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私達、ノースエヴォリューションズ。

雪解けが近い。歩道の雪はまだ若干積もっているけど、アスファルトが見えてきて、気温も7度くらい。もう少しで春が訪れる。太陽も輝きを増していて、ああ、生きているって最高だなって思わせる。ただ、生きているだけで幸せを感じる。ライブハウスにはたくさんのファンが並んでいる。私はマスクにサングラスをかけている。でもファンは聡い。私のことをじっと見つめて真剣に吟味して近づいて来る。私は咄嗟にファンの腹部に蹴りを叩き込む。って嘘、冗談よ。周りをファンに取り囲まれて360度、逃れることができなくなってしまう。私はニッコリと笑い、その笑顔はファンの心を萌え要素全快でノックダウンしてみんな地ベタに倒れ込んでしまった。私はその隙を狙ってライブハウスの裏口から控室に入った。部屋の中にはすでに衣装を着た、東郷ひら、平塚せい、がいた。
「おっはよっっ!」私は二人の背中を叩いて挨拶をした。
「おはよう。アイカ。外凄くない?たくさんファンがいるでしょ。なんか元気が出るよね」ひら、はとても色白で肌のきめが細かく、血管が浮き出ていて、とても美しい。
「ひら、せい、アイスクリーム買ってきた。食べて」
「おう、さんきゅっ!」
「ああ、アイス饅頭!これクリーミーで美味しいよね。私大好き。中に入っている冷たいアンコがまたさっぱりして良いよね」せい、は小柄でとても愛嬌のある顔立ちをしている。いつもおどけたような感じでいるけどダンスがとても上手でしかも真摯だ。私も彼女のことをとても尊敬している。私は楽をしてなんとか毎日を乗り越えようとする傾向が強くて、それは良くないんじゃね?みたいにいつも戸惑いながら真面目さを取り戻すことに精一杯だ。
「今日は最高のステージだね。なんかボルテージが上がってる。最高のライブになりそう」
「うん、ホントわくわくしている。心の中の想いが奇跡的なまでにキラキラしていて、熱く語っている。幸せ感じるわー」私もステージ衣装に着替えるべく、着替室に入った。鏡に写る私は今までで一番の笑顔だった。そのことにびっくりした。えっつ?そんなに嬉しいの?って感じ。衣装は私のカラーであるピンク。胸に佐原アイカ、というネームを着けて着替室から出た。甲斐瞳と丹羽陽茉梨(ひまり)が控室に入ってきた。5人全員が集まって、最強の威力を発揮するTeamsになった。この揺るぎないメンバーでこれからファンの前に出て、私達全員が作った曲を披露していく。なんだか身体が興奮で熱くなってエネルギーを消費したからなのかお腹が空いてきた。
「お腹空いたー。なんか食べるものない?」
「ポテチとチョコあるよ。食べる?」陽茉梨がカバンから厚切りギザギザのポテチとピーナッツチョコを出した。
「サンキュっつ」私達は無心で食べた。この印象、なんだか最後の晩餐みたいだ。これからポテチを食べるたびにフラッシュバックのように素晴らしきこの日の思いを浮かべてしまうかもしれない。
「さあ、頑張ってファンのみんなを楽しまそう。いつもどうり声を出して踊れば絶対に興奮させられるから」東郷ひらは確信を込めて言った。その声の響きが伝播して、Teams5人は円陣を組んで、いつものように声を合わせた。
「今日も頑張っていこう。私達、ノースエヴォリューションズ!」私達はエネルギーに満たされてみんな手を繋いだ。お互いの心に巣食っている不安とか緊張を解放して、ファンのみんなを魅了する為の勇気を結集した。
待ち時間の間、私達5人はダンスの練習をした。舞台の側で声を合わせて口ずさんだりして、ファンのみんなが客席に入って来る所をカーテン越しに見た。
「わー、お客さんがたくさん入って来てるよー。なんか幸せだな」甲斐瞳は身長170センチの長身を活かしてそっと観客席を見る。
「今日のお客さん、みんな笑顔だなー!嬉しくなっちゃう!」陽茉梨は手を叩いて喜びを表した。私達5人は同じ発寒高校の同級生で自分たちだけで運営、マネジメント、作詞作曲、振り付けをしている。札幌にもアイドルグループはいるけど、全てを自分達だけでこなしているグループはあまりみられないだろう。客席200人のライブハウスはいつも満員だ。その様子はネットでも配信される。札幌を本拠地にしているけれど、楽曲が評価されて全国展開を目指している。ファーストアルバムはなんと1万枚を越えるほどの盛況だ。私達の今の目標は武道館ライブ。そして人に勇気を与えるような楽曲を作っていくこと。この世の中は閉塞的になっているけど、そのような状況を打破して毎日学校や会社で一生懸命になって楽しんでもらいたい。
出番が近づいてきた。観客の潮騒のような轟きがじわじわと私達の心に響いてきた。みんなの期待が熱気のように伝わってくる。あと、10秒だ。9秒、8、7、6、5、4、3、2、1、さあ始まりだ。私達はステージに向かって走り出した。眼の前にはたくさんの、満員のファン達!
