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準備


 椅子の背もたれにだらしなくのしかかり、くつろいでいる状態で手を股の間に入れ、指と指の隙間に片手の指を挟み手を組んでいた。そんな力を感じられない大原だが脳はきちんと働いており、今後の計画をどうするか考えていた。

(あぁ、早く彼女の幸せが見たい..しかし....どうやるべきだ?)

 一生懸命考える中で脳内に過去の思い出が蘇る。あまり思い出したくない記憶が。



 脳内では今までの見てきた記憶と背景を背に、しなやかな長い黒髪の女性が後ろ姿で見える。



 大原はその姿を見つめる。自分の失敗のせいで一つの幸せ失われた事に強く責任を感じていて、胸が苦しくなり目が赤くなる、でも涙までは出ないという何とも複雑の感情で胸が痛くなる。それとは裏腹に口元の端は何故か上に吊り上がっていた。

(....失敗は繰り返さない)

そう決意を固めると女性は消えていく。どうやら大原の考えは定まった様だ。





 人、人外、ある程度の知能がある生き物は自身の身に危険を感じた時、必ず救いを求める。もし仮に、何かしらの出来事で救われた者が居るとしよう、その時救ってくれた相手に対してどう思うだろうか。そう、感謝をし好意的になるだろう。





 今だからこそ出来そうな作戦が一つだけある、この世界に来なければ実行は出来ないであろう事が。

大原は今まで沢山の事をやってきた、でも元の世界ではただの人間、限度というものがある。だが今は違う。

 成功するかは分からない。しかし、実績はある。余計な事をしたかと思っていたが、まさかこんな考えが浮かび上がるのはあいつらのおかげと言う事に複雑な気持ちになるが大原は椅子から立ち上がる。



「幸せを見せてくれ」

 徐々に部屋が真っ暗になり、孤独な声が部屋に響き優しい手つきで小指を触る。









 明るい日差しを浴びながら一人の男は目的地まで歩いていた。空に向かってコインを親指で弾き、落下してきたコインをキャッチする。そんなコイントスみたいな事をしていると広く大きめの柵に囲まれた場所が見えてきた。

 男は柵の入口に立ちコイントスを止める。柵の中には複数の建物が乱雑に建っており、工場やらただの家が見える。ここが男が目指していた目的地で男はゆっくりと中に入ろうとすると前から誰かが走って来るのが見えた。ため息混じりの息を吐きながら男は首を振り、乱暴に走って来る人物を待った。



「はぁ、ボスゥ! 何処行ってたんですかぁ!!」

 甲高い声で目をギラつかせながら、ボスの胸元まで近づく。乱暴に走ったせいで髪はボサボサになっていた。



「仕事だ」

っと言った後、目の前のボサ髪女性が何か言おうとするのに気づき手の平を見せて止める。そして説明口調で喋る。

「大丈夫だ。護衛が要らないぐらい安全な場所だっだからカレンを連れて行く必要が無かった。これでどうだ?」

顎に手を当て、微笑みカレンを見る。



「ダメです! どんな時でも私が、ボスを守れるよう側に居ないとダメなんです!」

 握り拳を作り、頭を強く振る。それはまるで子供が駄々を捏ねるかのように。



 困り顔の男はカレンの顔を見ると恥ずかしかったのかその顔は少し赤くなっていた。それが可哀想っと思ったのか分からないが、男は口角を上げやれやれっと言った表情をし、カレンの肩に優しく手を置く。



「悪かった....次からはちゃんと呼ぶからさ、何せ俺様の可愛い子分だからな!」



「可愛いって言えば許されると思っているんですか!? もう今回という今回はぜっっったいに許しません!」

 カレンの肩に置かれていた男の手を両手でぎっちりと握る。

「だから当分、側にいさせてもらいますからね!? トイレやお風呂、寝る時だって一緒です!」

何だか後半から早口になり、顔が更に真っ赤になる。



「おい~、それは流石に....」



「ダメです」

っと男の手を握り潰すぐらいの力で握る。



「イテテテ」



 二人がそんな事をやっていると男が帰って来た方角から別の人物達がこちらに向かってくるのがカレンには見えた。しかも気付かないうちにかなり近づいて来ていて話し声すらも聞こえる。



 

「プリシリカちゃんいいかにやぁ~、あのバカの言う事は基本聞かなくていいから~」

 腰辺りに生えている尻尾をユラユラと揺らし、プリシリカに目線を合わせる。



「なにいぃ!?」

っとそれを聞いた一人が突然プリシリカの前に出て、両膝を地面につけプリシリカの両肩掴む。

「良く聞くんだプリシリカちゃん、こんな変態猫女みたいな奴になったらヤバい目で見られるから、可憐で美しい美女に育つんっすよ!」



「......」

 突然の出来事でプリシリカはびっくりしたのか何も言わずスッと目の前の人物から離れ、もう一人の人物の後ろに素早く隠れた。



「ハハ、バカよりあたいだよね~」

 そう言いながら尻尾の生えた人物は自身の後ろにいるプリシリカにあまりいい笑顔とは言えない不気味な笑顔を見せた。





 そんないやらしい顔が嫌だったのかプリシリカは離れ、柵で囲まれた場所の入口に走り去ってしまう。





「ああ~、ちょっと~!」

 情けない声がプリシリカの後ろから聞こえる。



 そんな声を無視し、プリシリカはドスっと結構いい勢いで入口に立っていた男の背にぶつかり服を両手で強く掴む。

 

