戦闘開始
ジールは話してくれた。ジャノの秘密を。
「マジかよ……あいつ、なんでいったい」
「私もジェッサに聞いただけなんだけどね。高熱出した時は注意しろって」
だがな、そうは言うものの、俺も実際この目で見ないと正直気が済まない。行けるのならばすぐにでもジャノの元に戻りたいくらいだが。
「熱が下がれば後は大丈夫です。もっとも……その後もまた大変なんですが」と、何故か恥ずかしそうな顔でガンデは言った。
そうだな。さっさとこの街の人間を解放する方のが先決だ。チャチャもあの隠れ家は外からではほとんど入り口は分からないと言ってるし。
今はそれを信じるしかない。
ずっと窓越しに外を見ていたマティエが戻ってきた。
「やっぱりな、どうも勘付かれたらしい。人獣がわんさかここに集まってきている。それに……」
ご丁寧に奴ら、ここに火をつけていぶり出す魂胆みたいだ。みんなしてたいまつやら火矢を手にしているんだとか。
「私はおじいさんを安全なとこに避難させるから。ガンデはみんなを案内して」
「僕は奴らの背後からやるだヌ」
「俺っちもチャチャに付いてくわ。正面切って挑むのは苦手だし」
「私が先に外へ出る。その隙にラッシュはガンデと一緒に行け」
頼もしいな。誰かが仕切らずともみんな勝手に自分の役割を買って出てくれている。お言葉に甘えるとするか。
だけどガンデの奴……こいつ戦いはできるのか?
「ガンデ、お前武器なにか持ってるか?」
「え……?」
「え、じゃない。お前も戦えるンだろ?」
「いや、その、私は……」
「ちょっとラッシュ!」あいまいなガンデに詰め寄ろうとした時、ジールが思いっきり俺の尻尾を引っ張ってきた。やめろさっきっから痛いとこばっか!
「あんたのそーゆー考え、改めたほうがいいよ」
「はァ? どういう意味だ?」
はぁ。とあいつはいつものため息混じりに、俺に説教をたれてきた。
「ジャノの兄貴だからとか、おやっさんの息子だからあの子きっと強いだろうと確信してるでしょ?」
「そうじゃねーのか?」
ため息二つめ。今度はちょっと深かった。
「男ならとか、強い血筋引いてるからって理由で思い込む癖はやめときなって言ってるの!」
「違うのかよ! どう見たってあいつは強そうなタイプじゃねーか。なにか間違ってるのかよ!」
「まどろっこしい言い方するなジール。それにラッシュも頭ガチガチすぎるぞ。ガンデはまともに戦いなんてした事ない。それだけだ」
割って入ったイーグがそう言うと、ガンデは申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。
「そうなのか……おまえ?」
「は、はい……ケンカとかは全然……ダメなんです」
はあ……天国の親方が見てたら、一体なんて言うだろうな。
「見ツケタ!」
突然ドアから入ってきた! 見回すと窓にも、天井の梁にも奴らの姿が。
なんなんだこいつら……まるで蜘蛛みてえだな。けど一匹ずつじゃ俺たちの敵ですらない。
瞬きひとつする間に、マティエとチャチャは侵入者の身体を真っ二つに切り裂いていた。
「うえっ、こ……殺しちゃったんですか?」
俺の背中にいち早く隠れたガンデが震え上がっていた。
確かにな。こいつ誰にも似てなさそうだ。