『あなた達は最高の友
いつでも、どこでもそばにいる
遠く離れても、スマホにあなたの姿を見つめている
学校や会社で集中していても
心はいつもあなたに。
辛い時、悲しい時も、あなたのことを思い浮かべれば
なんてことない
ああ、喉が乾いたな、でもそれは心の渇き
あなたが笑顔でいれば、癒される
そうよ、私も笑顔でいられる
でも、それは、私だけのものではない
みんなにその笑顔を向けてね
私はいつもあなたを見つめている』
歌いながらも身体が思うように動いている。全て解放された気分だ。仲間との連携も完璧だ。ソロパートもばっちり上手くいった。
『この星にはたくさんの国がある
いろんな言語、いろんな文化、
でも同じ地球人
お互いに話せたらいいのにね
でも私達には共通言語がある
それは笑顔
そして涙
ホント世界って難しい
でも、私は歌うんだ。言葉が通じなくても、大丈夫
ハグをすれば全てオッケー』
観客に向けてのメッセージは最高に清々しく、人の心を打つことができる。私達は踊りながらもみんなの喜びが伝わってきた。私の側に4人の仲間が笑顔満開で感動を抱きながら歌っている。今までにこんなに喜びに満ちたことはない。毎日が幸せでいつまでも続けばいいのにと思う。嗚呼、仲間って最高!そしてファンのみんなって最高!こんな世界が充満すればいいのに。毎日笑って喜びで満ちれば、こんなに素晴らしい世界って…今、私は歌い踊りながらも苦しんでいる人、辛い思いをしている人のことを思っている。みんなにも喜びだけじゃなくて、実は苦しい気持ちを抱いている人がいることを知って欲しいんだ。でも、そのことを言うわけにはいかないし。そのことが心苦しいけど、それを押隠して笑顔でいる。
一曲目が終わった。これだけでも身体中から汗が吹き出していた。
「あー、熱い!みんな、大丈夫ですかー?」陽茉梨が大声で言った。
「おーっ!!」ファンの熱気がもの凄い。館内は体感的に40度は超えていそうな勢いだ。
「一曲目は地球人でした。みんな元気だー!最高ー!」甲斐瞳のクリーンなトーン。
「甲斐チャンかわいいー!」ファンのみんなが同時に言った。
「ありがと、みんな大好きだよ!今日はこのライブに来てくれてありがとう。楽しんでね。では自己紹介をしたいと思います。まず、私から。いつも寝坊しちゃう、調、天然娘、アイスクリームが大好きで、とくに抹茶味のエッセルスーパーカップを食べると百万倍の力を得ます。漫画大好き、北斗の拳って知ってる?男たちの熱い戦いにはまっています。さあ、甲斐瞳のことを好きになってください。愛されたいよー!では次…」
「どうもこんにちはー!ひら、ひら、ひら、東郷ひらです!!みなさん、お元気ですかー!」
「おーっつ!!」
「みんなの元気、とても気持ちいいぞー!私はファンのみんなと出会えてとても勇気と自信をもらっています。みんなの笑顔だとか喜んでいる姿を見れて最高に幸せです。これからも私達、ノースエヴォリューションズを応援してくださいね!」
「ひらー!」「ひらー!かわいいー!」「最高ー!」「大好きー!」
「では、こんにちはー!丹羽陽茉梨です。このメンバーの中で一番頭が良いんだー!って、自慢でーす。でも上には上がいるもんです。謙虚な気持ちを忘れないように日ごと努力している陽茉梨(ひまり)だよーっつ!」
「ひまりー、てんさーい!」「ひまり最高ー!」「秀才ー!」「かわいいよー!」
「ありがとう。次は平塚せいっ!」
「こんにちはー!」
「こんにちはー!」
「平塚せいです。両親が平塚市で出会ったので平塚姓を名乗っています。実の名前はお、し、え、な、い。でもいつの日かみんなにも教えたいと思います。私は少しおっちょこちょいなところがあって、恥ずかしい話、パンツを逆に履いてしまって、あれ?なんか変?ってことがざらにあります。でも料理が得意で、とくにお菓子作りが大好きで、アップルパイとかスイートポテトパイなんか作ったりします。みんなにも食べさせてあげたいなー。今度作ってきて、抽選でプレゼント、なんてこともしてみたい!楽しみにしていてください」せいはとても笑顔がまぶしすぎるほど輝いている。彼女はまるで太陽のようだ。いつもみんなに明るさを注いでいる。
「では、では、私の番です。どーもこんにちはー!佐原アイカです。今日はほんとにみんなに会えること、楽しみにしてましたー!みんなのパワーが凄く伝わってきます。とっても嬉しいです。私達のこと、初めて見る人たちもいるかと思います。私達は札幌で活動しているノースエヴォリューションズというグループです。でもネット配信やYou Tubeでも私達の活動を見ることができるので、ぜひ、見てみてください。えっと、私の自己紹介だけど、私はこのグループのリーダーをしています。みんなをまとめるのはとても簡単です。みんなお互いのこと尊敬していて、いつも相談して問題を解決できます。私はたぶん、このメンバーの中で、一番歌もダンスも下手だと思います。でも一生懸命に頑張ってファンの皆さまを盛り上げようと努力してます。