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想い


 二人がにらみ合う中、まず先に行動を起こしたのはエリオだった。まず一つの精霊を連絡用に飛ばし、他の精霊は鋭くなりエリオと同時に大原の体に向かって行く。



 大原は精霊で生じる変な空気の流れを感で感じ取り精霊をかわすが、やはり見えないので体の色々な箇所が擦り切れ少量の血が流れるが気にはせず、距離を縮め詰めてきたエリオに右手の短剣で首を狙い定めて反撃する。しかし、エリオの剣で軽々弾かれてしまった。それも予想よりも力強く、受け身を上手い事取れず勢いで上半身と右腕が少しのけ反る。だが大原は動揺する事も無く、弾く為に伸ばしたエリオの腕を見ていた。

 判断は一瞬でつく。左手の包丁でエリオの右腕目掛け刺しに行く。



(さぁ、どう出る....)



 意外な行動に、エリオは流石に不味いかっと思い大原が刺そうとしている腕の一部分に気力を使い、赤い精霊が腕を守る様瞬時に覆う。



 精霊に気付かないまま大原は包丁を腕の直前まで持って来たがいきなり手前で止まってしまう。何故手前で止まるのか、よくわからなかったが何だか異変に気付き左手の指先を見てみると少しずつ黒い軍手が燃え始めていた。ゆっくり火が燃え移っていく事に焦った大原はすぐさまにエリオから遠ざかり、急いで軍手を脱ぎ地面に投げ捨てた。軍手は床に叩き付けられ静かに燃えていく中、大原は左手を心配そうに見始めていた。その姿は明らかに動揺していた。



 火が周りに燃え移らないか心配していたエリオだが、大原がまさかそんなに焦ると思わなかったので少し心に余裕が出来て、調子づきからかう様に言い始める。

「ふっ、そんなに左手が大事なのか? 罪人」

 その瞬間、火の明かりで多少は明るくなるはずなのに、不気味な事に大原の顔は目以外何も見えなくなっていた。

 何かの魔法か? っとエリオは警戒する中、さっき出た余裕の心が全て掻き消え、その代わりに恐怖が芽生えてきて冷や汗が一滴頬を伝ってくるのがわかった。そして、今すぐにでも体が凍り付いてしまいそうな声が聞こえる。



「....お前今、瑠奈を殺そうとしたな?」



「....?」

 エリオは大原が何を言っているのか分からなかった。なぜなら、何処にも大原以外の人はいないからだ。

(ルナ? ..もしかして持っている包丁の名前か?)

そんな事を思い、心配そうに見ていた包丁に視線をやるが別の場所に視線が行く。

(..髪の毛?)

 エリオの背筋に鳥肌が立つ。そんな場面は無かったはずなのに。



 静かな戦いはまだ続いている。行動を起こさないでただ立って、何を考えているのか分から無い大原に対して更に恐怖、不気味さが増すが静かな時間はもう終わりを告げる。



 大原の安堵したため息が聞こえた瞬間、突如左手に持っていた包丁をエリオに勢いよく投げられた。左手の髪の毛に視線が奪われていたエリオは急な出来事にびっくりした。だがたった一本の包丁など容易に避けれるっと思っていたが、ここで余計な事を考えてしまう。

(ん? 待てよ。....こんな安易に包丁を投げるのか? いやでも、魔法を使っている動作は見えなかったし..)

 ほんの数十秒考えた後エリオは避ける事を止め、迫りくる包丁を難無くはじき返す事に成功した。だけど、視界に入っていたはずの大原がさっきまで居た場所にはもう誰も居なくなっていた。見ていたはずなのに音も無く、その場から一瞬んで消えたのだ。



「くっ! 逃げたか!」

 この時、エリオの背後に置いていた精霊が何かに反応した。すぐさまエリオは振り向き対応した。

剣を自分の体を守る様構えるが首元を掴まれるそれも人間とは思えない力で。



 エリオの首を絞めながら壁際に寄せ、徐々にエリオの体を浮かしていく。何も抵抗できないエリオに対して大原は顔を少し近づける。

「瑠奈に謝れよ....」

っと真顔で言い、更にエリオの顔に近づく。

「謝れ!」

 怒りに満ちた声が裏街道に響く。もう大原には周囲のことなどどうでもいいという考えだった。

 

 何とか呼吸が出来ていたが、苦しく一言も喋れずにいたエリオは今の状況を打開しなければっと考えていた。ギリギリ右手に剣をまだ持てている状態だったので、エリオは力を振り絞り大原の太もも目掛け突き刺す。見事避けられる事無く命中するが大原は微動だにしなかった。

 この事に焦りを覚え、剣を抜こうとするがもう既に剣を抜く程の力が出なかった。そして、エリオの身体の色々な場所から激痛が走る。



 大原が何をしているのか知りたくも無かったが視界に入ってしまう。右手の短剣で刺したり抜いたりを繰り返していた。だけど、殺す気が無いのかエリオの様子を見ながら大原は刺していた。

(この状況を楽しんでいるのかッ!?)

