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第36話 推しが家に来るの巻

「よし、こんなもんだろ」

 年末の大掃除後ぐらい綺麗になった自分の部屋を見て一息つく。 
 今日は金曜日、否、もう24時を回ったから土曜日と言うべきか。なんとか満足いく出来になった。
 普段は汚れるのが嫌だからしまってある月鐘かるなのポスターやぬいぐるみを設置して、かるなちゃま愛をさりげなくアピールする。万全な構えだ。

 ……不安なのはぎっちぎちの押し入れだが、なんとか決壊しないことを祈る。

「さあ、寝よ寝よ……」

 ベッドの上に横たわり、30分。

「寝れねぇ……」

 目が冴えてちっとも眠れない。
 いつもは授業中に襲ってくる睡魔連中も暗殺者の如く息を潜めている。

 緊張してるな……どうも自分の部屋に異性を呼ぶのは怖い。

 というのも、この前アオが来た時、熱だったとはいえ……正直エロい気分になっていた。
 あのアオに対して、幼馴染のアオに対してあんな感情を抱いてしまったのだ。恐らく自分の部屋がもっともオスの本能が目覚めてしまう場所! 

 寝ぼけていたとはいえ、麗歌を抱きしめたのももしかしたら無意識にオスの本能が働いていたからかもしれない。

 そこに綺鳴を、あのロリ巨乳銀髪っ子を呼ぶのだ。はたして俺のオスの本能は我慢できるだろうか。

 やべぇ、変な妄想が止まらない。

 明日は瑞穂も友達の家に遊びに行くとかで居ないし、完全な二人きりになる。なってしまう。
 さすがに平常状態の俺なら理性を保てると信じたいが……はたして。


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 結局、一睡もできなかった。
 朝、トーストを焼いていると、ノースリーブを着た瑞穂が通りがかり、

「あ、おにぃ。今日やっぱり友達の家に遊びに行くのやめたから」

「……もっと早く言ってくれよ」

 瑞穂が隣の部屋に居てくれれば変な気を起こさないと断言できる。
 コイツが居るってわかっていれば昨夜も妙な心配せずぐっすり眠れたというのに。

「仕方ないでしょ。今日いきなりキャンセルくらったんだから。おにぃは誰かと遊ぶんだっけ?」

「ああ。この間銀髪の女子が見舞いに来たろ」

「あ~、あのすっごい可愛い人ね」

「アイツの姉が来る」

「へぇ~、ちょっと見てみたいなぁ。あの人のお姉ちゃんなら絶対可愛いだろうし」

綺鳴(あっち)もお前に会ってみたいって言ってたし、見に来てもいいぞ」

 瑞穂が居るとわかってからは完全に肩の力が抜け、それからは普通にいつも通りの日常を過ごせた。
 あっという間に14時になり、チャイムの音が鳴り響いた。
 俺が部屋から出ると、瑞穂もほぼ同タイミングで部屋を出て、俺の後についてきた。
 一応、ドアスコープを覗き来客者を確認する。銀髪のアホ毛が視認できたので俺は鍵をあけ、扉を開いた。

「ここ、こんにちは兎神さん!」

 緊張全開の綺鳴だ。
 友達の家に遊びに行くって経験があんまりないんだろうな。下手したらこれが初かもしれない。

「よく来たな。どうぞ」

 綺鳴を玄関に入れ、扉を閉める。

「すっご! かっわ! え? なに? めちゃくちゃ頭撫でたいんですけど!?」

 興奮状態の瑞穂が前に出てくる。

「あっ、もしかして兎神さんの……」

「妹の瑞穂だ」

「やっぱり! どうしてでしょう、兎神さんに似てるのに可愛い!」

「『似てるのに』ってのはどういう意味だ!」

 たしかに、瑞穂は俺に似てるが……怖さはない。
 俺と同じで金髪だが、とても滑らかな髪質で煌びやか。良い意味で目を引く。
 細い眉もキリッとした印象があるし、
 三白眼も気の強い妹のキャラにマッチしている。くっきり二重でまつ毛が長いため、目つきの悪さとかも感じづらい。目元は猫目のような愛らしさがある。

……つまるところ、俺にとってのコンプレックスすべてがコイツの場合すべていい方向に向いている。この点についてはちょっと納得のいかない兎神昴であった。

「あ、私、朝影綺鳴と申します。お兄さんにはいつもお世話になってます」

「いえいえ、こんな兄、奴隷のように利用してもらって結構です」

「おいコラ、たった一人のお兄ちゃんだぞ」

「白ワンピもめっちゃ似合ってる……! いいなぁ、私こういうの全然似合わないから羨ましい……しゃ、写真撮ってもいいですか? 綺鳴さん」

「あ、はい! 全然いいですよ!」

 撮影会が始まってしまった。
 さっきは家にいてくれてありがたいと思ったが前言撤回だ。早くどっか行け!

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