好きな食べ物はメロンです。なぜメロンが好きかというと、お母さんの実家が夕張で、遊びに行くと必ず夕張メロンが出てきて食べられるからです。あと、私ってじつは凄い緊張しいでステージに上がる前はホント心臓バクバクで、でも隣に、ひらと、せいと、瞳と陽茉梨がいるんだって気づいて、そんな気持ちが吹っ飛んできちゃうんだ。だからやっぱり仲間って大事だと思う。だからみんなも心から信頼できる友達を作ってください。ぜひ、今日のライブで周りはみんな仲間なんだから、同じ趣味っていうか共通の友として、知り合って、友達になってくれれば最高に嬉しい。あー熱いね。まだ一曲目なのになんかアンコールで歌ったみたいに満足感が凄まじいです。では、2曲目!ファーストシングル、私達ノースエヴォリューションズ!」
明かりが消えて館内は真っ暗になった。ファンが手に持っているサイリウムがカラフルに輝いている。まるで宇宙の真っ只中にいるような感じだ。宇宙ってこんな感じなのかな?真空の中で、もしくは母の胎内で安らかにたそがれているようだ。私達の初めてのシングルは忘れもしない、商業施設で無料ライブで歌って、客も少なかった。淋しかったけど、そんな時でも精一杯踊って歌ってやりきったという開放感でこれからも頑張っていこうという気持ちになった。私は一人じゃない、仲間がいるんだ。って、自信や勇気という特質を培うことにも役立った。
『いろいろ悩みがあるけれど
私達は強い絆で結ばれている
みんなを笑顔にしたいけれど
でも、私自身が苦しい時もあるんだ
そんな時
頭の中でイメージするんだ
楽しいことを
辛い時こそ笑顔でいられるよう
もっと洞察して妄想を膨らますんだ』
心を込めて私達は歌っている。その思念が絶対にファンに届くと信じて私達はこれまで歩んできた。精一杯、今この瞬間を味わいたい。私達は太陽のようにみんなを照らしたい。それが無理でも出来る限り、一人の人の心をとろかしていきたいと思うんだ。眼の前にいる大勢のファンの揺れるサイリウムはまるでファンの熱気によって発光しているようだ。私達はそのみんなの励ましを受け取って、いっそう声を上げて歌った。
『ねえ、ねえったら、ちゃんと私の気持ちを理解して!
でも人は不完全
だからお互いに語り合うことが必要だね
これからもっと会って話し合おう
そうすれば、私達は最強のコンビになれる
どんなことがあっても悩みをうちあけられる
ときには誤解はあるかもしれない
でも、それを乗り越えて
もっと親しくなれるのだ
分かりあえるって最高の気分
みんなの笑顔で私はときめく
一人の時ってあるけれど
でも、自分を見つめ直す良い機会
頭の中はエヴォリューション
意味は分からなくていいんだよ
なんとなく感覚で理解して
ああ、心地良いため息
現実を見つめないで
見るのは未来
いつも背伸びして歩もう』
ステージに立って歌い踊っていると、まるで中国に伝わっている太極拳をしているような、また禅寺で座禅を組んでいるような、複雑で全ての森羅万象を理解したような気持ちになることがある。今の気分もそうだ。そして空中を飛翔して世界を俯瞰(ふかん)してる感覚になる。鳥は自由に空を飛べることをきっと当たり前のように思っているだろう。でも私達はとても心を動かされて、なんて凄いんだろう、なんて私達は恵まれているんだろうと全身で喜びを爆発させている。
……2曲目を終わって私達は身体中が柔らかで純粋な果物に覆われたような感じだった。なんか表現が下手だけど。でも、レモンやみかんやパイナップルをジューサーでかみ砕いた液体を飲んだ時のような爽やかで愛する人に抱擁(ほうよう)をされたようにとても心地の良い感じだ。旅の前日にそわそわして待ちきれないような、いったいどんな世界が待っているのだろうか、そんな気持ちも味わえている。私達が見据えているこの広大な世の中で全てを知ることは出来ない。それほど巨大で複雑な物語の中にいる。でも手探りして一歩一歩歩んでいくことは大切だ。

……ライブも終盤。ファンと私達のボルテージは頂点に達していた。
「みんな、今日は私達のライブに来てくれてホントありがとう。たくさんのエネルギーをもらいました。これからも応援よろしくお願いします!あー、よかった!最高の気分です。はじめは歌詞忘れたらどうしようとか考えてたけど、そんなことどうでもいいやって、たとえ間違っても温かく見守ってくれるはずって思うようになりました。みんな大好きです。いつもいつもみんなの笑顔、忘れないようにします。この場面を脳裏に焼きつけたいと思います。本当に、本当にありがとう。では、最後の曲になります。聴いてください。雨と涙の境界線はきっと君の心次第」

『今日はなんだか心が騒ぐ
きっと朝から雨が降っているから
雨音が私の心を揺さぶる
さあ、目を覚まして、って語ってる
カーテン越しにキラキラ光る
その雨は泣いているようだ
今日一日
世界中の涙を集めたら
どのくらいの量になるのかな
ペットボトル1個?
