第134話 ゲリラの得意とする乱戦
地上部隊は敵と認識した誠達に攻撃を仕掛けた。しかし、ろくな対空装備を持たない反政府軍の地上部隊は次々とかなめの精密射撃で潰されていった。
特にあからさまに長い兵器を抱えて運動性に劣る誠の機体は敵の集中砲火にあっていたが、05式の誇る重装甲がそのすべてを弾き返した。
『駄目だこいつ等、話にならねえよ。それにしてもこんなのに遼の正規軍が降伏したって本当か?どれも旧式ばかり、兵の練度も最低。負ける方がどうかしてる』
かなめは一通り火力のありそうな反政府軍の攻撃拠点を潰すと誠機が降下しようとしている地点へと向かう。
『遼帝国軍だからな。あそこは逃げるのと降伏するのは十八番だ。地球のアフリカ戦線で甲武軍の足を引っ張ったのをはじめ、うどんを茹でる水が無いからと言う理由で艦隊が一個遼北人民軍に降伏したなんて言う伝説もあるくらいだ。それはたぶん事実だろうな。あの軍はうどんが無いと戦えない』
緊張している誠を和ませようとしているのか、カウラはそんな冗談を言いながらアメリアから送られた最新の近隣の地図を誠機とかなめ機に送信する。
『現在敵対勢力の集中している地点は想定された状況とほぼ一致している。これからは地上だ。行けるな?』
カウラがかなめと誠に淡々と語りかけてくる。かなめと誠は大きく頷いた。そして深夜の山岳地帯、敵の車両の残骸が散見される開けた土地に着陸を果たした。深夜の闇の中、草木一つ無い荒れた山肌が続く。三機の司法局実働部隊第一小隊の05式が並んで進軍していた。
着陸阻止に動いた反政府軍には追撃の様子は今のところ無い。機動兵器の貴重さと彼等の練度を考えれば反政府軍が戦力の温存を図っていることは明確だった。だが、誠には一つの疑問が頭に浮かんだ。
「カウラさん。こんなに通信つかっちゃって大丈夫なんですか?」
突然の質問にカウラは口を開いたまま固まった。かなめにいたっては笑い始めている。
『それは……』
説明を始めようとしたカウラを指揮を執るアメリアが制した。
『私から説明するわ』
アメリアはカウラに現場指揮官らしく振舞うように余計な説明は自分からするつもりだと誠は思った。
『誠ちゃんの法術能力に依存したアストラル通信システムを使用しているのよ。つまり誠ちゃんがターミナルになって各通信の制御を行っているわけ。まあそれほど強い力を必要とするわけじゃないから誠ちゃんには全く負荷はかからないから安心してね。当然思念系通話だから敵にそれなりの力のある法術師でもいない限り傍受は不可能よ。敵は技術部のクラッキングでばらばらの状態、こっちはいつでも通信出来て連携が取れる。これで負けたら恥ずかしいわよ、誠ちゃん』
モニターの中で笑うアメリア。カウラは進撃の指示を出した。
「つまりこの作戦は僕がすべてを決めるんですね。責任重大って奴ですか?」
『硬くなるなよ。アタシ等がついているんだから。オメエはその大砲を所定の地点まで運んで行ってぶっ放すことだけ考えてりゃいいんだ。簡単な話だ』
かなめの言葉に誠は現実に引き戻された。目の前の川に沿って比較的整備された道が続いている。
『この道路を破壊する余裕はなかったようだな。とりあえず最有力候補のルートを通る。何にもまして時間が惜しい。急ぐぞ』
カウラはそう言うと機体のパルスエンジンに火を入れる。震えるような一号機の動きに合わせて誠もエンジンの出力を上げていった。