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第十一章: 再び手を取り合う

誓は放課後の静かな教室に一人残り、翔馬から預かったノートを開いていた。そこには、クラス全員で話し合った劇のテーマやアイデアが書かれている。壮大なファンタジーの中に謎解きの要素を絡めたストーリー──挑戦しがいがあるテーマだが、誓は少し不安げな表情を浮かべていた。
(僕に、本当にみんなが納得するような脚本が書けるだろうか…。)
ペンを握る手が少し震える。だが、その時、教室のドアが開き、一海が顔を覗かせた。
「誓、まだいたのか?手伝えることがあれば言ってくれよ。」
「一海…ありがとう。でも、これは僕の役割だから、ちゃんと自分でやらないと。」
誓はそう言いながらも、一海の存在に少し安堵していた。
「なら、せめてアイデア出しには付き合うよ。みんなで作る劇なんだから、一人で抱え込むな。」
誓は頷き、二人でノートを囲むように座り直した。

翌日、誓が書き上げた脚本の第一稿がクラス全員に回された。教卓の前で翔馬が配り終えると、生徒たちはそれぞれ真剣な表情で紙をめくった。
「これは…けっこうすごいんじゃないか?」宇俊が感心したように呟いた。「キャラクターにそれぞれの個性が出てるし、ストーリーも引き込まれる。」
「ほんとだよ。誓、よくこんな短期間で書いたな!」太起が笑顔で褒めると、誓は恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「でも、まだ粗削りな部分もあるから…。みんなで修正していければと思って。」
「誓らしいな。」翔馬は微笑みながら言った。「みんな、この脚本をベースに意見を出し合って、さらに良いものにしていこう。」

それから数日間、クラス全員で脚本を練り直し、演出や役割分担を決める作業が続いた。ノリトは派手なアクションシーンの振り付けを担当し、胤命は舞台装置のデザインを考える係になった。
「ここで煙がバーッと出るのはどうだ?」ノリトが提案すると、胤命は少し考えてから答えた。
「派手でいいが、安全面はしっかり確認しないとな。あと、コストの問題もある。」
「お前、堅いなあ。でも、それが胤命らしいところか。」ノリトは笑いながらロープの長さを測り始めた。

その一方で、和綺は一人、舞台の隅で台本を手に持ちながら小さくため息をついていた。自分に割り当てられた役に納得がいかないのだ。
「俺に、この役は向いてないだろ…。なんでこんな目立つ役を押し付けられるんだ。」
「何言ってるんだよ、和綺。」公博がクールな表情で近づいてきた。「お前みたいに自信満々な奴がいると、劇全体が締まるんだ。だから、必要なんだよ。」
「自信満々って…別にそんなつもりじゃねえよ。」和綺は反論しながらも、公博の言葉に少しだけ背筋を伸ばした。

そして、練習の日々が続き、クラス全員が少しずつまとまっていった。翔馬は全体の進行を見守りながら、時折声を張り上げて指示を出していた。
「いいぞ、みんな!その調子で行こう!でも、次のシーンではもう少し感情を込めてみてくれ!」
その言葉に応えるように、一海や誓、ノリトたちはそれぞれの役割を全力で演じていた。

ついに文化祭当日。舞台裏では緊張感が漂っていた。和綺は手を組みながら深呼吸を繰り返し、誓は台本を抱きしめるように持ちながら何かを呟いていた。
「みんな、大丈夫だ。ここまでやってきたんだから、自信を持とう。」翔馬の言葉に、生徒たちは一斉に頷いた。
そして、幕が上がる。

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