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第38話 トライアングルすごろく

 ◆

 なんでこんなことになったのだろうか。

「それで兎神さん」
「私と綺鳴ちゃん、どっちと結婚するの?」

 二人とも笑顔。しかしその背後からはゴゴゴゴと威圧を感じる。きっと二人の守護霊が睨んできているに違いない。

 さっきまで幸せだったのに、一体どうしてこんなことに……。

 ◆ 

 ブレシスは何とか妨害を振り払い、俺が勝利した。
 しかし続くツトムカートは普通に負けた。

「ブレシスでは負けましたが、ツトムカートは私の勝ちですね!」

「これで一勝一敗だな」

 あと残すはすごろくゲームの“エグドラすごろく”だけ……。

――ピンポーン。

 ゲームを操作していると、チャイムの音が聞こえてきた。

「ん? 来客か」

 瑞穂が出てくれていると思うが、一応俺も玄関の方へ行く。
 玄関に行くと、すでに瑞穂が客を出迎えていた。その客は青い髪で、見慣れた顔だった。

「アオ? どうした急に」

「あ、兎神くん。クッキー焼いたからさ、お裾分けにと思ってね」

「やった! アオ姉のクッキー大好きなんだよねぇ~」

 クッキーの積みあがった皿をアオは持っていた。
 クッキーは出来立てのようで、熱気が見える。瑞穂がアオから皿を受け取ると、

「アオちゃん!」

 俺の背後からぴょこっと飛び出し、綺鳴はアオの胸にダイブする。

「こんにちは綺鳴ちゃん。瑞穂ちゃんからいることは聞いてたよ~。良かったら綺鳴ちゃんもクッキー食べてね」

「はい! いただきますっ! ――そうだ! 今からすごろくゲームやるんですけど、アオちゃんと瑞穂ちゃんも一緒にどうですか?」

 ぬ!? 余計な提案を……。

「そうなの? じゃあ混ざらせてもらおうかな」

「いいよ~、やろうやろう」

「……マジか」

 せっかく綺鳴と二人っきりでイチャイチャしてたのに、残念。まぁすごろく系のゲームは人数多い方が楽しいし、別にいいか。

 アオが用意してくれたクッキーと瑞穂が用意したアイスコーヒーを手に、リビングに集合する。
 さすがに四人だと俺の部屋のテレビでは小さすぎるのでリビングに移動した所存だ。ソファーもあるし、大人数ならこっちの部屋の方が全然いい。

「私これ初めてやるんだけど、ついていけるかな?」

「大丈夫だよ。エグドラは初心者でもできるようにルールはわかりやすく設定されてるし、ミニゲームが始まる前は必ずルール説明が入るからね」

 口ぶり的にアオは経験がありそうだ。そういやアオってめっちゃゲーム下手だった記憶あるけど大丈夫か? 最後に一緒にゲームやったの小学生ぐらいだから、成長しているとは思うけど。

「操作キャラクターは全員エグゼドライブ生なんですよね~。私は……かるなちゃまにしようかな」

「あ、取られた」

「早い者勝ちです」

 仕方ない。
 さすがにかるなちゃまは綺鳴の方が相応しいよな。

「私はハクアたんにしよーっと」

 アオはハクアたんを選んだ。
 そんじゃ俺は……、

「れっちゃんにするか」

「えー、私どうしよっかな。SUNSUN’s(サンサンズ)ならわかるんだけど、エグゼドライブはわからないなぁ~」

 Vチューバーの大手は二つある。
 一つはエグゼドライブで、もう一つがSUNSUN’s(サンサンズ)だ。どっちも男女所属しているが、エグゼドライブの方は女性Vチューバーが強く、SUNSUN’s(サンサンズ)の方は男性Vチューバーが人気あるのが特徴的。

 瑞穂は男性Vチューバー好きで、SUNSUN’s(サンサンズ)のファンだ。

「あ! この子の動画は見たことある。ヒセキ店長!」

 瑞穂はヒセキ店長を選んだ。さすが店長、SUNSUN’s(サンサンズ)のファンにまで認知されてるとはな。
 しかしこれで()しくも四天王が揃った。

「始めますよ~」

 綺鳴がボタンを押し、ゲームが始まる。
 楽しくワイワイと盛り上がり、あっという間にゲームは終盤戦に入る。これまでの結果を以下をまとめる。

《綺鳴のVチューバー物語》
・ビジュアル発表! 有名絵師の力で登録者数+4万人
・初配信でラップを披露して大滑り! 登録者-1万人
・有名芸能人に紹介される! 登録者数+10万人
・歌ってみた動画の再生数が100万回突破! 登録者数+20万人
・お菓子メーカーのCMに出演! 登録者数+25万人!

