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第1話「入学」

今から少し遠い未来……西暦2043年。
世界人口の4割の人間が遺伝子の突然変異により超能力を身に付けた"ミュータント"と呼ばれる存在となっており、日本では約7000人の人々がその様な存在となっていた。また、各地ではちょっぴりと一般人達によるミュータントへの差別や迫害があった。


「ハァ……!ハァ……!やっべ~!!一生の不覚!!」

黒のツーブロックヘアに前開けの短ランを着た15歳の少年の燈焔火(ともしび ほのか)は東京都渋谷区の路上を息を荒げながら全速力で駆けていた。それにはある理由があった。

「最悪だぜ!!()()()()()()()()するなんてよぉぉぉ!!」

ああ……昨夜遅くまでiPadで映画なんて観てなければアラーム通りに目を覚まして今頃は学校に到着してたんだろうなぁ……なんて後悔したところでどうにもならないのでただひたすらに腕を振って足を動かした。

「ハァ……!!ハァ……!!うお!?」

「うわっ!?」

焔火は道の角を曲がった所で何者かとぶつかり、その何者かはズシャッと地面に尻餅をついた。

「いたた……」

ぶつかった相手は黒髪ショートヘアに制服の上から黒のジッパー付きパーカーを着た高校生ぐらいの少女であった。

「ご、ごめん!急いでたもんで……ぬお!?」

焔火は少女を見て思わず声をあげた。なんと少女の両足は尻餅をついたはずみで大きく開かれており、汚れを知らぬ清純オーラを放った純白パンティがこんにちは状態であったのだ。

(マ……マジかよ!!)

焔火が鼻血を吹き出しながらパンティを凝視していると少女はそれに気が付き、頬を染めてすぐさま両手でパッと隠した。

「な、何見てんだよ変態!!」

「あ……!ご、ごめん!」

焔火が謝った刹那に少女はバッと立ち上がり彼の腹に渾身の右ストレートを放った。

「ぶぼぉ!!?……い、いぎなり何ずんだよぉ……!?」

「純情乙女のパンツを無料見(ただみ)した罰だバーカ!!」

少女は焔火に向けて右中指を突き立てたながらその場から走り去って行った。

「ひ、ひどくねぇ……!?たかがパンツ見ただけでこの仕打ちかよ……!!」

その後焔火は体をフラフラさせながらも懸命に学校へと向かった。


「────ふい~……着いた~」

焔火が辿り着いたのは芝生いっぱいの緑の地面が広がった広大な敷地の中にガラス張りの高層な建造物がいくつも建ち並んだ学校であった。

「ヒノコー……今日からここが俺の学舎か……」

ヒノコー……東京都立火の玉高等学校。都内有数のミュータントの教育や研究を行っているミュータントのための学校である。また、正門から見える時計台の上には学校のシンボルとも言える赤い火の玉のオブジェクトが置かれている。

「しっかしすげぇよな~……公立校だってのに馬鹿みたいに敷地が広くて馬鹿みたいに金かかってそうな施設がたくさんあるな~……っと!始業まであと1分しかねぇ!のんびり眺めてる場合じゃねえや!」

焔火は急いで昇降口に向かいそこに貼り出されていたクラス振り分け表を確認する。

「え~っと……俺は何組だ~……?……A組か!」

クラスが分かるとすぐさまそこへ向かった。そして扉の前に貼られていた座席表を確認してから中へと入った。

「よっこいせっと」

焔火は真ん中の列の一番後ろの席に座った。するとその数秒後に始業のチャイムが鳴り、前の扉からグレーの肩出し長袖ニットに白のミニスカートを履いた赤髪ショートヘアの20代くらいの綺麗な女性が入ってきた。

「は~い、おはようございま~す、席に着いてくださ~い」

女性が呼び掛けると立って友達とおしゃべりをしていた者達は皆自分の席へと戻った。

「え~、皆さん初めまして、そして入学おめでとうございます、私はこのクラスの担任になった早乙女雫(さおとめ しずく)といいます、よろしくお願いします」

「「「よろしくお願いしま~す!」」」

「フフフ、みんな元気があっていいわね~……あら……?1人来てないわね……」

早乙女は焔火の隣が空席である事に気が付いた。
するとその直後に後ろの扉から1人の女子生徒が息を荒げながら入ってきた。

「ハァ……!ハァ……!すいません!遅れました!」

「あ!良かった良かった~!お休みかと思ったわ~!」

(入学式に遅刻とは中々粋ですな~、どれどれご尊顔はっと……)