いやもっとかな
それを土に蒔けばどんなものができるかな
私はそっと語りたい
笑顔の数はどれくらい?
今日一日の笑顔は1億くらい
もっと、もっと、溢れるくらいに照らして欲しい』
今、人生で一番の嬉しさ、爽やかさを感じている。こんなに幸せで私達はこの気持ちが永続してほしいし、同じようなこの喜びをみんなに経験してほしいと思った。ステージからは観客の顔の表情まで明確に見える。みんな私達の楽曲を覚えていて共に口ずさんでくれている。とっても嬉しい。私達のことを見て共感を覚えていることが分かる。毎日がこんなふうに、全ての世界が今みたいに楽しみで溢れたらいいのにな。

……ラストの曲を歌いきると全てを出し尽くしたという達成感が充満した。最初、不安もあったけど、必ず最後にはやって良かったという感情で満たされるのだった。
「みんな、ありがとう!楽しかったー!ホント最高ー!みんなに会えて最高に幸せです!こんなことってあるんだね。これからもみんなお互いに今の気持ちを忘れないで生きてほしい!そしてこの喜びを持続して周りに伝播させてください」私達はお互いに手を繋いで頭を下げた。達成感と一抹の悲しみの、ファンとの別れが自分の心に沸き起こってきた。でもこれが最後ではない。必ずいつの日かまた出会えるだろう。みんなもまるでフルマラソンを走りきったような達成感を得ているような満たされた表情を見せている。
「それじゃまたね!今日はほんとにありがとう!」私達5人はみんなに手を振ってステージから降りた。あー、ほんとに最高!充実してるなあ。この余韻(よいん)、いつ感じてもかけがえのないものだ。お互いに全てを出し尽くして抱き締め合う。
「良かったー!頑張ったよね!」ひら、がみんなの頭を撫でて感極まったのか涙目だ。その気持ち分かる。私もひら、の影響を受けて感動した。身体は汗でぐっしょりだ。でも不快感は無い。むしろ全身に清らかな麗水を浴びたような清々しい気分だ。耳の中にまだ歌った歌詞が残っていて囁(ささや)いているような感覚がある。自然に呼吸が深くなってお腹が上下する。こんなに空気が美味しかったなんて、そうだ、人って酸素がなければ生きていけないんだ。太陽も食物もなければ駄目なんだ。私は今まで自分の力だけで生きていると思っていた。そこのところは改めなければいけない。もっと謙遜に、そしておしとやかに生きてみようかな。
「アンコール!」「アンコール!」「アンコール!」「アンコール!」場内はファンの声で満ちてきた。その力強い、勇気と自信を呼び覚ます声音は私達5人のお腹にまで響いてくる。とても励まされてまたみんなに会えると考えただけで、身体が熱く火照ってきた。でも、もう少しみんなをじらせよう。もっと期待感を高めさせたい。
「アンコール!」「アンコール!」「アンコール!「アンコール!」
私達は暗黒のライトが灯っていないステージに歩いて行った。そしてライトが私達を照らすとファンのどよめきが海の波の音のように轟き渡った。
「うおーっつ!」
「みんなー!アンコールありがとう!私達もまだ、物足りないって思ってたの。せいのっ!これがノースエボリューションズだー!」虹のようなライトが全ホールに走り回る。
『いつも笑顔でいたいけど、時に曇ることもある
それでもきっといつの日か
笑っていられると思うんだ
太陽が輝くように
月が夜空に浮かぶように
暗い闇が漂っていても
必ず光輝くんだ
でも、
時には落胆することもある
そんな時は無理して笑うんだ
人がいようと関係ない
自分の気持ちを正直に表すんだ
寂しい時、辛い時には月を見るんだ
そうすれば心のわだかまりが晴れるんだ』
天に届くようなファンの熱い声が私達を包み込む。お互いに一体となって恋とか愛とか慈しみを超越した体験を受信している。こんなにも歌が人の心に響いてどんな活動もこのライブには敵わないだろうと思う。いわば私達は神を見たのだ。この経験をすると、もう後戻りはできない。私達はこれから先、命尽きるまで踊り続けることを誓った。
『終わりは見えない
いつまでも、生き続けたいと
ひたむきに思ったんだ
年をとってもこの思いは
最後まで持ち続けたい
いつまでも笑顔を忘れずにいたい
この世界は暗黒の
真っ黒いどす黒いことがいっぱいある
私達はそんなことに抵抗する
大人はいつも子供を騙そうとする
でも最後に勝つのは子供なんだ
学校では愛について教えない
それは何故なの?
