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権力争い

 ナリアの元クラスメートであるアモンとの激闘を制した俺たちは疲労を取るため休憩していた
 近くの瓦礫に腰掛け、買ってきたアイテムなどで傷を癒やす


 ナリア「カズヤよくそんな傷で戦えたわね……」

 カズヤ「必死だったからさ」

 俺はアモンに体を斬られ怪我をしたが、傷跡が深くなかったので動きにそこまでの支障は無かった
 今はナリアが包帯を巻いてくれている
 出血は酷かったがカンちゃんが魔法をかけてくれたおかげで今は止まっている
 止血剤を買ってきた意味がなくなるけどカンちゃんの魔法は即効性が高い
 でも、カンちゃんがいつでも魔法で癒やしてくれるとは限らない
 寝てたらどうしようも出来ないからな。止血剤はちゃんと持っておこう


 ロイス「それにしても何も無いな」

 ケール「そうだね」

 ロイスが瓦礫に座って辺りを見渡しながらそう言った
 ケールも視線をあちこちに移動させながら返す
 改めて見ると本当に何も無い。荒廃した土地が無限に広がっているだけ
 時が止まってしまっているようだ


 ナリア「はい。これでとりあえずは大丈夫よ」

 カズヤ「ありがとう」

 ナリアが包帯を巻き終わったので俺は脱いでいた服を着る
 体を起こしてみても問題は無い。多少痛むけどこれくらいなら我慢出来る


 ロイス「大丈夫か?」

 カズヤ「うん。全然大丈夫」

 ナリア「我慢出来なかったら言いなさいよ。ロイスがおんぶするから」

 ケール「そうそう。ロイスがおんぶしてくれるから」
 
 ロイス「なんで俺なんだよ!!」

 ロイスがナリアとケールを交互に見てツッコむ
 確かにロイスにおぶってもらうのは安心感があるな
 安定してそう……って余計なことを考えてしまった
 自分の足で歩くんだ


 カズヤ「大丈夫だって。1人で歩けるよ」

 ロイス「カズヤもそう言ってるぞ」

 ナリア「もしもはロイスお願いね」

 ケール「僕とナリアじゃ厳しいから」

 ロイス「もしもの時は任せろ」

 優しさが身にしみる。頼りになる仲間だ
 でもその優しさにすがり過ぎるのは良くないからな
 出来ることは自分でやらないと

 
 ロイス「で、どこに行けばいいんだ?」

 ナリア「チェドリアの中心部はこっちよ」

 ロイスが首をかしげて言う
 ナリアが北東の方向を指差して言った
 ナリアがそのまま先導しようとする
 
 
 ケール「どこ行っても更地にしか見えないけど……」

 ナリア「中心部には王城があるわ。王城になら何かあるはずよ」

 カズヤ「王城なら目印になるね」

 先へ進もうとするナリアにケールが待ったをかけた
 ナリアが振り返り改めて北東の方向を指差した
 北東にナリアの言っている中心部があり王城があるのだろう
 王城になら何かあるかもしれないな

 
 ナリア「王城とは言っても原型をとどめていないけどね。かなりボロボロよ」

 ロイス「本当にそんなところに異世界についての本なんかあるのかよ」

 ナリア「私が異世界から人を呼び出す方法が書かれた本を拾ったのは王城だったわ。こんな更地に足を踏み入れる人なんかほとんどいないし、お宝目当てで来て異世界の本を拾ったとしても捨てるわよ」

 ロイス「確かにそうだな。異世界の本なんか見つけても拾わねぇよな。まずまず異世界なんてあるわけないって思うよな」

 ナリア「だから王城跡にいけば何かあるはずよ」

 ナリアが王城で異世界から人を呼び出す方法が書かれた本を拾ったなら他の本があってもおかしくないな
 チェドリアの王城にはお宝目当てで入り込んだ人がいるかもしれないが異世界の本に興味はいかないはずだ
 期待出来るな。過度な期待は良くないが、それでも頼みの綱がここしかないから大きな期待をしてしまう