焔火は首を横に回して遅刻した女子生徒の顔を見た。そしてその瞬間に思わず席からバッと立ち上がった。

「あああああ!!!お前は今朝のパーカー少女!!!」

「げ!?あんたはパンツ無料見変態ノッポ!?」

なんという奇妙な巡り合わせだろうか。今朝ぶつかった2人は同じ学校、同じクラス、しかも隣の席同士だったのだ。

「お、お前……この学校だったんだな……」

「あ、あんたこそ……」

神妙な顔で見つめ合う2人。そんな2人に早乙女は言う。

「はいはい二人共、事情はよく分からないけどその辺して座りなさいな、他のみんなが困惑してるでしょ?」

「あ、す、すいません……」

「誠にごめんなさい」

2人は早乙女に申し訳なさそうに謝罪しつつ席へと座った。

「……さて、全員揃ったところで今日の流れを説明するわね、まずはこの後体育館へ移動して入学式を行います、そしてその後教室へと戻ってきて全員に軽い自己紹介と能力紹介をしてもらってその後は解散となります、ここまでで何か質問のある人がいたら挙手してください」

シーン

挙手する者は誰もいなかった。

「大丈夫そうね……じゃあ早速移動しましょうか」

その後生徒達は廊下に整列して体育館へと移動した。そして体育館に全クラスが集まったところで演台の前に謎のハゲたおっさんが出現。

「え~、初めまして、そして入学おめでとう、私はこの学校の校長の御手洗光宙(ぴかちゅう)だ、よろしくお願い致す……まず始めに言っておくが私は某マ◯ラタウンの少年とは一切関係ないのでよろしく頼むよ」

校長の軽い自己紹介が終わると生徒達はヒソヒソと話をし始める。

「あの顔で光宙か……」

「スーツのサイズおかしくない?ピッチピチじゃん」

「ていうかハゲてね?」

ピクッ

御手洗はハゲという言葉に反応。そしてハゲと言った生徒に顔を向けてニコリと笑って震え声で言い放つ。

「これはハゲではない、人よりちょっぴり毛量が少ないだけだよ」

(う……聞こえてたのか……)

(声震えてる……キレてんのかな?それとも悲しんでるのかな?)

(ていうか言うほどちょっぴりか?)

生徒達が若干困惑していると御手洗はハッと我に返った様な顔つきになった。

「すまない……余計な話をしてしまったね……え~……気を取り直して……いいかね君達、これから大事な話をするのでよく聞いていてくれ……」

御手洗がそう言うと生徒達は皆真剣な表情を浮かべて耳を傾ける。

「え~……君達は皆普通の人にはない特別な力を持っていると思う……また、それが原因で過去に心ない人々から差別や迫害を受けた者も中にはいるだろう……でもだからといって人や社会を憎み力を悪用しよう等とは考えないでくれ……むしろその逆、この先人々の役に立つ事の為に力を使って欲しい、平和のために、そして自分にとって大切な人達を守るためにね……これらの事を胸に秘めたうえでこの学園で自分の能力を磨き、明るく楽しい3年間を過ごしてもらって、思いやりのある優しい人間に育って欲しいと私は思っている……以上だ、ご静聴どうもありがとう」

校長の話が終わると入学式は終了となり全クラスは教室へと戻った。


「───じゃあ……戻ってきたところで早速自己紹介と……それから能力紹介を始めましょうか、じゃあまずは出席番号1番の人からお願いします」

A組の教室内にて担任の早乙女の指示で茶色ミディアムヘアの女子生徒が席から立ち上がって自己紹介を始める。

「え~っと、名前は藍沢南(あいざわ みなみ)です、出身は本能寺中学校、趣味は散歩、能力は"髪のコントロール"です」

自己紹介が終わると藍沢は自身の髪の毛をブワーッと伸ばして目の前に置かれていた机を掴んで持ち上げてみせた。

「「「おおおおお~」」」

クラスメイト達は彼女の能力に驚いた。

「フフン、ま、こんな感じ?ちなみに私の髪の毛、強度も半端ないんでマグナム弾くらいだったら簡単に弾けま~す、という訳で1年間よろしくお願いしま~す」

彼女は机を下ろし、髪の毛を元の長さへと戻して席へと座った。そしてその後は2番、3番、4番と後ろの番号の者達が順当に自己紹介をしていった。



「───津雲千秋(つくも ちあき)です、出身は安土中学校、趣味は読書、能力は"すり抜け"です、こんな感じです」

津雲という女子生徒は自身の前の席に座っていた生徒達をすり抜けながら前の教卓付近まで歩いて見せた。

「おお!?マジですり抜けた!」

「ほえ~……すごい……」

「シャ◯ウキャットみたいでかっこいいな~」

「えへへ……ありがとうございます」

津雲は照れ臭そうに笑いながら席へと戻っていった。

(次は俺の番か……)