それこそが最も大切なことなのに
愛や平和を謳うけど
全然世界は苦しみばかり』
瞳、陽茉梨、ひら、せい、そして私アイカ、この5人が声を合わせてこのライブハウスで、そしてネットを通して多くの人に歌を届けている。こんなに幸せで良いのだろうかと少し頭の隅に浮かんで、いやいやなんでそんなこと考えているの?って払拭するように頭を何度も振った。しかし、こんなに大勢のファンの前で歌って踊るということは、さすがに気持ちいい。今までの頑張ってきたことが走馬灯のように色々とよみがえってきた。いつも私達は一緒にいた。いろんな悩みを抱えていたときも相談にのってくれたし、同情や共感という言葉がぴったりの気持ちでお互いに覆い被さってくれるのだ。
『いつもありがとう
あなたがいることで
あなたがいるだけで
力をもらっているよ
言葉なんて本来いらないんだ
その笑顔だけで力をもらえるんだ
だって言葉が通じない外国人でも
笑顔は通じるでしょ
悲しい顔だってみんなに分かる
静かに心臓の音を聴いて
そして自分の心の内をしっかり覗いて
そうすれば平安が訪れる
みんなに知って欲しいんだ
私の思いを
でも無理にとは言わない
ただ、感じて欲しい
私の息吹を』
ライブ会場は熱気というか共感の煙で満ち溢れていた。みんなが一体となって激しく振動をしているようで、唯一の真理へと真実を会得したような達観へと導かれた感覚が私達とファンの間で起こったようだ。
「みんな、ありがとう。ほんと楽しかった。この今実感している気持ちをいつまでも忘れないようにしてね。最後にみんなにキスするね。みんな大好き!チュッ!」ファンはどんな贈り物よりも嬉しいプレゼントを貰ったように歓声をあげた。
私達はみんなに手を振って別れを告げた。この満たされた気持ち。また味わうことができるだろう。最初は不安と心配があったけど、そんな思いは払拭されて、今はまだまだ充電が百パーセント、みたいな感じだ。
「あー楽しかったね。ひら、せい、瞳、陽茉梨、良かったよ。みんなの声、ファンに届いていた。ホント、最高だったね。これからも頑張っていこうね」
「アイカ、あんたのリーダーシップ、ありがとう!とても励みになったよ」ひらが言った。陽茉梨と、せいは目が潤んでいる。
「なんか世界の絶景を地球一周して見て回ったみたいな、そんな感じ」瞳は私達を1人1人ハグして回った。
「また早くライブしたいね」ひらは最高の満面の笑顔で言った。

私達はライブの関係者に挨拶を済ませて、ススキノの居酒屋で打ち上げをすることにした。もちろんお酒は飲めないけど。でもその店で出す家庭的な一品料理は最高に美味しかった。まるでお祖母ちゃんが作ったような馴染みの、とても安心できる味だった。
「うん、このおでんの大根、汁がとても染み込んでとっても美味しいね。懐かしい感じがする」せいは目を閉じて回想するような口調で言った。
「ステージで立って歌っているとき、まるで宇宙に投げ出されたような感じがした。みんな大勢いるのに真っ暗闇の中、1人になって、でも孤独ではなかった。星々が、サイリウムの光が輝いてみんなも一緒になって孤独に、それでも一人じゃ無いって思えた。それは凄い啓発を与えるような感じだった」ひらは独白のように呟いた。
「うん、その感じ分かる。相手の体に乗り移ったっていうのかな?それこそ合体したみたいになって恐れるものなんて何もないみたいな」せいはきんぴらごぼうを食べながら言った。
「歌っているとき、みんなが私達に出会えて嬉しい、そんな表情でいてくれたのがとっても幸せだった。もっとファンの表情を見ていたかったって思うんだ」瞳は回想するように言った。実感がわいてくるような確信を込めたその語りは腹の底からの辺りを揺り動かすような感じだ。周りの客も、瞳の声に反応して耳を澄ませている。心からの強烈な思いというのは人に伝播するものだ。
「ファンの私達の歌を、まるで喉が乾いて水を求めるような、あの熱い情熱は、私達の中にある煮えたぎる心を沸き上がらせることができる。みんな、全ての人がいつも幸せな思いをもっているわけじゃないかもしれないけど、でも私達の歌声を聴いて、少しでも心の傷を癒やして欲しいと思うんだ」陽茉梨は心底心からの気持ちを吐露した。彼女の思いは私達みんなの思いでもある。私達は特別な絆で結ばれている。例えば高価な贈り物を渡されて、もちろんそれもいいんだけど、それよりも安価な物でも、そのシチュエーションがとても深くて温かいものであれば、物よりも、その場の雰囲気というか体験を通していっそう重要なものとなることだってある。私達はそのことがとっても、大切な日常を送るにあたっては貴重なものだと思っている。
「刺身が食べたいなー。盛り合わせ、注文する?」瞳が言った。
