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第二十三話 「肉を斬らせて骨を断つ」

 ドカァァン!! ビルサの高速回転した脚での蹴りを、まともに食らったしゃらくが吹っ飛び、城壁に激突する。笑っているビルサを尻目に、ウンケイがコルゾと激しくぶつかり合っている。
 「・・・おいおい、大丈夫かよ」
 コルゾの攻撃を受けながら、ウンケイが飛ばされたしゃらくの方を見る。
 「他所見してる場合かぁ!?」
 ガキィン!! コルゾが猛然と刀を振るう。ウンケイは薙刀(なぎなた)で何とか受け止める。
 「・・・確かにそんな場合ではねぇな。忠告感謝するぜ」
 「ゲホッ! ・・・くそ!」
 壁に激突したしゃらくが片膝を着き、脇腹を抑えている。抑える手からは、ドクドクと血が(にじ)み出ている。
 「痛そうだな。だが言った筈だぜ。俺の能力は、“四肢(しし)”を硬化させ、回転させる力だと」
 ビルサがニヤニヤと笑いながら、しゃらくに近づく。しゃらくは、ビルサをキッと睨みつける。
 「そう抗うな。どうだ? 貴様がここで降伏し謝罪すれば、向こうの仲間も共に楽に死なせてやるぞ」
 すると、しゃらくがニヤリと笑う。
 「しゃらくせェ! 降伏なんてするか! 願い下げだ!」
 しゃらくがベェッと舌を出す。
「グフハハハ! そいつは良かった。痛みと恐怖に怯える貴様の面を拝みたかったんでなぁ!」
 ギュイィィン!! ビルサの両腕が、轟音(ごうおん)(とどろ)かせ高速回転する。しゃらくは、痛みで震えながらもゆっくりと立ち上がる。
 「グフハハハ。立ち上がるのでやっとのようだが?」
 「演技だぜ! てめェを油断させる為のなァ!」
 しゃらくはそう言って、震える膝を両手で叩く。
 「グフハハハァ! そうか! 貴様、千両役者(せんりょうやくしゃ)になれるぞ!」
 ビルサが大笑いする。
 「わァっはっはァ!」
 しゃらくも負けじと大笑いする。ガキィィィン!!! 瞬間、目にも止まらぬ速さで二人がぶつかる。
 ガキィィン!! 一方こちらでも、けたたましい音が響いている。ウンケイとコルゾが睨み合い、刃を振るっている。
 「ハハハハ! 楽しいなぁ!」
 「そうかよ。ならお楽しみのとこ悪いがな、長期戦に持ち込む気はねぇぞ」
 ギィィン!! するとコルゾが、ウンケイが降った薙刀を受けながら、後方へ飛んで距離を取る。
 「ハハハ。そうだな。俺もあまり遊んでいると、ビルサ様に怒られちまう。さっさと決着をつけようか」
 そう言うと、コルゾが刀をウンケイに向ける。そのままニヤリと笑うと、ヒュッと姿を消す。ウンケイが構える。
 「“鎌鼬牙(かまいたち)”ぃ!!」
 ガキィィン!!! すると、ウンケイが薙刀を振り、コルゾの目にも止まらぬ攻撃を弾く。
 「何!?」
 「同じ技を二度も食らうか」
 コルゾが驚き振り返ると、ウンケイが腰を落とし構えている。
 「次は俺の番だな」
 ビュッ! ウンケイが勢いよく跳び出す。するとコルゾは、只ならぬ殺気を感じ、急いで刀を構える。
 「“三日月(みかづき)”」
 ガギィィィン!!! ウンケイが薙刀を横に振り、コルゾがそれを受ける。しかしその威力凄まじく、すぐにコルゾは後方へ吹っ飛ばされる。コルゾは何とか着地するが、ウンケイの凄まじい一振りに驚愕(きょうがく)している。
 「へぇ。まともに受けて刃こぼれしねぇとは、良い刀だな」
 「・・・当たり前だ。この刀はビルサ様に造って頂いた名刀。鉄をも砕く鉱石で出来てんだ。刃こぼれなんてする(はず)がねぇだろ」
 膝を着いたままのコルゾに、ツカツカとウンケイが近づく。
 「なるほど。なら俺も、小刀でも造って貰うか」
 「・・・図に乗るなよ坊主! 貴様がビルサ様へ近づく事はねぇ!」