津雲の後ろの席に座っていた焔火は彼女が席に着くのを確認するとキリッとした表情をしながら立ち上がった。

「え~……コホン……名前は燈焔火です、出身は戦極中学校、身長186cm、体重75kg、血液型はA型、誕生日は11月11日のポッキーの日、趣味は格闘技観戦、特技は料理、好きな食べ物はサンマの塩焼き、好きな異性のタイプは巨乳、能力は"発炎及び操作"です」

無駄に詳しい自己紹介が終わると焔火は右手から炎をボッと出し、それに加えてその炎で"入学おめでとう"という文字を作ってみせた。

「おおおお~メラメラ」

「ガス代節約出来そうで羨ましい……」

「イカすでござるな!!!」

「へへ!こんな事も出来ますよっと!!」

クラスメイト達からおだてられて調子に乗った焔火は
両手から火の玉を6つ生成してお手玉をし始めた。

「ほいほいほいほい……あっ!」

凡ミスで1つの火の玉を隣に座っていたパーカー少女の左肩に落とした。

「あっづぅぅぅぅぅ!!!」

叫ぶ少女。

「あああ!!!ごめぇぇぇん!!!」

慌てて肩から火を振り払う焔火。

「こ、このアホ!!私を焼き殺す気!?」

「マジでごめん!ホントごめん!」

焔火は申し訳なさそうに必死にヘコヘコする。

「……ったく……いいよもう……席座りなよ……」

「あい……すんません……」

焔火はシュンとした表情で席へと座った。

「ちょ……ちょっとはしゃぎすぎちゃったわね……
でもまぁ大事にはならなかったので良しとしましょう……それじゃあ次の人お願いします」

早乙女がそう言った直後に焔火は「あっ!」とした表情で席から立ち上がった。

「先生!伝え忘れた事がありました!」

「ん?何かしら燈君?」

「……俺の体の件です……先生は多分既に知ってると思うんですが……」

焔火に言われて早乙女は「あっ!」とした表情になる。

「ああ……!()()()ね……ごめんなさい、すっかり忘れてたわ……そうね……今この場でみんなに説明しておいた方がいいわね……それじゃあお願いします」

彼女がそう言うと焔火は頷き、短ランとシャツを脱いで上裸になった。すると教室内がザワついた。

「な……何あれ……!?」

「反社全開ですやん……」

「ひええ~」

焔火の裸体を見ながら愕然とした表情を浮かべていたクラスメイト達。なぜなら彼の体にはこれでもかというくらいに炎模様や漢字のタトゥーがびっしりと刻まれていたからだ。

「え~……皆さん……私は一族のしきたりでこの様に体中にお絵描きをしていますが決して反社の者ではないのでどうか仲良くしてください」

焔火はそう説明した後にクラスメイト達に向けて軽く一礼をした。

「合点承知」

「分かりますた」

「1年間仲良くやりましょうブラザー」

「俺新宿生まれ♪歌舞伎町育ち♪悪そうな奴は大体友達♪」

クラスメイト達はものの数秒で焔火を理解し、受け入れた。

(え……ええ人達や……)

焔火は彼等に感激しつつ服を着て席に座った。そしてその後は次の生徒達が順当に自己紹介していき、数分後に焔火の隣のパーカー少女の番がやってきた。

「え~、名前は水咲姫麗水(みずさき れみ)です、出身は撫子中学校です、趣味は水泳、好きな食べ物は水羊羹、能力は"水の放出及び操作"です」

そう言うと彼女は両手の平から水を噴水の様に出した。それもただ出す訳ではなく地面に落ちてビチャビチャにしないようコントロールしながら。

「ヒュ~、水も滴る良い女ね」

「あれは軟水なのか硬水なのか気になりますな」

「スタイリッシュ」

クラスメイト達はパチパチと拍手をしながら彼女を褒め称えた。

「ありがとうございま~す、1年間よろしくお願いしま~す」

紹介を終えて彼女は席へと座り、その後残る者達も順当に紹介を終えて最後は担任である早乙女が締めくくる。

「え~……皆さん、自己紹介ありがとうございました、それじゃあ最後に、朝にもしましたが改めて私も詳しく自己紹介させてもらいます、私の名前は早乙女雫、歳は26歳、担当教科は家庭科、趣味は映画鑑賞、好きな食べ物はカレーライス、能力は"テレパシーとサイコキネシス"です」