「いいねー、アジとかハマチとか、中トロなんか最高だよね!」そう言って、ひらが手を上げて店員さんを呼ぶ。
「すいませーん、注文いいですかー。刺し身の盛り合わせ、十人分、お願いしますー!」
「はい、刺身盛り合わせ十人分ですね。分かりました。ありがとうございます」店員は大学生くらいの年齢、二十歳から二十二歳といったところ。とてもハキハキしていて声を聴くだけで安心感を覚える。
「今日のライブはいつもそうだけど盛り上がったねー!ここまでよくこれたと思う。なんかいつも学ぶことが多くてこんなに幸せで良いのかなって感じるんだ。これから先、何処へ向かうんだろう?」せいは独り言を言っているみたいに語った。彼女は哲学的な思索というか、問題や疑問を深く掘り下げるのが大好きだ。考えるって大切だ。私もせいに見習いたい。
「言えることは、ますます私達はプロフェッショナルになっていくということ。でも大事なのは垢抜けしないことだと思うんだ。今の芸能人にしてもアイドルグループにしても、成長していくにつれて、綺麗になっていく。でもファンはそれを望んでいないと思うんだ。いつまでも初心を忘れることなく素朴さを大切にすること。それから…ええと…自分こそが一番輝いているってことを人々に見せつけること」一見矛盾しているように見える発言だけどその、ひらの言いたいことはよく分かる。私達5人はいつも一緒だ。どんな辛い時、苦しい時にもお互いを分かち合ってきた。何も言葉を発しなくても全てをお見通しだ。大人しくしていると、『どうしたの?なんか悩みあるの?』って聞いてくる。とても居心地が良くてちょうど良いぬるま湯に浸かっているような感覚だ。だから自分が悩んだりしても、その問題を解決する為に相談して依り頼むことができる。それはとても凄いことだと思う。僅かな綻(ほころ)びから大きな広がりが起きてしまう。私達の絆は常にそんな傷を恐れてしまうことがなくて、結束してどんな物事にでも対処している。
私達はささやかな、でもとても意義のある打ち上げを終えて家路につく。一人で道路脇の歩道を歩いているとこの先には私の住んでいる家ではなく、何処か遥か遠く見果てぬ地域へと繋がっている、そんな思いが浮かんできた。それはある意味真実だろう。私が今ある場所は全ての世界に通じているからだ。自由にどこでも行けるわけだけど、それには時間と金銭が関わってくる。でも私はこの街が大好きだし、こうして夜の街路を一人静かに歩くこと、それはまるで黙想を促すようだったし、何十年後もこのなんでもない道のことを忘れることはないだろう。今の時代、私達は様々なツールを通して世間の情報を得ることができている。でも人はそのことによって本当の幸せを得ることができているだろうか?私はむしろ情報の氾濫によって惑わされているんじゃないかと思う。みんな自分なりに一生懸命生きているんだと思う。けど、その歯車が空回りしているように感じるんだ。私も同じだ。みんな井の中の蛙で必死になって井戸から抜け出そうとしているけど結局そこから解放されることはない。だから私達は謙虚になる必要がある。そうして初めて私達は鳥のように飛翔して眼下を見下ろすことができるのではないだろうか。
あー、でもなんだか最高に幸せだな。こうして生きているだけで充実感がある。高望みしないで今の自分を応援したくなる。もちろんがっくりすることもあるし、私何やってるんだろ?みたいに自分の心の動機を疑ったりすることもある。でもこうして親友がたくさんいて、自分の悩みとかを親身になって対処してくれているから私はどんな苦しみをも乗り越えていけるだけの余裕があるんだ。そのことには本当に感謝しかない。大切なのはお金をたくさんもっていることでも高級なものを所有することでもないと分かった。だってそういう人達の表情を見ると、とても幸せそうではないから。真の幸福とはいかに富んでいるかではない。矢沢永吉もYou Tubeで言っていた。別に彼のファンじゃないけど。でもこの先、私達はますます精錬されていって、これから幸福な人と不幸せな人に分かれていくのではないかと思う。私の心は絶対に敏感に正邪を判断して最終的には掌(てのひら)に僅かなばかりの純良な水をすくい、口元によせてゴクゴクと味わって満たされることだ。世界中の人が真摯に幸福を求めているにもかかわらず、それを見出していない。でも、きっと身近なところにそれは落ちているのかもしれないし、自分の内面を正直に見つめることによって、意外と簡単に見つかるのかもしれない。私はまだ高校生だけど自分の心の空白を埋める為にアイドル活動がとても重要な要素となっていて、これから何歳まで、その活動をしていくことができるのかわからないけど、自分を燃焼しつくして、みんなに喜んで、楽しんでもらいたい。
