死と再生
「ゲイル、一度死んだ存在を復活させるにはどうしたらいい?」
空気すら静まり返った暗闇の中、やや幼さの残る声が響く。
「うーん……どうなんでしょう。肉体が残ってるのならどうにか蘇らせることはできそうな気がするんですがね」
「そうだよね。ここの技術力ならなんとか可能かもしれない。現に僕がいまやっていることがそれなんだから」
けど。と暗闇の声は一拍おいた。「肉体すら再生不可能なまでに損傷していたら、どう?」
部屋にいるもう一人の存在、ゲイルは手探りでそばに置いてあったランプの一つに火をつけた。
瞬く間に部屋が明るくなる。
石造りの天井からは大量の細い管が伸び、それらは全て赤黒い血液のような液体をたたえ、心臓の鼓動の如く定期的に脈を打っていた。
その血管の先には、巨大な獣人が吊るされていた。
左右に広げた両腕、揃えられた両脚。
絶え間なくその獣人に血管を通して血が送り込まれていた。
だがその身体は見るも無惨に干上がり、皮膚は砂漠の大地のように細かくひび割れていた。
「こいつのこと、ですよね」ゲイルはランプを吊るされた獣人の顔に近づけ、下向きのその顔をくまなく眺めた。
伸びた鼻先に尖った耳、それは紛れもなくラッシュたちと同じ犬系の顔。
「見つかったとき、彼は乾ききってボロボロの状態だったんだ。それをラウリスタの星鉱から造られた糸と鉄片で補修して、なんとか元の身体を復元することができた。しかし問題は……」
黒く小さな声の主が、ゲイルのところに歩み寄る。
彼の腰ほどまで届かないその上背に、同様に黒い布が巻かれた両眼。
「生命は戻しても、この干からびた身体じゃね。だからこそオルザンの秘液と大量の血液が必要なんだ」
「そうやって見ると不思議ですね。こんなに輸液してるってぇのに、身体から全く血が漏れ出て来ないんですし」
まさしくその通りさ。と唯一見える黒い口元がわずかに微笑んだ。
「だからこそ、彼にはまた生命を取り戻してもらいたいんだ。神王の右腕としてね」
「ところで、ラウリスタはどうしてるんだい?」
その問いかけに、ゲイルの大きな鼻からふう、とため息が漏れた。
「ずっと部屋にこもってひたすら鉄を打ってます。弟子のガンデによると、もう二ヶ月近く飲まず食わずだとか」
「いかにもラウリスタらしいね。人に厳しく……しかし他者にも厳しい。まあ彼らも不死に近い存在だし、放っておいても構わないかな」
「奴の替えもいますしね。死んだら死んだで」
瞬間、小さな盲目の獣人がぷっと吹き出した。
「そうだよねゲイル。僕らには無限の資源がある。これほどまでに心強いことはないよ」
「ですよね……ヴェール様」
「もうすぐコンジャンクションがはじまる。それまでには彼の身体を満たさなければね」
ヴェールはその小さな手で、ミイラ化した獣人の頬を軽く撫でた。
「黒衣の始祖……か。一度でいいからお話ししてみたかったんだよね」