「テレパシー?サイコキネシス?」

ある1人の生徒が聞くと彼女は右手を正面へと向けた。すると突然生徒全員の机が宙に浮かび上がった。

「おわぁ!?」

「ひゃあ!?」

「すっご」

生徒達は皆目を丸くして驚いた。

(ウフフ、こんな感じです、というわけで皆さん1年間よろしくお願いしますね)

彼女はテレパシーを使って生徒達の脳内に直接語りかけた。

「「「!!!の、脳内に直接語りかけた!!!」」」

またも驚いた生徒達。そしてその後彼女は机をゆっくりと下ろし、生徒達に明日の予定を軽く説明した後にクラスを解散とさせた。



「───フンフフンフフーン」

鼻唄を歌いながら1階昇降口付近を歩いていた水咲姫。するとそこで後ろから何者かが声をかけてくる。

「な、なぁ……水咲姫……だよな?」

「ん?」

振り返ってみると先程自分を燃やそうとした長身タトゥーまみれ男が体をモジモジとさせながら申し訳なさそうな顔で立っていた。

「なんだ……あんたか……何?私に何の用?」

「……あの~……今朝とさっきはごめん……俺本当に悪気はなくて……」

焔火は彼女に向かって頭を下げた。

「……ああ……もういいってその件は……気にしてないよ」

彼女は穏やかそうな表情でそう答えた。

「え?ホント?怒ってないの?」

「うん……ていうか私の方こそごめん……朝殴ったりしちゃって……」

「いやいやあれしきの事気にしとらんですよ」

「本当に?なら良かった」

彼女がそう言った後に焔火は軽い笑みを浮かべて右手を前に差し出した。

「へへへ、そんじゃあ和解って事でいいかな?改めまして俺燈焔火、1年間よろしく」

「あ~い、よろしく」

水咲姫も手を差し出し、二人は軽く握手を交わした。

「へへ、んじゃ俺はこの辺で、それじゃまた明日」

焔火は軽く別れの言葉を言いその場から離れようとする。そして水咲姫はそんな彼を呼び止める。

「ねぇ、ちょっと待ってよ……」

「ん?」

焔火はその場に立ち止まって水咲姫の方へと振り返った。すると彼女は、やや恥ずかしげな表情を浮かべつつ両人差し指をモジモジとさせながら彼に向かって言った。

「……え~っとさ……こうして出会ったのも何かの縁だしさ……その~……友達に……ならない?」

「……え?俺と友達に?」

焔火は彼女の突然の言葉に若干戸惑いを見せた。

「……い、嫌?」

「え?い、いや……別に嫌じゃないよ……ていうかむしろ嬉しい……こんな俺と友達になろうとしてくれるなんて」

「え~っと……それってつまり……OKと受け取っていい感じ?」

「ああ、俺なんかでよければ」

焔火はニコリと笑いながら先程の様にまた彼女に向かって右手を差し出した。すると向こうも嬉しそうな表情をしながら右手を差し出した。

「えへへ、しくよろ~ん!」

「ああ、しくよろ」

また握手を交わした2人。すると水咲姫はその状態から腕を左右にブンブンと振った。

「お、おいおい……荒ぶり過ぎだろ」

「えへへん、なんかテンション上がっちゃた~ん」

「ハハハ、変な奴だなぁ」

「ウフフ、ねぇねぇ、ところでなんだけどさ、この後空いてる?」

「え?空いてるけど……何で?」

「私これから新宿に行くんだけどさ~、一緒に行こうよ」

「え?新宿?何しに?」

「ん~?そりゃあ色々……買い物したり何か食べたり……ね?いいでしょ?」

「うん、いいよ」

「フフフ、ノリ良いね、それじゃあレッツゴー」

そう言いながら水咲姫は焔火の背後に回って背中を押した。

しおり