マイホームに帰ると二階の自分の部屋でソファーに座る。天井を見つめて今日のライブの様子を反芻(はんすう)して満たされた思いに漬かる。歌詞を間違えたりはしなかったし、ファンのみんなとアイコンタクトしてほんと、心と脳がジーンときて、最高の気分だった。
「アイカ、降りておいで」お母さんの声がした。私は返事をしてソファーから立ち上がった。階段を降りて居間に入ると父と母が微笑んでいた。
「今日のライブ、どうだった?」母がワイングラスを片手に持って言った。
「うん、最高だったよ。みんな楽しんでくれたと思う」
「そうか、それは良かったな。お父さんも見に行けば良かった。体は疲れてないかい?」
「ううん、大丈夫。ファンからエネルギーを貰ったから。打ち上げをしたんだけど、なんかこのままこんなに幸せでいいんだろうかって思ったの」私は本当に怖かった。これから先、こんなに順調で良いのだろうか?幸せだからこそ、この先に待っている、見えない将来が霞(かすみ)がかって覆い尽くすような感じで心を塞いだ。でも、私には両親という強い味方がいるし、メンバーの子達がどんな悩みがあっても相談にのってくれる。この世界には70億人以上の人がいて、いろんな考え、思想、趣味、愛する家族がいて生きている。でも私達がお互いに理解し、交友を持てるのは僅かの人たちだ。その出会いというのはとても貴重で尊いものなのだ。
「アイカはほんと人に恵まれていると思うよ。私達夫婦にとってもアイカの存在っていうのは、なんて言ったらいいのかな?まるで貴重な天然記念物の動物を飼っているみたい。それほどあなたは私達にかけがえのない、命の大切さを教えてくれた」母は私に近づいて両腕を私の肩に置き、優しく揉んだ。それがとても気持ちくて睡魔に襲われそうになった。
「お父さん、お母さん、私今とっても幸せで充実しているんだ。これからも、継続してこの幸福感を持続できるのか、時に心配になることがあるの。もっと、今以上に、自分の生きる道を歩むことができるのか、自分で敷いた線路を創り出していけるのか、それとももっと素晴らしい誰かが作った線路を見つけ出せるのか、これから探索していかなければならない」
「大切なことは結果というより、その過程でいかに努力して頑張っているかということ。私達がアイカに求めていることは、苦しんで苦しんで、正しいことがまかり通らないときにも誠実に歩めるようにすること。非難を浴びたり馬鹿にされたりしても、言い訳がましいことを言わずに、押し黙って忍耐すること。それってあまりできることではないよね。でも、我慢していれば、分かってくれる人がいると思うし、そうでなくても自分の心の経験値がレベルアップする。大切なのは自分たちの権限外で行われる何か目に見えない誰かが介入してくれるということを信じることなんじゃないかな。私偉そうなこと言うけど…」母の気持ちがまるで遠赤外線のような暖かさで伝わってくる。父はそんな母の様子を見て愛情のこもった視線で眺めている。2人の仲はとても良好で深い絆で結ばれている。両親の温かな関係というのは、子供に強い影響を与える。今の世の中、家族がバラバラでその影響でもつれが生じて、その結果社会にも不均衡が起こっていると思う。現代社会ではいろんな問題があってそれらを解決することはなかなか難しいし、そのことを指摘してくれる隣人がそもそもいない。だからこそ、この時代には人々を牽引する役割を持つ人の存在が求められるのだ。でも、結局、マスメディアなので活躍している人達は自分の生活を富ます為に活躍しているに過ぎない。自分を犠牲にしてまで人々の生活を向上させようという気概は無いのだ。
ここのところ、世間に対して疑問に思っていること、改善してほしいことがたくさんあって、自分自身混乱したり、焦ってしまうことが多い。それも仕方がない気がするし、これから先、全て自分で問題を解決することはできないにしても、よく考えて自分なりの終着点にヒットすればいいと思う。社会にはいろんな考え方、思想、メディアがあるからそう簡単には答えを見つけ出すことはできない。でも時間がかかっても、しらみつぶしに当たっていくことが必要なのかもしれない。
夜の静かな気配がなんとも心地良い。私は自分の呼吸に意識を集中してこれからどんな人生を歩んでいくのかを考えた。いっぱい悩んで苦しんで、でもそれらを乗り越えようと努力するだろう。いろんな経験をして、学んで、お父さんとお母さんのように人間的に円熟した大人になりたい。そうだ、自分が様々な苦悩を招いた時には両親という強い味方がいる。ふたりは私にとって先生のようなものだ。いつも進路を真っ直ぐに進むように導いてくれる。でもなかには自分で親に頼らずに自ら歩むべき道を探せよ!っていう人もいるかもしれない。それも一理ある。私は時にブレることがあって親に対して文句を言いたくなることもある。でもそこを忍んで従順さを身に付けるなら、大切なことを学ぶことができると思うんだ。もちろん親だって人間なんだから間違うこともある。そこを辛抱することによって忍耐力や自制心を得ることができて、将来に待ち構えている試練を忍耐することができると思う。私は自分の頭を使って物事の内面に潜んでいる真実を明らかにすること、周りに見られる事象を取り入れて啓発を得ること、その大切さを受けとめたい。
