星々の啓示
昨日さんざん寝ていたからか、俺の方は全く眠れなかった。
隣にはチビ。いつの間にかすやすやと眠りについている。
思えば、戦場くらいでしかこうやって星空を見て寝転がるなんてなかったかも知れない。まあここ最近は旅の途中でもこうやってコーヒー片手に寝ずの番していたこともあったけど……身に危険がない環境ってのは初めてかもな。
さて、夢枕にいた親方の課題だ。
きっと、こうやって一人静かに物思いにふけっていた方のが考えにたどり着けられるんじゃないかと思っていたから。
ーこれからどうするんだ?
いや、逆に俺の方のが聞きたいくらいだ。とついあの時の言葉を思い出し、自問自答しちまった。
仲間を守るために生きる? ふざけるな。そんな手垢まみれの答えなんか俺自身求めちゃいない。
軍にでも入るか? バカ言うな。そもそも俺は自由に生きてみたいからな。城の中の奴らも獣人嫌いのいけ好かないのばかりだし。
宿屋でも開くか? それこそ愚問ってやつかもな。そんな仕事こっちからごめんだ。
じゃあどうするんだ、旅にでも出るのか?
……やっぱり、それが一番なのかな。
ルースは城の仕事で忙しいし、マティエも騎士だ。トガリも料理で生計立てたいだろうし、イーグは……うん。家族がいるし。ロレンタもアスティも教会勤めだし、最終的には……
エッザールとジール、パチャとフィン。それにチビか。
でも、誰か忘れてたような気が。
姫……そっか、ネネルか。でもあいつはお姫様だしな……
そういやあのおてんば姫、俺のこと好きだって言ってたような。
あいつは……そう、元は敵国マシャンヴァルの姫だし、俺とは身分が違いすぎる。ハナっから無理なんだ。
「敵国……?」そんな言葉が思わず口をついた。
そうだ、俺たちはずっと奴らと戦っているんだ。肝心なことをすっかり忘れていた。
俺たちの行く先々ではほぼ必ずといっていいくらい奴らと剣を交えてきた。さらにはバケモンまで。
そしてチビも少なからず命を狙われている。
逃げるのか、それとも切り抜けるのか……違う。両方ともだ!
それに、俺には聖女ディナレにつけられた聖痕とやらも持っている。
全てに意味があるんだ。俺やチビにマシャンヴァルの血が流れていることも、そして聖女にされたことも。
「今は、戦って……みんなを救わなきゃいけねえ。ってことか」
そう思った時だ。
突然、天井が……いや、壁や床までもがキラキラと輝きだした!
なんなんだこれ、今までになかった光りっぷりだ。まるで金……いや、宝石以上だ。
まぶしさに目を細めると、その中にいくつか輝きの度合いが違うやつが見えはじめてきた。ひょっとして……
「これが答えか?」
そうか、今まで過去のことにとらわれすぎてて、これからの事なんて何ひとつ俺は考えちゃいなかった。
親方はそれを言いたかったんだ。いちいち振り返るんじゃない。進むことを考えろ、って。
星鉱はまばゆい輝きを増し、俺たちはまるで光の中に浮いているようだった。
こうしちゃいられねえ! 俺は急いで持ってきたハンマーを手に取ると、その大きく輝いてる場所に向かって勢いよく振り下ろした。
小気味いい音とともに、星がぽろりと足元に落ちる。
「おとうたん、どうしたの」
「みんな袋に入れてくれ、いっぱい星鉱が採れるぞ!」
砂浜に打ち上げられた小魚をかき集めるかのように、チビはきゃっきゃと喜びながら星々を拾ってくれた。
そうだ……これはもう大漁だ!