 ケール「ボロボロなのに見つかるの?」

 ナリア「多少に片鱗は残ってるわ。それに私が王城のある場所は鮮明に覚えてる」

 ケール「鮮明に?」

 ナリア「えぇ。ずっーとウロウロしてた場所だもの。忘れるわけが無いわ」

 そういうナリアの顔は明るかったが瞳には悲しさが混じっていた
 忘れたくても忘れない、ナリアにとってトラウマになっているんだ
 ケールが余計なこと言うから。気になっても言うなよ
 ケールにそういうこと言っても無駄だけど


 ナリア「さぁ!行きましょ!」

 ナリアは元気よく声を出すと俺たちに背中を向けて歩き出した
 自分のせいで場が静まったから無理に明るくしてる
 ケール、お前のせいだ

 
 カズヤ「ケールが余計なこと言うから」

 ケール「え?僕なんかした?」

 ロイス「おかしいと思わねぇのかよ」

 ケール「えー?分かんないよ」

 ロイス「はぁ……」

 カズヤ「ダメだこりゃ……」

 ロイスと俺がナリアに聞こえないようにケールに気づくよう言ってもケールは首をかしげるだけだ
 やっぱ何言ってもダメだったかー
 

 ケール「ナリアが元気良いくらいしか分かんないよ」

 カズヤ・ロイス「「それだよ」」

 ケール「え?でも、元気良いのは良い事じゃん」

 カズヤ・ロイス「「あちゃー」」

 俺とロイスは同時に頭を抱える
 分かってると思ったら全然分かってなかったー
 思わせぶりだった。天然が過ぎる
 

 ケール「何がおかしいの?」

 俺とロイスはケールの言葉に大きくため息をついた
 度が過ぎる天然だ。わざとやってんのかって思うレベル
 これでパーティーの輪を乱していないのは奇跡と言える


 ――――――
 〜|災いの騎士《カタストロフィナイト》・チェドリア拠点〜


 「エリゴス様・バディン様、ご報告が!!」

 「なんだ?そんなに慌てて」

 ここは|災いの騎士《カタストロフィナイト》・チェドリア拠点
 豪華な内装の室内に幹部2人が長机を挟んで向かい合って座っていた
 バディンと呼ばれた男は白髪で左手にタトゥー、同じタトゥーが入ったイヤリングを右耳につけている男
 エリゴスと呼ばれた男は茶髪に左手と二の腕タトゥーが入っている
 にらみ合うように座っているところに下っ端が慌てた様子で駆け込んでくる
 パディンが下っ端の方に顔を向け表情を変えずに言う
 

 「アモン様が討たれました!!」

 「なんだと⁉それは本当なのか⁉」

 「は、はい……!!」

 バディンは下っ端の報告を聞くと席を立ち上がり下っ端へ詰め寄る
 下っ端の胸ぐらを右手で掴むと壁に押し付けた
 下っ端はバディンの気迫に押され恐縮し、体を小刻みに震わしている
 バディンの顔は下っ端が見たことないほど目が血走っている


 「やめとけよ。バディン。アモンが言ってただろパワハラは良くないって」

 「黙れ。今、事実確認をしてる最中だ。首を突っ込むな」

 「何度詰めたって同じことしか返ってこないだろ。この状況で嘘つくほど肝座ってねぇだろ、そいつ」

 エリゴスがバディンを嘲笑するように言う
 バディンはエリゴスの方を向き、突き刺すような視線を向ける
 エリゴスは視線に臆することなく言った
 バディンは冷静になり、下っ端の胸ぐらを離す
 下っ端は解放されても体を震わせたままだった


 「もう帰っていいぞ。バディンは俺がなんとかするから」

 エリゴスがそう言うと下っ端はバディンに頭を下げて早足で部屋を後にした
 バディンは下っ端の扉の閉める音が聞こえてから席についた
 席についたバディンの表情に余裕は無かった


 「困ったことになったなぁ。オロバス様は死んでこれから立ち直るぞって時にアモンも死んだ」

 「……全くだ」

 エリゴスは両手を頭の後ろで組んでのんきな様子で言った
 バディンはのんきな様子のエリゴスに殺意のこもった視線を向ける
 オロバスというのは|災いの騎士《カタストロフィナイト》・チェドリア拠点のトップです
 前の話でバエルに殺されたのはオロバスです


 「バエル様からの信頼も地に堕ちるってもんだ」

 「……何が言いたい」

 「お前じゃ組織のトップは務まらないってことだ」

 「何だと!!?」ドン!!

