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ギルスを仲間に 2

 ムツヤが外へ出ると仲間達はそれぞれ訓練をしていた。

 ヨーリィは木でできたナイフを持ち、モモに飛びかかる。

 モモはそれを盾で受け止めて右上がりに剣を振ったが、ヨーリィは盾に右手を置いて、それを軸に回転しながらモモの頭上を飛び越えた。

 モモが振り返るよりも先にヨーリィは木のナイフで背中をちょんと突いた、ため息とともにモモはガックリと肩を落とす。

「ヨーリィ、強いなお前は」

 ふるふるとヨーリィは首を横に振って言葉を返した。

「モモお姉ちゃんより長く戦っているだけ、戦いのセンスはモモお姉ちゃんの方がある」

 ヨーリィがお世辞を言わない事を知っているのでモモは照れる。

「そうか、よし、もう一度頼むぞ!」

 ユモトは防御壁を作り、アシノの飛ばすビンのフタを受け止めていた。アシノの能力は『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』ただ1つだが、成長しているのかスッポーンどころか矢のように早いスピードと威力になっている。

「っく、ぐぐぐ」

 ユモトはだいぶ苦しそうだった、だがアシノは手を緩めずにビンのフタを飛ばし続けた。

「よーし、いったん休むか」

 アシノがそう言うとユモトはその場にへたりと座り込んだ。

「はぁはぁ」

 ユモトは肩で息をし、顔を真っ赤にしている。相当な負担があったのだろう、そこへ家からのこのこ出てきたムツヤがかち合う。

「ユモトさん大変そうですねー」

「あぁ、はぁはぁ、ムツヤ…… はぁっ、さん……」

 息を切らしながらユモトはムツヤの名を呼んだ。その時アシノはピンときて提案をする。

「そうだ、いいこと思いついた。お前ら戦ってみろ」

 いきなりのアシノの提案にユモトは驚きの声を上げた。

「えーっ!? ムツヤさんとですかァ?」

 ニヤリとアシノは笑って言う。

「男は度胸だ、試しに戦ってみろ。そうだな、おーいモモ、お前もこっち来いよー。ユモトと連携の練習だ」

 呼ばれてモモもアシノの元へとやってきた。

「ムツヤ殿と戦うのですか?」

「あぁ、お前たちは全力を出して、ムツヤは武器なし…… でも危ないなコイツは、とにかく攻撃は無しだ」

「わがりまじだ!」

 ムツヤはモモとユモトと向き合う。アシノとヨーリィは少し遠くでそれを見守る。

「そんじゃ、試合開始!!」

 ユモトは試合が始まると共にモモへ支援魔法を掛ける。モモは体の内側から力が湧いてくるのを感じ、ムツヤへと距離を縮めた。

 支援魔法のおかげでモモは体が軽い。走るモモに合わせてユモトは詠唱を始めて今度は攻撃用の魔法の準備をする。

 モモはムツヤ目掛けて思い切り袈裟斬りをするが、ムツヤは最小限の動きでそれを(かわ)した。

 そのまま剣を横薙ぎに振るうがムツヤは後ろに飛び退いて、ひらりとまた躱す。

 そのムツヤの着地点目掛けてユモトは氷柱を10本ほど発射した。

 ムツヤは1度バク宙をした後に手から着地をし、右に身をよじって立ち上がるとそのまま走り出して全ての氷柱をかわす。

(普通のやつだったら今の連携で仕留められたろうが、ムツヤ相手じゃ厳しいだろうな)

 アシノはそんな事を思いながら試合を眺めていた。モモは走るムツヤを追いかけて突きを繰り出したが、自身ごとムツヤに飛び越えられてしまう。

「いまだっ!!」

 小さくユモトはひとり言を言って、空中で身動きが取れないムツヤに向かって雷撃を放った。

 雷は遠くまで飛ばせないが、標的目掛けて多少軌道修正し、自動で追跡をする習性がある。

 ユモトの魔法は完全に標的を捉えていたが、ムツヤが右手を前に伸ばすと強力な魔法の防壁が現れて、雷を軽く消し飛ばしてしまった。

 モモは振り返り、ムツヤを切りつけようとしたが、剣は宙を切るだけだ。

 ムツヤの戦い方は誰に教わったわけでもないので、メチャクチャだ。基本の型やセオリーも無く、言うなれば獣や魔物の戦い方に近い。

 そこに加えて高い身体能力、なので動きは予測不能だ。

 モモは必死にムツヤに追いついて攻撃を繰り出すが、それらは全て躱され、ユモトが放つ攻撃魔法も同じ結果だった。

 15分もすると2人は段々と息が上がってきて、ついにユモトはしゃがみこんでしまう。

 体力に自信のあるモモも鎧を着て全力疾走しながら剣を振り続けていたので疲れが回ってきている。

「はい、終了ー」

 アシノは手をパンパンと大きく叩いて言った。その瞬間緊張の糸が切れてモモも地面に片膝を着く。

「連携は悪くなかったが、2人共まずは基礎体力づくりだな」

「め、面目ありません……」

「すみません……」

 モモとユモトは息を荒くしながら情けなさそうに言う。

 ムツヤはと言うとピンピンしてカバンから飲み物を取り出し、2人へ手渡していた。

「みんなー、大変、大変なのよー!!!」

 モモとユモトがムツヤとの戦いを終えて、小休止をしている時にルーが騒がしく走ってくる。

「何事だ、騒々しい……」

「探知盤の秘密がわかったかもしれないの!」

 そう言われると皆ピクリと反応した。

「随分と早いな、研究員様々ってところか?」

 アシノが言うとルーはぷくーっとむくれる。

「ちーがーうー! ギルスは私の助手よ!」

「でもどうせ見付けたのはギルスだろ?」

 そう言われるとルーはうっと言葉に詰まったが、それをごまかすように話を進めた。

「とにかく、みんな来て、早く!!」

 はいはいとアシノはルーの後に付いていく、それに習って皆もぞろぞろと歩いて家に帰る。

 そして地下室へ降りるとギルスが座って待っていた。

「おっ、みんな来たか」

 立ち上がると机の上にある青色の宝石のようなものをギルスは掴む。

「詳しい話をすると長くなるから簡単に説明するぞ、探知盤を解体したらこの青い石が出てきた。どうやらコレが探知盤の核らしい」

 ユモトは興味深そうにそれを見つめていた。ギルスは続ける。

「この青い石が周りの裏の道具と地形に反応して、それが探知盤に映るってわけだ」

 モモは魔道具に詳しくなかったが、ここまでの話は理解できた。

「そして、この探知盤なんだが。どうやら埋め込まれている核じゃなくても、探知盤とこの宝石の波長を合わせれば、別の探知盤から取り出した核を中心とした範囲も映し出すことができるかもしれないんだ」

 ムツヤは頭が追いついていない。それを察したギルスはもっと簡単に説明をする。

「簡単に言えば、この青い石をここから20km離れた場所に置けば、ここに居ながら20km先の裏の道具の位置がわかるって所だね、まだ仮説だけど」

 ユモトはハッと気付いて言った。

「つまり、探知盤からたくさん青い石を取り出して辺りに設置すれば、キエーウの動きがわかるって事ですか?」

「ご明察」

 ギルスはニヤッと笑う。これが本当であればキエーウに対してかなり有利に戦うことが出来る。

「というわけで実験がしたいんだけど、みんなに協力してもらいたい」

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