私は今日のライブ公演の動画をテレビで視聴することにした。実際に自分たちの演じたチームを俯瞰(ふかん)して見ることができる。グループで演じる時には協調性が必要になってくる。一人だけ不協和音を出すとたちまちバランスが崩れてしまうのだ。仲間のダンスと共にファンの熱い声援が一体となって会場全体のボルテージが上がっていく。チームのみんなは喜びでいっぱいで天空を飛翔しているような表情を浮かべている。そんな流れでライブを視聴していると、私はこの現実を受け容れることがいささか不思議に思う。本当にこれは私なのだろうか?たまに自分の姿を鏡で見ると、はるか遠くの銀河にいるそっくりな私だと感じることがある。唇を開けば向こうも唇を開く。目を閉じれば向こうも閉じる。でも心の状態はどうだろう?自分の内に喜びが生じれば、鏡の中の自分は喜んでいるのだろうか?それが分からない。所詮、鏡は鏡だ。物体を映す道具に過ぎない。
私は2階の自分の部屋に戻り、ベッドに横になった。なんとも満たされた気分。微かな闇夜の漂うような空気の音が鼓膜を震わせる。孤独であることがこんなにも落ち着いた気分にさせるとは。明日が自分の目の前に広がっていること、将来が輝かしく、きらめいていて、彩り豊かで虹のような光彩を放っていることに希望を抱いた。

目覚めて一階の居間で食卓についた。母が皿に食パン2枚をのせて私の前に置く。それからスクランブルエッグとベーコン。お腹がペコペコだ。お父さんは新聞を読みながら大好きなコーヒーを飲んでいる。この何気ない日常がとても幸せだと思う。私もいつか愛する人を見つけて、こんなに風景を実感することがあるのだろうか。でも今は歌を通してみんなを幸せにすることが第一の目標だ。私の心と頭の中には昨日のような満ち足りた気持ちが渦巻いている。なんて最高なんだろう。日々、訓練や鍛錬を自分に課して昨日よりも今日、今日よりも明日といったふうに成長できるように前を向いて進む。あまり小難しいことは言わないほうがいいけど、でも、自分の内面を磨くには哲学的思考も大切だ。どうしたらもっと自分の経験値を、レベルを高めていけるのか、そこには恋愛が関係しているのか、人を愛すること、自分以外の人を、つまり自己犠牲的な精神を持っていたわることができるのか、それは何故、重要なのか、まだ私にはそのことが分からない。今はアイドルとして恋愛というものに方向が向いていなくて、同じグループの仲間との関係を重視している。勉強も頑張らなければいけないけど、授業中、頭の中にあるのはファンの前で踊る自分たちの姿だ。とても恍惚的で最高に幸せで楽しい。
食事を終えると鏡で全身を見る。制服姿はあまり好きではない。やっぱり歌うときの衣装を着て毎日を過ごしたい。私達のコンセプトは和服に起源がある。どちらかというと、アイドルグループの私立恵比寿中学の衣装に近い。将来、武道館でライブができたら最高だろうな。そんな高いレベルのことを考えて妄想を膨らませている。私には分かる。絶対諦めなければ夢は叶うということを。これから先々いろんな問題にぶつかることが想定される。どうやっていけば乗り越えられるだろう。仲間とスクラムを組んでお互い思ったことを率直に話し合う。
私はけっこう真剣に哲学的なことを考えることがある。それで真理を、本当の幸福を享受できるかは分からない。まして私は十六歳に過ぎない。大人から言わせれば、まだ乳臭い少女だ。でも若くして探究心があるということは武器でもあると思うし、思索的な性格は意外と友達にウケるのだ。いろいろと人生相談にのったりされて、どうすれば自分を見失わずに航路を歩むことができるか、そんなことをクラスメイトと話したりする。それが楽しみでもあるのだ。
朝食を食べ終わって私が住んでいる西宮の沢から発寒高校まで、自転車で走る。私の在席しているこの発寒高校は私服での登校が許されている。至って偏差値は良くもなく悪くもなく。でも自由な校風でなにかに縛られているという感じはない。インターネットでの授業も認められていて、私も一週間のうち4日は自宅での授業をしている。登校するのは週一だ。その中で私は読書をするのが大好きで、本に囲まれていることでとても落ち着いた気分になる。



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