 それに気が付いた男は顔だけを後ろに向けた。

「おお! びっくりした~」



 この時カレンは男の後ろに居る人物が誰だが分かっていたので仕方なく男の手を離していたが、男はそんな手を掴まれていた事ももう忘れ、プリシリカの方へと振り返る。



「どうしたプリシリカ? 何かあったのか?」

 何とも言えない顔になっているプリシリカを見て、心配になった男は自分と目が合うぐらいの高さまで抱っこをする。



「....」

 プリシリカは何も言わずに男の首元を抱きしめる。



「ハハ、そんな強く抱きしめられたら息が苦しいが、まあいいだろう」

 優しくプリシリカの頭をあやす様撫でる。



 撫でている最中に少し視線をずらすと二人、知っている人物が目の前に立っていた。



「お疲れ様っす! ボス!」

 腰が折れそうなぐらい深いお辞儀をする。



「にゃにゃ~ダイアーさっん~おっは~」

 手を軽く振り、気軽な挨拶をする。



「おいジュリー! 挨拶が軽すぎるぞ!」

 何故かお辞儀をしたままジュリーの方を向き、気迫の無い怒鳴り声を上げる。



「はいはい、うるさいうるさい」

 両手を使い両耳の穴を塞ぎ、適当に頷く。



 そんな適当な態度に腹がたったらしく、瞬時にお辞儀から元の姿勢に戻り、ジュリーに喝を入れようと近づこうとするが、それをカレンが止める。



「マイク! はしゃがないの。ジュリーも、あんまり態度が悪いとボスから何かしらのキツイお仕置きがあるわよ!」



 怒られた二人は同時にチラっとダイアーを見て何故かシュンと一気に落ち込む。



 その光景を見たダイアー高らかに笑う。

「ハッハ! 俺様がそんなキツイお仕置きをすると思うか?」

そう喋りながら、プリシリカの背をトントンっと軽く数回叩くと、首元から離れて行った。そして、ゆっくりと腰を曲げ、地面にプリシリカの足をつかせ、立たせる。

「よし! とりあえず中に入ろう、話はそれからだ」

隣に立ったプリシリカと手を繋ぎ、三人を見渡す。









 大きな建物の中に入っていったダイアー達は見回りを兼ねて、色々な場所を通過する。行く先々でダイアーの部下達と出会い皆、丁寧にあいさつをしていく中で今いる場所が作業所、ここはそこそこ大きな部屋で様々な道具、機会が置いてある。今は仕事の最中なので機械音で満ちている、どうやら今行っているのは鉄みたいな物を高温で溶かしてみたり、小さな穴を開けてみたりと何か作っている途中だった。



 それが何なのかは誰も知らない。だから気になったマイクは聞いてみる事にした。

「ボスここでは一体何を作ってんっすか?」



「ん? ああ、言ってなかったか」

 作業所を横切りながらダイアーはカッコつけて言う。

「英雄の復活..どうだ? カッコいいだろ」



「おお、英雄の復活! やっぱボスのやる事は計り知れねっす!」

 興奮したマイクの声が聞こえる。



「ハハ、そうだろう」

 そんな事を言われ、上機嫌に答えるダイアーは笑顔だった。



「ダイアーさっん、具体的には何を復活させるのにやぁ~」

 目をパチパチと瞬きをし、ジュリーはお色気を出すがどうやらダイヤーには効かなかったようだ。



「それは秘密だ」



「え~」



 たわいのない雑談をしているといつの間にか作業所を出る扉まで来ていて、先頭を歩いていたカレンが扉を開け、全員が作業所を出て行く。ここから後もう少しで目指している部屋に着くのだが、ジュリーが一人で別方向に歩き始めた。



「ジュリーどうした?」



「あたい、これから仕事なんだよね~」



「そうか、ちゃんとな」



「は~い、またね~プリシリカちゃん!」



 笑顔で手を振りながら去っていくジュリーをダイアー達が見送っていると突然何かを思い出したかの様な大声をマイクが出し、深刻そうに頭を抱える。



「うわああ、忘れてた! 怒られる~!!」

 急に猛ダッシュしだし、少し前に居たジュリーを颯爽と抜かしていく。



 あっという間にマイクの姿が見えなくなり、ダイアーとカレンは唖然としていたがとりあえず気にせずにちょっとした廊下を歩く。プリシリカとダイアーは手を繋ぎ、カレンの前を歩いていた。こんなにも微笑ましい事を目の前で見れるのはとても幸せなのだが、カレンにはずっと前から気になっている事があった。今がそれを聞くチャンスなのかと手に力を入れて考えるが、ここの廊下はそこまで長くないので、即決な決断が迫られる。



「あ、あの、ボス! 失礼かもしれませんが、その計画の資金源は一体何処からきているのですか?」

 先頭のダイアーの背を虚ろな目で見る。



「....カレンこの世でもっとも大事な物はなんだ?」



「え? え~..命、ですか?」



「ハハ! 確かにそれは大事だ。だか俺様にはもう一つ大事な物がある」

 ダイアーはその場で止まり、プリシリカとカレンはつられて止る。

「金だ。この計画には莫大な資金が当てられている、王様直々からな」

そう言い終えた後、ダイアーとプリンター再び歩き始めた。



 思っていた事と違い、カレンは安心し胸を下す。

(よかった。変な所との取引じゃなくって....何も変らない人で)

嬉しそうな顔で、ウキウキと小走りでダイアーに。

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