と考えていたが、もう時間が無い事が自身の身体からひしひしと伝わってくる。



 剣を使うことを諦め、エリオは緑の精霊をこれでもかという程大原の背中にぶつける。そうすると服はボロボロに破け、背中に無数の擦り傷が出来た。流石に効いたのか一瞬怯み首を絞めてる手の力が弱くなったがすぐ強くなり、エリオの腹部に短剣が刺さる。



 エリオの出血が徐々に酷くなっていく。

 もっと他の魔法を使うべきなのだろうがエリオは自身の魔法を詳しく知らない。何せ使う場面など中々無く、しかも特に興味が無かったからだ。戦闘体験何て無いに等しいし、あるとしたら部下の訓練ぐらいだろ。そんなエリオが何故副隊長なのかって? それはもちろん勉強を頑張ったというのもあるし、でも一番はメリネのお陰だろう。そんなこんなで副隊長になったエリオはソフィエルの側で仕事していく内にあのクソ真面目さに惚れていったのさ。..だけど、役職と力は比例しない。エリオは自身の魔法を知らな過ぎた。



 だから今知らない魔法を使うより、普段から使い慣れている魔法を使う事が一番いい事だと思っていた。その次の行動は緑の精霊を使い吹き飛ばすという判断になった。大原の腹部に大きめの精霊を送る。



 首を掴んでいる大原の腹部に突然強力な風が当たる。その風は本来なら人が勢いよく吹き飛ぶはずなのだが大原はうずいただけでその場からピクリとも動かなかった。この事に絶望したエリオは悔し泣き顔をしていた。



「....時間切れだ」

 その言葉が聞こえた後エリオの首が更に絞めつけられる。



 呼吸が出来なくなり苦しくなっていくエリオは足を必死に大原向けて蹴ったり、拳を作り貧弱な殴りをしたりと、したがそれは意味が無くただの無謀に過ぎなかった。



 身体の力が徐々に抜けていき、自分の死を覚悟するしかなかった。けど心は諦めていなかった。少しでも希望を残す為に。

(どうか、ねぇさん....)

っとバレない様慎重にネックレスの飾り部分だけを精霊で取り。

 視線は変えず、大原を一直線に見て注意を自分に向けさせる為必死にもがいているふりをしながらゆっくりと動かし見つからない場合に隠していく。エリオ自身でも何処に隠したか分からないが、なるべく見つからない場所へと移動させる..。等々視界が暗くなっていき、脳に酸素が届かなくなっていく状況が理解できた。

 ぼやけた視界の中、何故か大原の後ろにソフィエルの姿が見えた。そのお陰かエリオは微笑みが浮かぶ。

(あぁソフィエルさん、甘い物食べ過ぎちゃぁダメですよ......)







 ドサっと目の前に死体が転がる。

大原は本当に死んだか分からないので死体の瞳を覗き込む。気力を感じれなく死んだ事を確認できた。



「ふん....どうするか..。埋めるのもなぁ~」

っと考えていると突然フワフワと大原の周りに謎の玉が飛んでいた。



 大原は何かの胞子か? と思い手ではらうとまるでその場に無かったかの様に跡形もなく消えていった。

更に不思議な事にその玉は緑、赤、黒っと色々な色が空中に舞っていたのだ。

 それらを眺めていく大原はある一つの考えが浮かぶ。試しに緑の玉に集中し命令してみる。

そうすると落ちていた包丁が浮き、大原の元までフワフワと力なく飛んでくる。包丁を手に取り大原は思わず薄ら笑い浮いてしまう。



「そうか、俺は他者の魔法を奪う、魔法だったのか....!」

っと嬉しくなり空を見かげる。しかし、疑問が脳裏に流れる。

「..そうなると、俺が今まで幸せにしていった者達の魔法は一体どこに? ..リュエンは魔法を覚えていなかった....そうか、今まで俺は魔法を使う相手を避けていたんだ」

再び死体に視線をやる。

「ありがとう」



 時間が経ちすぎたか遠くから人の声が沢山聞こえてくる。恐らく援軍だろうと予想した大原は緑の精霊で死体を浮かし、建物の屋根へと飛んで行く。



 

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