第53話「相棒」
警視庁に戻った焔火は、今日起きた出来事の全てを捜査一課長室で西園寺に話した。
「───なるほど……逮捕まであと一歩のところまでいけたのね」
「ああ、けど突然現れたドレッド野郎のせいで叶わなかったよ、無念、不甲斐ない」
焔火は非常に悔しそうな表情を浮かべながらそう言った。
「まぁしょうがないわ、そういう時だってあるわよ、あんまりクヨクヨしないで」
「そう言ってもらえると心が軽くなるよ」
西園寺に優しくなだめられた焔火は安堵の表情を浮かべた。そしてここで西園寺が焔火にある事を尋ねる。
「ねぇ焔火君、1人で刑事活動ってしんどいでしょう?」
「え?う、うん……まぁ……しんどいね」
「頼れる相棒の1人くらい欲しいでしょう?」
「う、うん……まぁ……欲しいね……いてくれたら色々と捗りそうだし」
「その言葉を待ってたわ」
西園寺は、そう言うと顔を部屋の角にあった茶色の扉に向けた。
「入ってきて!」
西園寺が、そう言うと扉がキィッと開いた。そして中からある人物が出てきた。
「ああ!!」
焔火は、出てきた人物を見て思わず声をあげた。なんと出てきたのは、焔火と同じ学校、同じクラス、隣の席の水咲姫麗水(みずさき れみ)であったのだ。
「れ、麗水……!!どうしてここに……!?」
焔火は驚愕の表情を浮かべながら彼女にそう尋ねた。
「西園寺さんにスカウトされた」
麗水はニコリと笑みを浮かべつつ、右手でピースをしながら焔火にそう答えた。
「スカウト……!?ど、どういう事だよ杏奈ちゃん!!」
焔火は、そう言いながら西園寺の方へと顔を向けた。すると彼女は答える。
「私が今日、火の玉高校まで行って彼女に協力をお願いしたのよ、そしたら即座に了承してくれたわ」
「ど、どうして麗水にお願いした訳!?」
「彼女の戦闘能力の高さを見込んでの事よ」
「戦闘能力?」
「ええ……焔火君、霧崎タカシって覚えてる?ほら、つい最近渋谷で連続バラバラ殺人を引き起こした凶悪ミュータントよ、最終的にアナタがブチのめした」
「ああ……いたねそんな奴」
「彼女は、その凶悪な霧崎タカシと戦闘をして深傷を負いながらも撃退に成功してるのよ、これは中々の戦闘能力だと思わない?それに聞くところによればアナタと普段から仲が良いみたいじゃない、だから相棒にうってつけだと思ったのよ」
「う、う~ん……なんだかな~……」
焔火が何やら不満気な様子でそう言うと、近くにいた麗水は彼にバッと羽交い締めをした。
「うわ!?な、何すんだよ!?」
「私と一緒じゃ不服?」
「い、いや……不服っつーかさ~……お前分かってんの?俺の相棒になるっつー事は、イカれた殺人ミュータント絡みの危険な事件の捜査をするって事なんだぜ?」
「うん、分かってるよ」
「……怖くないのかよ?」
「怖いよ」
「……じゃあ一体どうして俺と組もうなんて思ったんだよ?」
「……高校入って初めて出来た友達がこんな危ない事やってんのに自分だけ何もせずに平穏に過ごしてるなんて嫌だから……それに……焔火には入院中に色々とお世話になったからね……だから今度は私が焔火を手助けする番だって思ったんだ」
麗水はそう言いながらニコリと微笑んだ。
「麗水……」
焔火は麗水の言葉にジーンときていた。そしてそんな中で麗水は焔火への羽交い締めを解除した。
「……これからよろしく」
麗水は、そう言って焔火に右手を差し出した。
「…………ああ、こちらこそよろしく頼む」
そう言って焔火も右手を差し出し、2人は握手を交わした。そしてその様子を見ていた西園寺は満足そうに笑みを浮かべながらウンウンと頷いていた。
「2人共、これから相棒(パートナー)同士として仲良く頑張って頂戴ね」
「「ラジャー」」
焔火と麗水は西園寺に向かって敬礼ポーズを取った。そしてその後、焔火が西園寺に尋ねる。
「杏奈ちゃん、俺達これから何をすればいい?引き続き翡翠碧(ひすい みどり)の捜索をすればいい?」
「ええ、そうしてくれる?あ!あとそれから……多分捜索途中でまた街で殺人ゲームが起きると思うわ……その時は翡翠の捜索を一旦中止にして、そっちの方を優先して捜査してくれる?」
「うい、分かった」
「あとそれから最後に一応言っておくけど、2人共、不眠不休で刑事活動をしなくてもいいからね?自分達のタイミングでしっかりと休養を取って頂戴ね」
「うい、分かった、それじゃあ行こうぜ麗水」
「うん、それじゃあ西園寺さん、失礼します」
焔火と麗水は翡翠碧を捜索するべく、捜査一課長室から出ていった。