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大型軍用機が曇り夜空を縫う。
 轟音と機体のランプ点滅が闇を照らす。
 両翼の二つのプロペラが忙しなく回る。
 機体の窓に雨粒が伝う。
 遠くで雷鳴が轟いた。
 
 コックピットでパイロットと副パイロットが操縦桿握りながら計器や航空機器を弄る。
「極秘夜間飛行だ。レーダーに気をつけろ」
 パイロットが両手で操縦桿を握りながら隣りの副パイロットに振り向く。
「分かってる。嵐が近づいてるな……」
 副パイロットも両手で操縦桿握りながら航空機器のレーダーを一瞥してコックピットの向こうに広がる黒い雲を見て呟いた。
「不味いな……このままだと嵐に突っ込む。飛行ルート変えるぞ。私は大佐と話してくる。後は頼む」
 パイロットも航空機器のレーダーを一瞥して航空ヘッドセット外して立ち上がり、彼は副パイロットの肩に手を置いて操縦室を出た。
 
 副パイロットが操縦桿を握りながら腕時計を見て腕時計のスイッチを押した。腕時計のデジタル数字がカウントダウンされる。
 副パイロットが不敵に笑い、彼は腕時計付けた腕を下ろして両手で操縦桿を握る。彼の細い黒サングラスが航空機器の光りで光る。彼の額に黒い十字架が浮かび上がり、彼のサングラスの奥に紅い瞳が映る。
 嘲笑うかのように遠くで雷鳴が轟いた。
 
 機内には両耳が立ち紅い眼と鋭い牙で顔がアーマーに覆われ、四本脚で肩と脹脛がアーマーに覆われ鋭い足爪、お腹もアーマーに覆われ背中に大きな二本の砲身、肩に小さな二本の砲身、お尻に二つのブースター、長い尾もアーマーに覆われ尾の上下が尖っている金属の大型の獣が肩と両脇腹に太いケーブルで大型装置に繋がれて異彩を放っている。

 機獣の周りで研究員達が大型装置を操作して大型装置の画面見て手持ちの書類にペンで書き込み、他の研究員達が椅子に座って机の端末にデータを打ち込んだり、左右の壁の大型モニターを見て立ち話している。
 
 軍服着た中年男が大型モニターの前でパイロットと立ち話している。中年男が彼の手持ちの端末を覗き込む。
「大佐、前方に大きな嵐です。私の予測ですが嵐の影響で電子機器故障により墜落する可能性があります。今飛行ルート修正中です」
 彼の端末画面に3D表示された黒い大きな嵐雲。
 彼の端末画面の黒い大きな嵐雲が渦を巻いて雷が光り、嵐雲を避けるように緑の線が伸びて線上を大型軍用機が進む。
「……厄介だな、燃料は?」
 大佐が顎に手をやってズボンに手を突っ込んで唸り、彼は軍帽を取った手で頭を掻いた。
「迂回するのでギリギリ持つかと」
 パイロットが端末画面を指でスライドさせて3D地図に切り替え二本指で地図を拡大縮小する。
「明日の軍事演習に間に合わせろ」
 大佐がズボンに手を突っ込んだまま軍帽を被り直しパイロットの肩に手を置いた。
「最善尽くします」
 パイロットが大佐に敬礼して重い足取りで操縦室に向かう。
 
(明日の軍事演習で我が國の軍事兵器を他国に見せつけねばならん。嵐如きプロトタイプを水の泡にさせてたまるか)
 大佐がズボンに手を突っ込んだまま不安そうに片手で頭を抱えて顔が曇って頭を振り、彼はパイロットの背中を見送った。大佐は胸ポケットからライターと葉巻を取り出して葉巻に火を点ける。
 
「我が國の軍事兵器、ようやくプロトタイプが完成した。我々はハンターと呼ぶべきか……」
 大佐が葉巻を吹かしながらライターを胸ポケットに入れて機獣の元に歩み、片手をズボンのポケットに突っ込んで機獣の顔を見上げてぼやく。
 
