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僕には幼い頃からよく一緒に遊んでいた女の子の友達がいる。

彼女と遊ぶ事が僕の日課になっていた。


彼女とはよく、森でかけっこをしたり、かくれんぼをしたり、魚釣りなどをして遊んだものだ。


それは彼女が自然の中で遊ぶことを好むからだ。


彼女は自然が大好きだった。


彼女は自然を大切にした。


中でも彼女は花を大切にしていた。


例えば、枯れかけている花があると毎日毎日懲りずに水をやり、綺麗な花が咲くまでに回復させたり、雨が降ったあとなどには森中の花を見て周り、土を盛って倒れないようにしてあげたりしていた。


だが、彼女は森から外には出なかった。

彼女と遊ぶときは決まって森の中だけだった。


僕は小学校に入学した。

僕は同じ年頃であろう彼女も自分と同じ学校に通うとばかり思っていた。

ところが、彼女は小学校にはこなかった。


僕は学校帰りに彼女のいる森へ遊びに行くのが日課になった。


昼間は学校で学び夕方、家に帰る前に彼女と森で遊ぶことを楽しみにしていた。


学校や勉強になれた頃、僕には同級生の友達が数人できた。


ある日僕は彼女に『明日は学校の友達と遊ぶからこれないや』と伝えると彼女は寂しそうに俯いているだけだった。


僕は一度も彼女の声を聞いたことがない。

彼女は一度も僕に話してくれたことは無い。

だが、僕は彼女の言っていることがわかる気がした。

いや、彼女の声を聞いた気でいた。


僕は学校の友達に森にいる彼女のことを話すと、誰も彼女を見たことがないと言った。


僕は次の日、学校のクラスメイトを連れて彼女のいる森へ出かけた。


だが、彼女はいなかった。

僕は毎日毎日学校帰りに友達を連れて森へ出かけた。


初めは20人近くいたクラスメイト達が、少しづつ減っていき5日目になった今日にはとうとう僕一人になっていた。


僕は学校でいじめられるようになった。


『あいつは嘘つきだ』

『あいつは変わり者だ』

『あいつはおかしい』


みんな口ぐちに僕のことを悪くいう。


それでも僕は気にせずにいた。


それでも僕は、1人彼女のいる森へと足を運び続けた。


僕が1人の時には彼女は必ず姿を見せてくれていつもと変わらずに楽しげにしていた。


数年がたち、僕は中学生になった。

中学へ入っても僕の悪い噂はすぐに広がり僕は相変わらず1人だった。

彼女は中学校にもこなかった。


僕は家の事情が何がで彼女が学校に通えないことを悟り、学校で習ったことを彼女に教えることにした。


彼女は僕が教えたことを覚えて言った。

だが、一言も言葉を発することはなかった。


それでも意思の疎通ができていたので僕は何も気にしたことはなかった。


それから数年経って僕は念願の公立高校に入学することが出来た。


僕は相変わらず1人も友達ができないまま学校生活を送った。

放課後、彼女に勉強を教えるという日課を続けるために僕は部活動にも入らなかった。


幼い頃からずっと一緒にいる彼女のことを僕は次第に『友達』としてだけではなく『女性』としてみるようになっていた。


学校にいるどの女子よりも整った顔立ち。

長く綺麗な黒髪。

背丈は低く、小柄だが、またそれがとても可愛らしい。

下から見上げられた時の透き通るような瞳に思わず見とれてしまう。


いつの間にか僕は彼女を好きになっていた。


それから僕は彼女にプレゼントを送った。


プレゼントと言ってもそんな大層なものではなく、彼女の好きそうな花がのっている写真集だとか、可愛い帽子だとかを、毎月少しお小遣いを貯めてプレゼントした。


その度に彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。

中でも図鑑を気に入ってるらしく、いつも片手に持っていた。


それから数年経ち、僕は就職し安定した収入を得られるようになったので思い切って彼女に告白した。


だが、彼女は困ったように僕の目を見つめるだけだった。


僕は諦めず毎日毎日、彼女の元へ通い続けた。


だが、ある日を栄えに彼女は体調を崩す日が増え、森を訪ねても会えない日が増えて行った。


それでも僕は懲りずに森へ通い続けた。


森に行っても5日間会えない日が続いたので、その次の日僕は休暇をとって朝から森へ出かけた。


昼過ぎまで彼女を探して広い森を歩き回ったところで僕は足元に彼女がいつも髪に飾りにしていた花を見つけた。


その花は変わった花だった。

稲の穂先のように垂れ下がった白色の花だった。


僕は落ちていたその花を追って森の奥へと入っていった。


しばらく進むとそこには竹林が広がっていた。


竹林の中心部に枯れかけている竹があった。


僕は不思議とここに彼女がいる気がして枯れている竹の方へ足を踏み出した。


するとそこには弱りきった彼女が横たわっており、彼女は僕の姿を見た途端に静かに泣き出した。


いつも明るく元気だった彼女が泣いているところを見たのは初めてだった。


彼女は泣きながら僕に封筒を渡してきた。

僕は彼女から封筒を受け取り静かに開けた。


その中には手紙が入っていた。


初めて見る彼女の言葉。

初めて知る彼女の気持ち。


僕は手紙を読んだ。


『𓏸𓏸君


この手紙を読んでいる頃にはあなたは私の正体に気づいてしまったことでしょう。

私と沢山の時を過ごしてくれてありがとうございます。

私はあなたに沢山のことを学びました。

でも、私はあなたになにもしてあげることが出来ずにごめんなさい。

お返事するのが遅れてしまってごめんなさい。

私はあなたと共に過ごすことは出来ないのです。


私の寿命はもうすぐ尽きるのです。


もっと早くにこのことを伝えておくべきでしたね。

でも、私はあなたと少しでも長く過ごしたかったのです。


あなたと共に過ごせて私は幸せです。

私の望みはあなたに幸せになって欲しい。

どうか幸せになってください。』


手紙を読み終えた頃には僕は涙が止まらなくなっていた。

弱々しく横たわる彼女を抱きしめその小さな唇にそっとキスをした。


彼女は幸せそうに微笑んだ。


淡い光が僕と彼女を包み、そして、彼女を奪い去っていった。


光が消えるとそこに彼女はいなかった。

彼女は跡形もなく消えていた。


だが、僕の足元に竹の花が落ちていた。

そこには確かに彼女の生きた証があった。



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