ひとつ屋根の下
とりあえずマティエのやつは俺の方で預かることにした。
あいつも城には帰りたくないらしくて、そのことでラザトと口論になって、結果的にしばらく休暇ということで落ち着いたそうだ。
だからか、いつものクソ重そうな鎧を着てなくて、今日はへそ出しのラフな服装だったのは。
いやそんなことはどうだっていい、問題はこの泥酔女をどこで寝かせるか、だ。まさかこのまま床に転がしとくわけにもいかないし。
実をいうと、この俺の家兼食堂兼宿屋……とはいってもお客なんて来たことすらないが、俺が寝ることのできるベッド……つまり部屋は一つしかない。
え、どういうことかって?
つまりは俺のこの背丈だ、身体つきだ。つまりは肩幅広いしガタイもあるこの俺がちゃんと寝返りまでうてる特注のベッドが、ここには一つしか置いてないってことだ。つまりはこの大女と俺はほぼ似た体格。あとは言わなくてもわかるよな?
その昔、親方が俺の成長を見越して頑丈な木材を取り寄せて……ってこの話も長くなるからやめておこう。
だから、チビと一緒でもそれなりに余裕がある。まあそれ以外はゴミ溜めか倉庫って周りから言われてるほどの汚い俺の部屋かもしれないがな。
「いいじゃん一泊くらい。ラッシュ変なことする人じゃないことくらい私でも分かるし」とジールは言うけど……なんだろう、首を縦に振りたくない。
……………………
………………
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でもって結局、ジールと二人がかりで二階の俺の部屋へとこの大女を運び、俺は床で寝ることに。
ああ、こいつに絡むといつも災難が襲いかかってくる感じがするんだが……気のせいだろうか。いやそんな訳ない。つーか俺病み上がりなんだぞ!
「どこだ……ここ」
イラついていた俺の胸のうちにさらに火をつけるかのように、酒が抜けたマティエの一言が。
「あン? やっと目が覚めたか騎士団長」俺も嫌味の一言で返した。
とはいえこいつも全然ここに来た経緯の記憶すら無かったみたいで。気の毒……とは微塵も思いたくないが、とりあえず話してやることにした。
「そうか……久しぶりに酔い潰れてしまったみたいだな、悪いことをした」
コップに並々注がれた水を一気に飲み干す。だけどこいつの謝り方って全然謝っているように見えないのがムカつくんだよな……
「ルースの奴、お前と全然会わねえのか?」
俺の問いかけに、あいつはぐっと息を呑んだ。
「会わない……と言うよりか、あっちの方が意図的に会ってくれない。とでもいうのかな。それに……」
おもむろにあいつは、ふらつく足取りで窓を開けた。
外から吹き付ける夕暮れの冷たい風。まだまだ俺には寒すぎる。
「タージアとよりを戻した、そんな噂話も聞いてしまったんだ」
え、タージアが? あいつはあいつで王子に求婚されたんじゃ?
「私が来るまでは、二人はとてもいい間柄らしかったからな……」
ふう、とマティエの白い吐息が部屋を舞う。
「ルース坊ちゃ……いやルースと仲を紡ぐには、私では役不足だったのかもしれないな」
「そのことなんだが……」うん、前々から気にはなっていたことが一つ。
たまにこの女、ルースのことを坊ちゃんと言ったり、敬語でうっかり話しかけたりしてて、なんか妙な関係に見えたんだ。
今だから聞けたりとか……それもアリかなと思って。
「そうだな……長くなるが、聞きたいか? 私とルースの出会いの話を」
「できれば短くまとめてくれ、長話は苦手だからな」
「無理だ」
ということで仕方なくこいつの昔語りを聞いてやった。
とはいっても、あえてここで長々と語るのもつまらねえことだしな……なもんで割愛しておく。