(そろそろか……)
 操縦室で副パイロットが腕時計を見るとカウントがゼロになり、操縦室が開いてパイロットが戻った。
「飛行ルート修正中か? デカい嵐に捕まりそうだな」
 パイロットが操縦席に座り航空ヘッドセットを付けて航空機器のレーダーを見る。
「時間が掛かる。長い夜になりそうだ」
 副パイロットが操縦桿を握りながらパイロットに振り向き不敵に笑う。
 
 機内の大型装置の裏に取り付けられた小さな装置が赤から緑に点灯した。その大型装置を操作していた男性研究員が画面に表示されたデータを見て驚愕し書類に書き込んでいたペンを床に落とした。彼は屈んでペンを拾い、眼鏡を人差し指で上げて大型装置の画面を見上げる。
「嘘だろ……」
 男性研究員が呟く。
「どうしたの?」
 男の側で大型装置を操作していた女性研究員が男に振り向く。
 
「大佐! 問題点が見つかりました! 明日の軍事演習でプロトタイプの人工知能制御不能となり暴走する可能性があります!」
 男性研究員が慌てて立ち上がり大型装置を操作して大佐に振り向く。
「どうなってるの? さっきまで数値は正常だったじゃない……」
 男の側の女性研究員が大型装置を操作している。
 
「何を言っているんだね君。プロトタイプは軍需産業に革命を齎すんだぞ。明日の軍事演習でウィリアム様に恥かかせる気かね? 何とかしたまえ」
 大佐が苛立って彼に振り向き、大佐が彼の元に歩み寄り靴の音が重く鳴る。
「上書きしていますが反応ありません。人工知能制御に欠陥があります。出発前は問題なかったのですが、こんな事初めてですよ」
 眼鏡の男性研究員が大型装置の画面に機獣の頭が赤く表示されているのを見て眼鏡を人差し指で上げて唸る。
「どうなっているんだね?」
 大佐が大型装置の画面を見つめ、葉巻を吹かして咥え直す。
「原因不明です」
 男の側で女性研究員が大型装置を操作して画面を見ている。
 
『大佐! 大きな嵐に巻き込まれました! 回避できません!』
 大佐のズボンのポケットからパイロットの雑音混じりの無線が入る。
「飛行ルートどうなってる! プロトタイプ運ぶのにどれだけ燃料いると思ってるんだ!」
 大佐が葉巻持つ手を変えてズボンのポケットから無線機を取り出して怒鳴り咽せた。
『予想以上に嵐が大きくて飛行ルート修正できません!』
 
 機体に大きな雷が落ち、振動で機体が大きく揺れて大佐と研究員達が体勢崩した。
 雷の電気が機体から機内の大型装置へと太いケーブル伝いに青白い電気が走り、機獣の身体が青白い電気に包まれ放電された。
 放電の影響で大型装置から火花散る。
 落雷で椅子から落ちて尻餅ついた女性研究員が机の端末画面を見て驚愕で口を両手で押さえた。
「大佐! 落雷の影響でプロトタイプ半起動しました! 次の落雷で完全起動になります!」
 彼女が慌てて立ち上がり机の端末を操作する。
「馬鹿な!? 急いでケーブル抜くんだ!」
 大佐が葉巻を床に叩きつけ靴で押し潰し機獣に振り向いて軍帽を取った手で頭を掻いた。
 研究員達が慌てて大型装置に繋がれた太いケーブルを抜こうとする。
 
 また機体に大きな雷が落ち、機体が大きく揺れて太いケーブルを持った研究員達が体勢崩す。
 また雷の電気が機体から機内の大型装置へと太いケーブル伝いに青白い電気が走り、太いケーブル持った研究員が感電して焼き焦げ皮膚が焼ける臭いがする。
 機獣の身体から青白い電磁パルスが発せられ、大型装置を操作していた研究員達が吹っ飛んだ。電磁パルスの影響で機体左翼のプロペラが一つ故障して炎と黒煙が上がり機体が揺れた。
 
