27.待ちぼうけ
それから朝日が昇っても、リックとリオルは応接室から出てくることは無かった。リレイヌ、睦月、アジェラ、それから馬車の操手は応接室の近くに椅子を持ってきて、それに座ってただふたりが出てくるのを待ち続ける。
時間が経ちすぎてみなが器用に椅子の上で寝ようとも、リレイヌだけはふたりが出てくるのを黙って待っていた。決して寝ようとしない彼女に、隣の椅子でウトウトと船を漕ぐ睦月が、心配そうな目を向ける。
「……なあ、リレイヌ」
「ん?」
「……お前さぁ」
何かを言いかける睦月。
と、そこで開かれる応接室へと続く扉。
寝ていたアジェラと操手が飛び起きるのを尻目、すぐさま椅子から立ち上がるリレイヌに、部屋から出てきたリオルは一瞬瞠目。すぐに困ったように笑みを零す。
「寝なかったのかい?」
「……」
「夜更かしはダメだろ? 女の子は特に、肌荒れとか気にするんだからさ。ちゃんと寝ておかないと大変だよ」
優しく、促すように告げれば、リレイヌは一拍の間の後に「ごめんなさい」と謝った。リオルはそれに頷き、「分かってくれたならいいんだ」と微笑む。
「それはそうと、睦月とアジェラまで徹夜とは……睦月はともかく、アジェラは仕事大丈夫なのかい?」
「がんばります……」
「……今日は休みな。みんなには僕が言っておくから」
「ありがとうございます……」、とアジェラは礼をひとつ。そのままウトウトと船を漕ぎだす彼に苦笑を浮かべ、リオルはその場にいる者を見回した。向けられる不安げな目が、少し心地悪い。
「……じい様と話さないといけないことがあるから、僕はこれで。リレイヌたちはひとまず一旦寝て、また起きたら話をしよう。──アジェラ」
「はい……」
「リピト家のご当主様とその部下を客室へ連れて行ってあげて。そしたら君はもう今日は寝てていいよ」
「えっ」
眠たげだったアジェラの顔色がサッと悪くなるのを無視し、リオルは「それじゃあ」と早足でその場を立ち去っていった。残された面々は自然と顔を見合せ、最終的に一足遅れて応接室から出てきたリックへと目を向ける。
「……なに?」
不満そうに一言。
告げるリックに、みんながみんな首を横に振るのだった。