《昴のVチューバー物語》
・初配信で歌手顔負けの歌声を披露! 登録者数+10万人。蛇遠れつの固有スキル“密林の歌姫”の効果でソング系のパネルの効果が50%アップ! さらに登録者数5万人プラス!
・有名Vチューバーとコラボ配信! 登録者数+10万人
・風邪を引き、休養する。登録者数-2万人
・大好きな先輩がスキャンダルで引退。ショックで休養する。登録者数-5万人
・一周年ライブが大盛り上がり! 登録者数+30万人。蛇遠れつの固有スキルの効果でさらに登録者数15万人プラス!

《瑞穂のVチューバー物語》
・初配信で大爆笑を取りまくる! 登録者数+30万人
・語学力を活かし海外向けにも動画配信を始め、海外にもファンを作る! 登録者数+40万人
・淫語を連発し収益を止められる! 登録者数-20万人
・競馬予想配信! 1~10までの数字の内一つを選び、ルーレットを回す。もし選んだ数字とルーレットの数字が同じなら登録者数+40万人。七絆ヒセキの固有スキル“ラッキーセブン”によりルーレットの数字を7に固定、見事的中させる。登録者数+40万人
・同期のチャンネルで淫語を連発し、同期のチャンネルが一時配信停止になり大炎上! 登録者数-20万人

《アオのVチューバー物語》
・初配信で軽快なトークテクニックを披露! 登録者数+10万人
・エグゼドライブの大規模企画で司会を任せられる! 登録者数+50万人
・コラボゲーム配信で先輩Vチューバーの足を引っ張りまくる! 登録者数-20万人。天空ハクアの固有スキル“誠心誠意”によりマイナス効果半減! 登録者数-20万人から-10万人に変更。
・クリスマス配信をとちり炎上。登録者数-20万人。天空ハクアの固有スキルにより登録者数-20万人から-10万人に変更。
・男性Vチューバーとコラボするも、イチャイチャし過ぎて炎上する。登録者数-30万人。天空ハクアの固有スキルにより登録者数-30万人から-15万人に変更。

 このゲームの勝敗は最終的な登録者の数で決まる。
 こうやってイベントで増減もするし、1ターン毎のミニゲームでも登録者数が移動する。他にもショップパネルに止まると様々な効果を持つカードを買うことができ、そのカードの効果で増減もする。
 結果、10ターンを終えての途中経過がこうだ。

 1位 瑞穂 登録者数102万人
 2位 綺鳴 登録者数89万人
 3位 俺 登録者数77万人
 4位 アオ 登録者数21万人

「……やっぱアオよえぇな」

「ま、まだまだこれからだよ!」

「ヒセキ店長の固有スキルつっよ」

「う~、やりますね瑞穂ちゃん……」

 すごろくは後半へと進む。
 このすごろくのゴールは3周年ライブだ。3周年ライブのマスに進んだ時点で終了となる。
 その直前のパネルはプラスにもマイナスにも大きなパネルばかりだ。ルーレットの目が好調だった俺は、その激熱パネルエリアに最初に到達する。

「そろそろ兎神さんはゴールですね」

「そうだな。でもこのままじゃ瑞穂に勝てねぇし、ゴールの前にプラスパネルを踏みたいけど……」

 ボタンを押し、ルーレットを回す。出た目は6。
 そのパネルまで移動すると、ハートマークが画面中に飛び散った。

『結婚パネルです! プレイヤーの中から一人を選び、夫婦になれます! 夫婦になった相手と夫婦配信を(おこな)うことができます! 選んだプレイヤーとあなたは登録者数がプラス70万人になります!』 

 このゲームのキャラクターは全員女性、エグゼドライブには男性Vチューバーもいるが、このゲームには女性Vチューバーのみ参加している。つまり誰が誰を選んでも百合婚になる。というか、このパネルは要約すると百合営……ごほんごほん。

 突き刺さる視線。
 三人が俺の顔をじっと見てきている。

「……マジで私は選ばないでね。ゲームの中とはいえ、おにぃと結婚とかマジ気持ち悪いから」

 凍った視線をぶつけてくる妹。

「兎神くん……お願い、このままじゃ私に勝ち目ないから、私を選んでくれないかな? 戦術的にも最下位の私を選ぶのが一番効率が良いと思うよ?」

 片目を瞑り、両手を合わせてお願いしてくるアオ。

「兎神さ~ん、また裏切ったりしませんよね? ね?」

 笑顔で脅迫してくる綺鳴。
 はてさて、うん、これは……修羅場というやつだな。

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