『大佐! 電子機器故障です! 機体制御不能! このままだと墜落します!』
 大佐の無線機からパイロットの悲痛な声が聞こえる。
「そんなこと分かっている!」
 大佐は苛立って無線機を床に叩きつけた。
 
 機獣の眼が紅く光る。
 機獣が頭を振り、壁際に倒れている研究員に振り向いて吠えた。
「ひっ!」
 研究員が動く機獣を見て情けない声を上げ、機獣が吠えて研究員に突進するも後右肩の大型装置に繋がれた太いケーブルが張られ盛大に転けた。機獣が転けたまま足爪で床を掻いて暴れて唸る。機獣が吠えて前肩の砲身が回転して研究員を連射撃ち、床に弾痕と長い尾で大型装置を壊した。
 
「逃げろ! 殺されるぞ!」
「バックアップコードも駄目だ!」
「強制シャットダウンよ!」
 生き残った研究員達が机の端末を操作している。
「何て事だ。私はウィリアム様に合わせる顔がない……」
 大佐が両膝を床に突き、両手で頭を抱えた。
 
 機体が傾き、大佐と研究員が床を滑る。
 大佐は大型装置に掴まった。
 
 機獣は吠えて長い尾で後右肩の大型装置に繋がれた太いケーブルを切り、鋭い牙で前左肩の大型装置に繋がれた太いケーブルを噛みちぎった。
 機獣が床を滑る研究員に振り向いて吠えて跳躍し尾で研究員の胸を刺した。
 機獣が尾を抜くと流血した研究員が仰向けに床を滑る。機獣が吠えてまた跳躍して大佐の背中に前右足爪が食い込み、大佐の背中が血で滲む。
「す、素晴らしい兵器だ。早くウィリアム様に実戦データ渡さねば……」
 大佐が機内の監視カメラに目をやり額に汗が滲む。
 機獣が吠えて大佐の腕を噛みちぎる。
「やめろぉぉぉ!」
 大佐が苦痛の叫び声を上げる。
 機獣が大佐の腕を咥え投げて跳躍し壁に体当たりすると傾いた機内の床を滑り足爪が遊んで頭を振る。
 機獣が咆哮し背中の砲身が回転してキャノン砲が撃たれ機内後部に二つの穴が空いた。
 穴から雨風が侵入する。
 
 機内後部に空いた二つ穴に研究員や大型装置の部品が吸い込まれる。
 機獣が穴に吸い込まれまいと床に鋭い足爪を立て引っ掻く。
 
「最早ここまでか……」
 大佐は手を離し内ポケットから小さな自爆装置を取り出し機獣の横を過ぎ見上げて不敵に笑いスイッチを押した。
 機獣が爆発して機内に断末魔が響き、燃える機獣が後部ハッチに吸い込まれ引っかかる。
 燃え盛る機獣に雨粒が当たり蒸発する。
 大佐が穴に吸い込まれ宙に投げ出され雨風と雷に打たれた。

 操縦室で火災警告音が響く。
 パイロットが電子機器を操作し機内映像の後部ハッチに引っかかり燃える機獣を見る。
「故障で後部ハッチが開かない! 手動で開けるしかない! 火が広がれば燃料引火して空中爆発するぞ! 私は操縦する! お前が行け!」
 パイロットが電子機器を弄り副パイロットに振り向き怒鳴る。
「街を抜けたら森がある! まだ右翼は生きてるんだ! それまで持ち堪えろ!」
 副パイロットが航空ヘッドセットを外し席を立ち上がり操縦室の扉が開いた。
 吸い込まれそうな風で副パイロットが飛ばされて操縦室の扉が閉まる。
「キリカに墜落させない!」
 パイロットが操縦桿を上げる。
 機体の高度が下がり続け眼下に広がる港街。
 両翼の補助翼が動き機体の傾きが少し戻る。
 