 エリゴスはのんきな様子から一転、冷酷に言い放った
 バディンはエリゴスの言葉に怒り、机を拳で思い切り叩く。衝撃で机にヒビが入る
 バディンの目は再び血走り、獲物を前にした|狩人《ハンター》のようであった
 今にもとびかかってきそうだというのにエリゴスは微動だにしない


 「もう結果が出てるじゃねぇか。オロバス様が死んですぐにお前が指揮を取ると言った。そして責任を持って立て直すと言った」

 「…………」

 「だが、どうだ?まず、オロバス様を殺した犯人を探し出すと言ってこの拠点の構成員を総動員して捜索してるのに犯人は未だに見つかってない。それでいて幹部を一人失った。得たものは無く組織を立て直していく上で重要な人間を失った。この状況でどうやって組織を立て直すんだ?責任を持って立て直すんじゃなかったのか?」

 「…………」

 バディンはエリゴスの言葉を黙って聞くしか無かった
 高々に責任を持って立て直すと言っておいてこのザマは指揮を取る人間の器ではない
 それはバディンも理解している
 

 「今のお前を誰が信頼出来る?お前は|人《・》|望《・》を失ったんだ。組織を操る上で大事な|人《・》|望《・》をな」

 「……なら貴様が指揮を取ると言うのか?」

 「これだけやらかしておいてまだ指揮取るなんて言うわけねぇよな?お前も分かってるだろ?引き際くらい。ケジメはつけろよ」

 「…………」

 バディンが懐疑的な視線を向けながら言う
 エリゴスはバディンを見て軽蔑するように口角を上げて言った
 バディンはエリゴスの表情に腹が立ったが言い返すことが出来なかった


 「この組織は俺が立て直す。組織のためにもな。お前だってそう思うだろ?|組織《自分のもの》を思うのはお互い様だよな?」

 「…………わかった」

 「クックックッ、お前は俺の言う事さえ聞いておけばいいんだ」

 バディンは歯を食いしばり反抗的な視線をエリゴスに向けるが首を縦に振るしかなかった
 エリゴスはその様を見て声を出して笑う


 「まずはアモンを殺したやつを見つけ出す。そこまで遠くにはいないはずだ」

 「見つけ出してどうする?」

 「万が一ってこともある。同胞になるというなら歓迎するが、そうでないなら殺せ」

 「オロバス様を殺したやつはどうするつもりだ?」

 「総動員して見つかってねぇならもう見つかんねぇよ。諦めだ」

 「何だと!!?落とし前をつけないと言うのか!!」

 バディンはエリゴスに口答えをする
 エリゴスはめんどくさそうにバディンを見る
 

 「時間の無駄になることをするつもりはない。それにアモンを殺したやつの落とし前をつける方が確実だ」

 「それで格好がつくとでも思っているのか?下の奴らが納得するとでも思うか?」

 「アモンを殺したやつがオロバス様も殺したって言えばいいだろ。それで済む」

 「なんだと!!?」

 バディンはエリゴスの口から出た発言に目を丸くした
 エリゴスは平然とした表情でいる
 

 「あのな、落とし前をつけるのは分かるがそれに躍起になってたら組織の立て直しなんか進むわけねぇだろ」

 「部下がいてこの組織は成り立ってる!!|人《・》|望《・》が大切だとお前も言っていただろ!!」

 「うるせぇな……お前はもう俺に指示出来る立場じゃねぇだろ。黙って言う事聞け。早くアモンを殺したやつを見つけてこい」

 「チッ……!!!」

 バディンが熱くなりエリゴスに楯突く
 エリゴスは熱くなっているバディンに呆れて手で払うようなジェスチャーをする
 バディンはエリゴスの態度に目を丸くし、怒りを覚えた
 だが、従うしかないため舌打ちをして部屋を出た
 扉の閉まる音が聞こえ、エリゴスは1人しかいない部屋であくどい笑みを浮かべた

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