 コルゾが立ち上がり、刀をウンケイに向ける。
 「今度はどうだ? 防げるかぁ!?」
 ヒュッ! 再びコルゾが姿を消す。
 「ハハハハハァ!! 少し手こずったが、もう終いだ! 貴様には特別に、俺の最大の技で(ほうむ)ってやる!」
 「そいつはどうも」
 ウンケイが腰を落として薙刀を構える。シュシュシュシュ!! すると、コルゾが周囲を高速で移動し、その残像を残している。ウンケイは薙刀を握り締める。ガキィィン! 背後から向かって来た刃を、ウンケイが薙刀で防ぐ。ガキン! ガキン! ガガガガガガァ!!! 次々に、四方から高速で攻撃される。しかし、ウンケイもそれを何とか防ぐ。だが、その速すぎる斬撃に、少しづつ体が斬られていく。刹那(せつな)、ウンケイの頭上から殺気がする。それを感じたウンケイが見上げると同時、刀が振り下ろされる。
 「必殺! “鎌鼬落牙(いたちおとし)”!!」
 ズバァァァァ!!! ウンケイの左肩が斬られ、大量の血飛沫(ちしぶき)が吹き出す。
 「ハハハハハァァ!! 勝負あったなぁ!」
 ウンケイを斬り、ウンケイの(そば)に立っているコルゾが笑う。ガシ! するとコルゾの腕が大きな手に掴まれる。
 「何!!?」
 ウンケイが、斬られた左手でコルゾの腕を掴んでいる。
 「馬鹿な!! この腕は骨まで切り落とした筈だ!」
 コルゾが驚愕している。
 「悪いがこの骨、お前には()てねぇぞ」
 するとウンケイが、右手に持った薙刀を振りかぶる。
 「まずい!!」
 「“三日月(みかづき)”」
 ガギィィィン!!! コルゾが何とか腕を振り解き、両手で持った刀で受けるも、刀が折れる。ズバァァァ!!! そのままコルゾが胴の甲冑(かっちゅう)ごと斬られる。コルゾは後方へ吹っ飛び、白目を()いて気を失っている。
 「肉を斬らせて骨を()つってか。わはは。・・・いてて」
 ウンケイが斬られた左肩を抑えて笑う。
 「おいしゃらく! こっちは片付いたぞ!」
 ウンケイの声に、しゃらくがビルサから目を離さずニヤリと笑う。
 「あァ! 団子でも食って待っとけェ!」
 「いや、茶で十分だ」
 ウンケイもニヤリと笑い、バタリと寝転ぶ。一方ビルサは、眉を(ひそ)め険しい顔をしている。
 「使えぬゴミ共め」
 それを聞いたしゃらくも眉を顰める。
 「てめェ、大将の風上(かざかみ)にも置けねェな」
 「グフフ。ゴミに同情するか。何の役にも立たねぇ。貴様を殺した後で俺が始末してやる」
 ビルサがニヤリと笑う。すると、しゃらくもニヤリと笑う。
 「確信したぜ。この勝負、必ずおれが勝つ」
 しゃらくの言葉に、ビルサは首を(かし)げる。
 「分からんな。何故(なぜ)そう思えるのか。グフフ。おめでたい奴だ」
 「お前には一生分かんねェだろうな」
 しゃらくがニヤリと笑うと、ビルサに向かい勢いよく駆け出す。
 「何度向かってこようと同じだ」
 ビルサが両腕を回転させる。しゃらくが目の前まで来て、お互いがぶつかる寸前でしゃらくが姿を消す。
 「!!?」
 「“獣爪十文閃(じゅうもんせん)”!!!」
 ズバズバズバァァァ!!! しゃらくが一瞬でビルサの後ろにっ回っており、ビルサの体中が爪で切り裂かれる。
 「何!?」
 しかし、しゃらくは振り返ってすぐに構え直す。
 「・・・グフフフ。ほう。俺の(よろい)を攻撃して折れねぇとは、良い爪だな」
 ニヤリと笑いながら、ビルサがボロボロに切り裂かれた着物を破り捨てる。すると、その下に黒々と禍々(まがまが)しく輝く鎧が現れる。
 「これでも貴様に勝ち目があると言えるか? グフフフ」
 完

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