 操縦室から飛ばされた副パイロットが機内の大型装置から垂れたコードに掴まる。
(早く脱出しないとな)
 強風で副パイロットの鬘が飛んで禿げ頭が露わになり額に黒い十字架が浮かび上がる。
『元同志よ! 私もレギオンだったよ! 街を抜けて森に入った! お別れの時だ!』
 機内放送でパイロットの声が流れる。
(どういうことだ? レギオンだったのか?)
 副パイロットが機内の壁に掴まりながら顔が曇る。
『不思議そうな顔してるな! フライト前お前の情報を大佐に売った! 高く売れたよ! 元同志としてお前を泳がせた! 爆破装置を起動した! 私は脱出する!」
 パラシュート装備したパイロットが操縦室を開け、機内後部に空いた穴に吸い込まれる。彼は不敵に笑い手持ちの銃で副パイロットの腕を数発撃ち、宙に投げ出された彼は嵐の中パラシュートを開いた。
(とんだ置き土産だ……)
 副パイロットの腕に銃弾が当たり、彼の制服が血で滲み腕を押さえて止血した。彼が腕の痛みで顔をしかめて手を離し後部ハッチに吸い込まれた。
 
 宙に投げ出された副パイロット。
 雨風に打たれ体温が下がり体力が奪われる。
(ここまでか……)
 強風でサングラスが飛び雨で傷口が滲み目を瞑る。
 
 遠くから淡い栗色のミディアムヘアでメカゴーグル付けリボン付きブラウスとチェック柄のジャケット着て背中にブースタースーツ装着して蝙蝠の翼が伸び、ジャケットと同じチェック膝丈パンツ穿いて黒白の縞靴下穿き、手足にパワースーツ装備した女の子が虹球に包まれブースター吹かし飛んで来て副パイロットの頭上で両手を広げた。
「レインボール!」
 彼女の両掌の真ん中にある球体が光った。
 副パイロットの身体が虹球に包まれ彼の身体が浮いた。
「ミサか、助かった」
 彼は少女を見上げ指から血が滴る腕を押さえる。
「嵐で軍用機見失ってた。ゴーグルの改良が必要みたいね。撃たれたのレオン? あたしのレインボール治癒できるから。それより裏切り者は何処かしら?」
 レオンの前にミサが降りてきて彼女は両手を腰に当てて遠くの軍用機に振り向く。
 遠くで軍用機が空中爆発した。
「迂闊だったよ。今頃奴はパラシュートで逃げてるはずた」
 レオンが胡座をかいて腕を押さえる。
「果たしてこの嵐であいつ逃げれるかしら? 後で拾うわね」
 ミサはブースター吹かして嵐の中に消えた。
 
 レオンが仰向けになり腕時計のスイッチを押すと虹球に映像が映り何処かの部屋の机で酒を飲んでいる女の上半身が映る。
「プロトタイプ消滅。ミサと合流した。帰還する。俺としたことがミサに助けてもらうとはな」
 レオンが腕の傷を押さえたまま額の汗を拭い深く息を吐く。
『随分遅かったじゃねぇか、レオン。ミサに助けてもらうほど手こずってたのかよ?』
 女が頰杖突き顔を赤らめグラスに酒を注ぎ吃逆した。
「まあな。雷の影響でプロトタイプが暴走したのは好都合だった。お陰で裏切り者に腕を撃たれたがな」
 レオンは腕を押さえたまま傷の痛みで片目を瞑り顔をしかめる。
『んだよ、裏切り者に撃たれるとかお前らしくねぇな。軍用機ごとぶっ飛ばせば良かったじゃねぇか。お前が仕掛けた爆弾が台無しじゃねぇかよ。つまんねぇな』
 女は一気飲みして机にグラスを乱暴に置くと酔い潰れて突っ伏し大きな欠伸した。
「闘いはこれからだ……」
『ミサの奴、ネロに首っ丈だよな。あいつのどこがいいんだよ。アタシには理解できねぇ……』
 女が机に突っ伏したまま吃逆して静かに寝息立て涎が机に垂れている。
 レオンが腕の痛みで顔を顰め気絶した。
 彼の虹球が雷に打たれ嵐の夜の森に消える。

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