうとムツヤとユモトが居た。アシノはガラスをドンドンと叩く。近くで体を洗っていた宿泊客がそれに気づいた。

「ち、痴女だー!!!!」

「違うわ!!!」

 叫びに気付いてムツヤとユモトは振り返る。

「え、アシノさん!? も、モモさん!?」

「早く開けてくれ、エルフ達の様子がおかしいんだ!!」

 ユモトは急いで駆け寄り窓を開ける。それと同時に男湯の入り口に見覚えのある人間がやってきた。

「あらぁん、やだわん、男湯なのに女がいるじゃない」

 以前ムツヤ達を襲撃したオカマであり、キエーウの一員ウトナだ。

「お、オカマだー!!!!」

「うるさいわね、ちょっと眠ってなさいあんた!」

 ウトナは杖から催眠魔法を放ち、宿泊客を眠らせた。

「またお前たちの仕業か」

 しかし、おかしいとアシノは思った。

 裏の道具の反応はギルスからの連絡も無かったし、自分達で風呂に入る前に確認したときにも無かった。馬や俊足の魔法を使っても早すぎる。

「あの探知盤に裏の道具の反応が無かったのに、なーんて思っているでしょう?」

 心を読まれた気がしてムツヤ達は全員ドキリとした。

「さぁー、どうしてでしょうね?」

 ウトナはくねくねと歩きながらこちらに来る。

「ムツヤ!! カバンから武器を出してくれ!!」

 ムツヤはウトナを警戒しながら後ろに下がり、風呂場に持ち込んでいたカバンから剣とワインボトル、杖を取り出して皆に渡した。

「あらあら、怖いわねぇ。でもね、戦う前に面白いお話をしましょうか?」

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